2022/02/07 コラム

「運転しにくい…」と現役バス運転手激白! 最新路線バスの実情とは

●バスも旧車が人気なの!?

皆様こんにちは。路線バス運転手のトランスポン太と申します。みなさんの足として利用されている路線バスですが、現在、国内で新車の路線バスを製造しているメーカーは2社。さらに私の所属する会社が主力としている中型となると事実上のワンメイク状態。しかも走りにくいと不評なのです。弊社では古いバスも現役で走っており「やっぱり旧車がいいねぇ」なんてみんなで言っています。一体、新車のどこが問題なのか、実情をお伝えします。

現在ワンメイク状態の中型バス

現在、日本のバスメーカーは路線バスに限ると基本的には三菱ふそうとジェイ・バスの2社です。ジェイ・バスとは聞き慣れないかもしれませんが、日野といすゞの合弁会社。ここで製造されたバスが日野といすゞで販売されています。

私の所属先の路線バスは中型が主力です。ちなみにここでいう中型とは、免許区分ではなく車体サイズのこと。中型は全長が7〜9mのバスを指します。この中型路線バスを現在製造しているのはジェイ・バスの一社。車名で言えば日野・レインボーといすゞ・エルガミオで、同一車種です。不評なのはこの現行レインボー/エルガミオ兄弟。では一体どこが不評なのでしょうか。

実用域でトルク不足の4気筒ターボエンジン

一般車にはダウンサイジングターボエンジンが浸透しましたが、それはバスも同じです。レインボーもエルガもどちらも4気筒のディーゼルターボエンジンを積んでいます。ちなみに排気量は5.2L。メーカーは環境対応とうたっていますが、実際運転してみると…。

弊社では旧型のバスが現役です。過走行を気にする人なら目ん玉が吹っ飛ぶような200万km選手もピンピンしています。そんな旧型のエンジンは排気量約8000cc直6の自然吸気。年式により諸元の差は多少ありますが、特性はほぼ一緒です。

おそらくどのバス会社でもそうですが、運転時はエコの観点からなるべくエンジン回転を抑えて運転するよう運転手に指導するはずです。ちなみに、国交省が策定している指導マニュアルにもそう書いてあります。

バスのタコメーターにもエコゾーンの表示があり、おおむね2000回転以下だと思います。旧型の場合、1000回転〜2000回転の間にパワーバンドがあるため、エコゾーンに回転を合わせていれば、なんの苦もなく運転が可能です。低速トルクも太く、坂道もガンガン登っていきます。自然吸気なのでアクセルレスポンスもよく、例えるなら髪の毛一本分の調整が効きます。

しかし、最新型の4気筒ターボはそうはいかないのです。ドッカンターボ気質で、低回転はスカスカ、1800回転まで上げて初めて実用域のトルクが出てきます。ターボが効いた瞬間あっという間に吹け上がるので、2000回転を簡単に超えてしまいます。そんなエンジンなので、アクセルレスポンスもわりとルーズ。旧型に比べて扱いづらいエンジンです。

オートマしか選べない

前述の扱いづらさをさらに助長しているのがトランスミッション。現在のバスは、運転の負担を軽減しようという国の方針でAT車の導入が推奨されています。実際、現在のバスはほぼAT車しか売られていません。私がふだん乗る中型路線バスももちろんAT。これがやはり扱いづらいのです。

このATは、一般車のようなトルクコンバーター方式ではなく、構造は通常のMTで、その変速を自動化したもの。変速の際、トルコンATやDCTのようにすぐに次のギアにつながるのではなく、1.5秒ほど時間がかかります。この変速のタイミングが運転手の感覚とずれて気持ちが悪いのです。

特に発進時に気を使います。先ほども言いましたが、4気筒エンジンの低速トルクが薄いため、発進時はどうしても踏み込みがちになります。そうすると、会社推奨の2000回転のリミットを一瞬で超えてしまいレッドゾーンまで一気に吹けます。後続車がイライラするほどゆっくりと発進しないと2000回転で変速してくれないのです。これがMTであれば強制的に2000回転で変速できるためまだ扱いやすい。ちなみに私の路線は地方の山岳路線です。この低速トルクの薄いパワートレーンでは吹かさないと山を登りません。

ちなみにこの4気筒エンジン、ターボが効いた高回転域のパワーとレスポンスはピカイチです。それはそれは別のエンジンになったと思うほど。低回転と高回転でこの差をなくすよう設計をして欲しいと願うばかりです。

効果を疑うCO2削減機構

ジェイ・バスの中型はダウンサイジングターボエンジンを搭載し、アイドリングストップ機能も付いているエンジンなので、額面上はCO2削減に寄与する環境対応のエンジンです。しかし疑問も。現在のバスに使われるディーゼルエンジンは、一定距離を走る毎にエンジンをかけっぱなしにする必要があります。なぜなら触媒内に閉じ込めたススを燃料で燃やし、尿素水(アドブルー)で無害化するためです。

ある程度ススが溜まれば運転中に自動的に焼いてくれるのですが、この間はエンジンを止めてはいけません。止めると故障します。これが最終バスで営業所に帰ってくる直前に燃焼に入ってしまうと最悪。運転手は焼き上がるまで帰れません。焼き初めから完了まで、時間にして30分ほどかかります。

燃焼状態ではアイドリングストップもできず、停車中に手動で焼けば30分のアイドリング。しかもエンジン回転がある程度上がります。エコとはなんぞやと感じます。エコ性能を詰め込んだ結果、チグハグなエコ性能になっていると感じます。

ぜひ現場の声を取り入れてほしい

最新のバスですから、もちろん法令やもろもろの基準はクリアしています。とはいえ、乗るのは人であり、運転するのも人。ぜひ現場の声も拾いながら改良を続けてほしいと思います。

安全運転には、クルマ自体の運転のしやすさも多分に影響します。ぜひ現場のプロの意見も取り入れた柔軟な設計とオプションの準備をお願いしたいところです。

〈文=トランスポン太(バス運転手)〉

ドライバーWeb編集部

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