2022/11/02 モータースポーツ

豊田章男社長「ラリーでは、音の要素がものすごく重要」…水素エンジンはWRCを救う!?

GRヤリスH2の排ガスは水蒸気のみ!

8月に開催されたWRCラリー・ベルギーで、トヨタは水素エンジン、つまり水素をガソリンの代わりに燃焼させる内燃エンジンを搭載したGRヤリスH2のデモランを実施した。豊田章男社長自らが“モリゾウ選手”として、実際のコースを走行。その勇姿をヨーロッパの観客、関係者らに披露したのだ。


●モリゾウ選手、こと豊田章男社長


●GRヤリスH2

2021年の富士24時間レースに水素カローラを投入して以降、スーパー耐久ST-Qクラスを戦いながら開発が進められている水素エンジン。本来ならクルマの使われ方、使われる地域、エネルギー事情、タイミング等々の様々な要件でカーボンニュートラルを実現するためのベストソリューションは違ってくるはずであり、BEV“だけ”ではない多様な技術で、そこを目指すべきだという考えの下、スピード感のある開発が可能なモータースポーツの現場で鍛えられ、技術を進化させてきている。


●水素カローラ。現在、外観はGRカローラベースへとスイッチ

特に水素は、太陽光や風力、さらにはバイオマス等々、様々な再生可能エネルギーから作り出すことができる。そして、それを水素エンジンに使えば、自動車産業が長年培ってきた内燃エンジン技術を活用することも可能になる。これは大きい。

さらに言えば、それなら今までクルマ好きがずっと慣れ親しんできたエンジンの音や振動を楽しむことができるというのも、大きなポイントと言っていいだろう。特にモータースポーツにおいては、五感を刺激する要素として音の存在は無視できない。私自身、それはよく分かっているつもりだったが、じつは先日、豊田章男社長のこの言葉に改めてハッとさせられたのだった。

「ラリーでは音の要素は、ものすごく重要だと思いますよ」

豊田章男社長、いやモリゾウ選手は、この5月に宮城県でのイベントで現行のラリー1規定のWRCマシン、GRヤリス ラリー1をドライブしている。ハイブリッド化された現行WRCマシンはピットを出て行くときなどには電気モーターだけで静かに走り出し、コースに出るとエンジンが始動。迫力あるエグゾーストノートを響かせる。

「あれはあれで演出としてはいいんじゃないですか」

静寂から爆音へ。ここでスイッチが切り替わるのが、音を通して伝わってくる。確かにコレはアリだ。


●GRヤリス ラリー1

「サーキットレースは混走して抜きつ抜かれつがありますので、音とかの五感は、重要ですけども、めちゃくちゃ重要ではない。ですがラリーは1分ごとに1台ずつ走ってきますから、音の要素はものすごく重要なんです」

改めての説明は不要かもしれないが、ラリーのSS(スペシャル・ステージ)はタイム競争であり、直接サイド・バイ・サイドで戦うわけではない。1分置きにマシンが出走していき、速いタイムを出したものがSSを制する。マシンは遠くから1台ずつ走り出し、近づいてきて、そして遠ざかる。

「ヨーロッパだと、あの辺に黄色いヘリ(カメラクルーのヘリコプター)が飛んでいるから、あそこ走ってるんだなとか、砂埃があるからマシンがそろそろ来るぞとか分かるんですけど。“先味”で楽しめるのは音なんですよね。音が聞こえてきて、目の前を通るときの音。そして自分の景色から消えるとき、視界からクルマは消えるけれど音の余韻は残るんですよ。それって、ラリーでは非常に必要な要素なんじゃないかなと思っています」

ハイブリッド化されたWRCマシンの今後の進化の方向性はまだ分からないが、現状の欧州のモータースポーツを含む自動車トレンドからすると、完全電動化の可能性は無いわけではないだろう。でも、それはラリーにとって大事な何かを失うことになるのでは? トヨタが、WRCラリー・ベルギーでGRヤリスH2を走らせたのには、こういうアプローチもあるはずだよというアピールの部分も大きかったのではないだろうか。


●GRヤリス ラリー1

WRCのトップコンテンダーとして活躍するチームを率い、自らも積極的にラリー参戦を続け、ラリーをこよなく愛するモリゾウ選手、豊田章男社長ならではの、ラリーへの愛情がそこには表れていたように思えてならない。

そんなラリーとサウンドの関係を、11月10日に開幕するラリージャパン2022では、生で体感するチャンスとなる。遠くから気配が感じられ、目の前に表れ、すぐさま駆け抜け走り去っていくマシンを観て、その音を実際に聞いて、未来のラリーの姿、トヨタの水素エンジン開発への熱意などに、思いを馳せてみるのもいいのでは?

〈文=島下泰久〉

ドライバーWeb編集部

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