2021/08/20 新車

【V8サウンド健在!】FR→ミッドシップへと進化した新型コルベットは、なにが変わったのか?【輸入車ニューモデル試乗】



今年一番の話題のマシンといっても過言ではない、注目モデル「C8 コルベット」。エンジン搭載位置を伝統のフロントミッドからリヤミッドへと変更してきた、その気になる走りを、レーシングドライバー木下隆之が試す。


最初に感じたのは落胆だった



僕が新型コルベットの姿を目にしたのは確か、2019年の冬。河の流れさえも凍るような厳寒の1月、米国で開催されたデトロイト自動車ショーの会場だった。

【画像ギャラリー】ミッドシップスポーツカーへと変貌した、シボレー 新型コルベット(全27点)

ゼネラルモーターズ(GM)本社とコンべンションホールとは、すぐそばに寄り添うように近い。経営的に政府の救済を受けたGMは復活の兆しを見せており、会場は熱狂に包まれていた。寒さを忘れるような熱い視線のなかアンベールされた新型コルベットは、大歓声に包まれたのである。

C8コルベット

それも道理だ。コルベットはGMが誇る最強のスポーツカーであり、メーカーという枠を超えて愛されるアメリカの至宝でもある。シュリンクした企業業績を活気つかせるカンフル剤でもある。大歓声とスタンディングオベーションは、期待の高さの裏返しであろう。

ただし、舞台裏では落胆の声が聞かれたのも事実。というのも新型コルベットは、これまでC1型からC7型まで脈々と受け継がれた「コルベットの形」ではなく、ガラリと意匠を変えて登場したからである。

歴史の流れをくむことは、コルベットの「C」に続く数字がひとつ増えた「C8型」と呼ばれていることでも理解できる。だが、伝統を断ち切るように、搭載するエンジンはフロントにはなく、ミッドシップにマウントされていた。大歓声は新しい扉を開こうとしている新生コルベットへの期待であり、落胆のため息は伝統に対する裏切りの嘆きである。

C8コルベット

前後に伸びやかなロングノーズ、極端にコンパクトなショートデッキ、意外にコンパクトなキャビン、太いタイヤ……。そんなコルベットのアイデンティティを潔く捨て去り、フェラーリやランボルギーニといったイタリアンバイオレンスと同じベクトルに舵を切った。新型コルベットは歴史に区切りをつけた。じつはかつてコルベットを所有していた僕も、同様に落胆したひとりである。



らしさを捨てることなく



ただし・・・。

2年遅れて日本導入になったミッドシップのコルベットをドライブして、嘆きは薄くなり笑顔が浮かんだ。コルベットはけして魂を捨てたのではなかったのである。

例えば搭載するエンジンは、V型8気筒6.2LのOHV。名機とされているスモールブロック「LT2」を積んでいる。排気量を下げたのではなくターボチャージャーにすがったわけでもなかった。低回転から怒涛のトルクを絞り出す大排気量NAエンジンであり、DOHCでもない。高回転まで驚くほど軽々と回し切るOHVである。ライバル勢がこぞって、環境性能という大義名分にダウンサイジングするなかで個性を貫き通した。

C8コルベット 

ドライブした印象も、かつてのコルベットのDNAを色濃く残すものである。スタータースイッチを押せば、ヴァオンとひと吠えしてから500回転前後の超低回転域でドロドロと不気味なアイドリングを響かせる。獰猛なコルベットの世界に引きずり込まれるのだ。

LT2はOHVであるのにも関わらず高回転までパチンと弾ける。最高出力は502馬力/6450回転、であり、最大トルクは637Nm/5150回転。ツインターボが常態化しているハイパワーウォーズのなかではもはや腰を抜かすほどの数値ではないが、ひとたびアクセルペダルを床まで踏み込めば、猛々しく突進するのは想像以上だ。

そもそもアイドリングからして殺気立っている。オートマチックから2ペダル8速ツインクラッチに換装されたミッションをDレンジにエンゲージした瞬間に、先を急いで駆け出そうとするのだ。

ブレーキペダルに足を乗せていても、ジリジリと前に進み始める。ローターとパッドが擦れ、不気味な異音を発する。いまにも手綱を引き千切って突進しそうな気配である。


ドライバーWeb編集部・青山

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