2021/06/04 モータースポーツ

いろいろ分かってきた…トヨタ水素エンジン、その速さの秘密【前編】

●24時間レースで合計1634kmを走りきった



開発陣があげた、3つのポイント



それに対して「ORC ROOKIE Corolla H2 concept」が積む直列3気筒1.6Lターボエンジンは、4月28日に行われたテストの時点で、開発陣によれば市販車つまりGRヤリスRZの272psに、ほぼ匹敵する出力を発生していたという。今回はさらにレブリミットを500rpm引き上げてきたというから、より以上のパワーが得られていた可能性が高いのだ。



かつての水素エンジンのイメージを覆すパワーは、一体どのように得られたのか。今回、さらに突っ込んで話を聞くことができたので、その秘密に迫ってみよう。

「ポイントを3つ挙げるとすれば、過給機、筒内直接噴射、そして燃焼室内をいかに冷やしてやるかというところだと思います」

簡潔にそう答えてくれたのはトヨタ自動車 パワートレーンカンパニー 第2パワートレーン選考開発部 主査の小川輝氏。他社のことはわからないながら、との前提で教えてくれたパワー獲得の秘訣である。


●水素エンジンのイメージ図

まず過給機。じつは水素は理論空燃比では要求する空気の量が大きい。言い換えれば空気の量が決まっている場合、ガソリンより少ない量しか混ぜ合わせることができないから、パワーが出ない。そこで出番となるのが過給機。空気を強制的に押し込むことができれば、一緒に燃料も多く突っ込める。つまりパワーを出せるというわけだ。

過給機は今後リーン燃焼化を狙っていく上でも大きな頼りになる。水素は着火性に優れるため空気をたくさん押し込んでも、しっかりよく燃えてくれる。つまり圧倒的なリーンバーンにより燃費を稼ぐことができる可能性、大きいのである。



続いて筒内直接噴射、いわゆる直噴。水素の着火性はガソリンの12倍と言われ、つまり12倍早く着火してしまう。従来のポート噴射だと、吸気ポートに燃料を吹いた瞬間、意図せず着火してしまうといった異常燃焼(プレイグニッション)への対処が課題となっていたが、直噴ならば必要な瞬間に必要なだけの燃料を吹くことができるため、プレイグニッションを防ぎやすくなる。これにはトヨタがD4として展開してきた直噴技術、特にデンソーのインジェクター技術が大いに貢献しているとのことだった。

じつは質疑応答の際には、プラグ点火となってはいるが、実際には燃料噴射のタイミングがイコール点火時期なのではないかという質問が出た。それに対する小川氏の答えは「鋭い、という以上は控えさせてください」というものだったが、あとで改めて聞いたところでは、あくまでプラグ点火であり自着火はさせていないとのことだった。プレイグニッションが起きない、プラグ点火とほぼ同時のタイミングを狙って、ぴたりと燃料=水素を吹いている。そんな風に解釈するのがよさそうである。

長くなってきたので、今回はまずはここまで。残る燃焼室内の冷却についての話、そして燃費への考察などについては、続編でお伝えしたい。

【後編に続く】

〈文=島下泰久 写真=難波賢二〉

ドライバーWeb編集部

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