2022/04/07 コラム

従来の文法を捨てて何を得た? 話題豊富なBMWの最新デザイン考察

まったく新しいBEVとして登場した、iXのフロントフェイス

BMWから登場したまったく新しいBEV(電気自動車)、iX。BEVのi3とプラグインハイブリッドのi8でプレミアムブランドとして電動化の先鞭をつけたBMW、スタッフの離脱などもあって次の動きまでには随分時間がかかったわけですが、いやはやこれは大胆な1台です。


●BMW iX(海外仕様)

そもそも車名に数字がつかないBMWは、ブランドの未来の方向性を指し示すモデルと位置づけられているそうです。それが端的に表れているのはインテリアで、今までのようにドライバーを取り囲むコクピット感覚ではなく、低いフードを生かしていてとても開放的な、ある種リビング的な感覚に仕立てられています。


●BMW iXのインパネ(海外仕様)

まあ、こうした開放感だったりマテリアルの使い方は最近のトレンド的なところでもあるので、それだけで驚いたわけではないのですが、このiXは走らせてみても、やはり落ち着きや寛ぎといった言葉が似合う感覚で、乗り心地はふんわりだし操舵感などもユルめ。軽量ボディに高出力なので加速はスゴいし、曲がるか曲がらないかと言ったらとてもよく曲がるのですが、クルマとの一体感を味わうという感じではないんですよね、BMWなのに!

実際、ステアリングホイールなんて六角形ですからね。ちゃんと9時15分で握ろうとしてもしっくりこなくて、ああコレはもう自分で運転を楽しむクルマじゃないよっていうメッセージなんだなと思って、驚いたというか、呆気にとられたというか、そんなわけなのです。


●BMW iXのフロントシート(海外仕様)


●BMW iXのフロントシート(海外仕様)

きっと将来クルマは運転するものではなくなる。そのときに求められるのは、こういう特急列車のプレミアム席みたいな感じとBMWは腹を括ったんだなというのが正直な印象です。いやはや、自分で買うクルマにまで皆、それを求めるようになるのか、私にはまだ半信半疑ですけども。

好きか嫌いか、納得するかしないかはともかく、内装と実際の走行感覚、そしておそらくは基本となるコンセプトはとてもマッチした印象だったiX。気になったのは、じゃあエクステリアはどうなんだ? ということでした。


●BMW iX(海外仕様)

フォルムは典型的なSUVですが、薄型のヘッドライトと縦型キドニーグリルを用いたフロントマスクは確かに未来感があるし、やはり薄型のテールランプもサイバーな雰囲気ではあります。でも、室内で感じるのは落ち着きや寛ぎなのに、周囲に対しては相変わらず威圧的なんですよね、そのグリルひとつとっても。

このiXに限らず近年のBMWのデザインが、従来の文法を捨て去り、新しい表現をしようとしているのは確かです。かつてはキドニーグリル、丸型4灯ライト、フロントからリヤまで一直線のショルダーラインに、ホフマイスターキンクと呼ばれるリヤクウォーターウインドウ後端の形状、そしてL字型のテールランプというお約束があり、それがどんなクルマもBMWに見せていたわけですが、今の世代のモデルはそれらを全部ナシにしてしまいました。

いつまでも古い文法にこだわっていると新しい表現がしにくいというならば、伝統にこだわり続ける必要はないと私も思います。でもiXだったりその他の最近のBMWを見ても、それらを捨て去った代わりに圧倒的な何かを手に入れたとまでは、正直思えないんですよね。


●左がM4、右がM3(海外仕様)

大型キドニーグリルで物議を醸した新型M3/M4も、むしろ個人的には緊張感のないボディのサイド面の方が気になるところでして。意地でも取るんじゃなく、必要ならショルダーライン引けばいいのに、なんて思っちゃうんです。


●左がM4、右がM3(海外仕様)

そこに明確な意味やストーリーが透けて見えるなら、どんどん変わっていけばいい。でも、変えるために変えるのはナシでしょう、ブランド商品は、ユーザーとの信頼関係が重要なんですから。

カタチの話が、単にカタチだけの話には留まらないというのは、まさにiXのインテリアが示しているとおり。未来のクルマがどんなカタチになるのかはわかりませんが、仮にリビングルームのようなものになっていくのだとしたらなおのこと、特にプレミアムブランドのクルマは、確たる説得力をもったデザインであるべきだとあらためて思う昨今なのでした。

〈文=島下泰久〉

ドライバーWeb編集部

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