2023/02/01 コラム

秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」を使った特殊詐欺…その手口とは

東京高等地方簡易裁判所合同庁舎



■共犯者に包丁で脅される

弁護人 「共犯者からも脅されたとは、どういうことですか?」
A男  「S男が、現金(30万円)とCCを持って、車の鍵を渡せと…台所から包丁出して、いいから出せ、どうなっても知らないぞって」
弁護人 「車は結局、持ってかれちゃった…S男に乗り逃げされちゃったと」

つまりA男は、強盗に入ったはずが、30万円とCCをS男に奪われ、自分の車まで奪われたのである。S男はそのCCで150万円を引き出し、逃げた。なのにA男の父親は、30万円のほかにS男が引き出した150万円を、さらに慰謝料として50万円を被害弁償した。声がでっかいだけじゃない、すごい父親だ。

裁判官(蛭田円香さん)はこんなふうに声をかけた。

裁判官 「私、やっぱり、あなた幼いなって感じる…今ふり返ってどう思ってます?」
A男  「常識のなさ、責任感のなさ、取り返しのつかないことになってしまって」
裁判官 「その認識、どれくらい実感としてあるのかなぁ…どうして自分が突き進んでしまったのか、あなたがほんとに分かっているのか…」
A男  「警察に相談したり、できることあったのに、責任感のなさ、常識のなさ、勇気のなさが…」

A男は弱々しい小さな声で、感情を込めず、漠然としたことをくり返すばかり。父親の自信たっぷりな大声とは対照的だ。A男は幼い頃から、頭ごなしの押しつけ教育を受けてきたのかなぁ、私は傍聴席でそんな想像をした。

求刑は懲役5年だった。強盗の法定刑は「5年以上の有期懲役」(刑法第236条)。5年は下限だ。懲役刑の執行猶予は、3年以下でないと付けられない(刑法第25条)。蛭田裁判官はどうするのか。

11日後、判決の期日も私は傍聴した。裁判官はA男を法廷中央に立たせた。A男の指が落ち着きなく揺れている。緊張しているのだ。

裁判官 「主文。被告人を懲役3年に処する。この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する」

酌量減軽(刑法第66条)により法定刑の下限を下げ、ぎりぎり執行猶予を付けられる懲役3年とした。ただし執行猶予(刑法第25条)は、つまり要するにA男がおとなしく暮らさなきゃいけない期間は、最長の5年とした。実刑(執行猶予なし)は免れた。父親による手厚い被害弁償が少なからず影響したはずだ。

リモート強盗の“統括者”は、襲う先をどう選ぶのか。それはもう、強盗目的にうってつけの名簿を“名簿屋”から買うのだろう。そのような報道がすでにある。

特殊詐欺の裁判では、架け子(電話で騙す役)のアジトから名簿が押収されたという話がよく出てくる。昔は「犯罪の陰に女あり」と言われた。今は「犯罪の陰に名簿屋あり」か。

文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から交通事件以外の裁判傍聴にも熱中。交通違反マニア、開示請求マニア、裁判傍聴マニアを自称。

ドライバーWeb編集部

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