2021/11/08 旧車

乗り手を選んだポルシェ911の記憶[driver 1989年2-5号より]

driver1989年2-5号より

自動車雑誌ドライバーが過去に取り上げた記事が今に蘇る「DRアーカイブ」。今回は1989年2-5号に掲載した「ポルシェ911」を振り返る。

※文中の年代は、当時のまま掲載しています



人間の意思どおりに動くクルマは、理想かもしれない。だが、従順なだけのクルマが面白いだろうか——1963年秋に誕生して四半世紀を経た今も、スポーツカーマニアの心をとらえて放さない魅力を持つクルマがある。頑固で、妖しい、伝説の存在。ポルシェ911は、マニアを誘う。

■“今”を考えさせる911の力



「うーむ」と思わずうなってしまった。モデルイヤーにして16年の隔たりがある‘73カレラRSと‘89カレラを目の当たりにし、乗り味を確かめた後の実感は“やはり911は911”だ。


●‘89カレラ(左)と‘73カレラRS

911は、デビュー以来、すでに25年を経過したクルマだ。なのに、現実の“今”に存在し、時を無視するかのように911であり続けている。しかも、その走りは最新のハイパフォーマンスカーと比べても遜色がない。それどころか、十分に魅力的でさえあるのだ。

考えてみれば、この事実はまったくもって不可思議に思える。国産車は毎年のようにニューモデルラッシュが続き、それこそ2代前のモデルはかなり時代遅れに感じられる。正直いって、911もイメージはもはや「古典」に属するが、中身は間違いなく「現代」に通用する。

‘73カレラRSのエンジンは、2.7Lから210馬力を発揮。とくに高回転域、5,000回転を超えてからのパワフルさは痛烈だ。高速道路で3速フル加速するときには、そのスピード感の変わりように目を大きく見開かされてしまう。

ごく当たり前の2バルブOHCでありながら、なんの引っかかりもなくトップエンドの7,200回転まで回る。吹き上がりの勢いは、とても2.7Lという大排気量エンジンとは想像がつかないほど軽く、レスポンスの鋭さも抜群だ。

にもかかわらず、イタリア製のエキゾチックカーのような線の細さがなく、ハイチューニングエンジンの気難しさとも無縁だ。中回転域でも申し分のないトルク感が得られ、低回転のフレキシビリティもしっかりと確保されている。


●‘89年式のインパネ。デザインは基本的に四半世紀も不変。ドライバーに正確な情報を伝える

試乗車はポテンザRE71を装着していたが、満16歳に達した‘73カレラRSが、最新のハイパフォーマンスタイヤを履きこなしてしまうのにも驚かされる。当時のタイヤと比べれば格段にグリップ性能が向上しているはずなのに、足が負けていない。

‘89カレラも、‘73カレラRSと比較すれば走りはより洗練されているが、25年間にわたって培われた911の持ち味は、基本的に変わっていない。

逆に、911側に立って最新のハイパフォーマンスカーを眺めてみると、不可思議なのは“そっち”のようにも思えてくる。ツインカム4バルブや電子制御サスペンションは、いったい何だったのだろうか。進歩は、じつは虚像ではなかったのか……と。


911カレラ(1989)●1963年にフランクフルトショーでデビューした911。基本的スタイルを変えることなく今に至っているが、綿々と改良が重ねられている。‘89モデルのフラット6は3.2L、225馬力を発揮。リヤのリムが8インチとワイド化。環境保護のため、パーツから石綿を除去。価格は985万円


911カレラRS-2.7(1973)●911S-2.4を発展させた911で“カレラ”の名を最初に冠したモデル。排気量は2.7Lで210馬力を発揮。幅広のフェンダー、ワイドタイヤ、“ダックテール”のスポイラーが特徴。当時、世界中のレースで勝利を重ねた栄光のモデルだ。現在、大変なプレミアムが付いて中古車店に並ぶこともある

ドライバーWeb編集部