2021/05/26 コラム

歩行者が譲ってくれたから横断歩道を通過…これも違反なの?|交通違反グレーゾーン|

●横断歩行者から譲ってもらえた場合はどうなる?


警察官の“虎の巻”ではどのように説明?



最も詳しくて警察官諸氏の“虎の巻”でもある『執務資料道路交通法解説』(東京法令出版。上下2段組でなんと1556ページ!)には、アウトかセーフか言及がない。車両が接近してから車両後部が通過するまでに、歩行者が歩行の速度を変えるとか、立ち止まるとかしたら通行を妨げたことになる、といった解説はあるものの、歩行者が先をゆずって立ち止まったケースについては言及がない。そもそもそういうケースを想定していないようだ。

というか、そういうケースではクルマの側は、通行を妨げる行為を何らしていない。歩行者の側が先を譲ろう思って立ち止まっても、あるいは極端な話、包丁を握った通り魔を前方に見つけて立ち止まっても、第38条第1項後段の違反は成立しない。私だけじゃなく検察官も裁判官もそう考えるでしょ。

ただし、である。警察は近年、「交差点違反」の取り締まりに力を入れている。一時不停止の取り締まり件数は2019年に速度違反を抜いてトップに躍り出た。歩行者妨害の取り締まりは、2010年は約6万4千件だったのが2020年は約29万件へと激増している。現場の警察官諸氏は「交差点違反を取り締まれ」と上から尻を叩かれていると思われる。

尻を叩かれ(ノルマを課され)れば、なんでもかんでも高圧的に取り締まる警察官が出てきかねない。警察官も人間だし、何よりほとんどの運転者は「おかしいぞ」「納得いかない」と思っても、取り締まられたらしょーがないと反則金を払ってしまうからだ。歩行者妨害の反則金額は、大型車が1万2千円、普通車が9千円、二輪車が7千円、原付車が6千円。運転者がどんなに納得いかなくても、反則金が納付されれば、取り締まりは正しかったものとして終わる。

反則金は「違反は認めます。早く処理を終えてください」という人のための特別なペナルティ。納付は任意だ。納付しない人もいる。納付しなけば刑事手続き(刑事訴訟法による手続き)へ進む。その先の細かな説明はここでは省略するが、反則金不納付の事件は統計的にはほぼ100%、検察官により不起訴とされる。起訴(公判請求)されるのは、担当の検察官と感情的にケンカのようになってしまい、かつ、ご当地の検察庁も裁判所もだいぶひまだとか、特殊な場合かと思われる。

裁判になれば、違反者は被告人と呼ばれる。被告人を有罪にするために検察官が何通もの証拠書類を取調べ請求する。たぶん甲1号証は、取り締まりの警察官が作成した「現認状況報告書」で、こんなふうなことが書かれているだろう。

「違反車両は歩行者に気づくのが遅れたか、急ブレーキをかけた。車体前部が明らかに沈み、横断歩道に50センチほど入って止まった。歩行者は驚いた様子で立ち止まった。違反車両をにらみながら歩き去った。50代ぐらいの女性で紺色の日傘をさしていた」

真実、横断歩道の手前で停止した被告人は「こんなインチキ報告書は認められない!」となるだろう。そうすると、取り締まりの警察官が証人として出廷する。真実のみ述べると宣誓したうえで、警察官は報告書の内容と同じことを述べるだろう。丸暗記した内容を棒読みする警察官もいる。

ドライバーWeb編集部

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