2021/04/30 ニュース

ホンダ 2040年にエンジン車全廃…それってホント? “エンジン屋”三部敏宏 新社長の発言を紐解く

●ホンダの新社長、三部敏宏氏

4月23日はホンダを新たに率いる三部敏宏さんの社長就任会見に出席することができなかった。夕刻、何気なく開いたウェブサイトで「ホンダ 2040年にエンジン車全廃」の報に触れ、衝撃を受けた。

ホンダといえば、エンジンである。

終戦直後に本田宗一郎が初めて手がけたのは、自転車用補助動力の「ホンダA型」。1960年代には日本初のDOHC採用で4輪業界に進出、さらにはF1グランプリへの挑戦で世界の注目を集めた。1972年にはCVCCを開発し、達成不可能とさえいわれた米マスキー法を世界で初めてクリア。1989年からはVTECを駆使し、量産ガソリンNAの常識を覆すハイパワーと低燃費を実現した。ハイブリッド車(HV)で電動化を推進してからも、ホンダはトヨタ以上にエンジンを主役とした。


●ホンダA型(1947年)

創業以来、ホンダを独創的かつ革新的なホンダたらしめてきたのは、やはりまずエンジンなのだ。

新社長の三部さんはまさにエンジン開発出身で、本田技術研究所の社長を歴任したホンダ本流の人物。2月19日に行われた社長交代の会見では、特に思い出に残る仕事の一つとして、1990年代に世界一厳しかった米カリフォルニア州排ガス規制に向けたSU-LEV(Super Ultra-Low Emission Vehicle)を挙げ、開発に成功したときの感慨を吐露している。

そんな“エンジン屋”が新リーダーになった元来“エンジン屋”のホンダが、2040年にはエンジン車を全廃し、全世界で販売するクルマをすべて電気自動車(EV)および燃料電池車(FCV)にするというのだ。

昨年、ホンダが2021年シーズンでのF1参戦終了を決定した理由を、前社長の八郷隆弘さんは「F1で培ったさまざまな技術や人材を、将来のパワーユニット・エネルギー領域に投入するため」と説明した。2050年のカーボンニュートラル実現に向けたホンダの選択と集中だが、ほかにもeフューエルや再生可能エネルギー由来の次世代液体燃料が実用化されれば、どのメーカーにも既存のエンジン車でそれを達成できる可能性がある。


●ホンダは2021年シーズンを最後にF1の参戦を終了する

筆者はエンジン信奉者ではないが、目的達成の手段として持てる選択肢は多いほうがいい。そのオプションをエンジンで鳴らしたホンダが捨て、国内メーカーで最初に「脱エンジン」に名乗りをあげるとは! 将来、EV用バッテリーの価格が大幅に下がり、充電設備などのインフラが整えば、パワートレーンの部品点数や生産工程が多いエンジン車は最終的に淘汰されるということか。

2017年に世界でいち早く全モデルの電動化を公表したボルボは今年3月、2030年までに全モデルのEV化を目指すと発表。2月にはジャガー・ランドローバーが、 ジャガーを2025年にピュアEVのラグジュアリーブランドへ生まれ変わせることを明らかにしている。

ホンダよ、お前もか!? 事業規模の大きさからボルボやジャガーより時間は要するが、新規のエンジン開発はいつ頃ストップするのか。欧州で始まったEVシフトという大変革の轟音が、足元の日本でもはっきり聞こえた気がした。

ホンダがホンダではなくなってしまう…。感傷的な思いすら抱きながら、社長就任会見の様子を動画サイトで確認した。すると…。



三部さんはスピーチの最後に、さらに次の夢として空、海洋、宇宙などの研究を本田技術研究所で進めているとし、その取り組みを示唆するショートアニメーションを披露した。

舞台は2030年以降の臨海都市。高層ビル群を背景に電動航空機が飛び、路上を自動運転と思しきバスが走り、海では動く展望ビルや多目的ドームなのだろうか、不思議なカタチの建造物が水面をゆっくり進んでいる。遠くに見える平野からはロケットが打ち上げられ、見上げる先には人工衛星が浮かんでいる。




●ホンダのYouTube公式チャンネルより

世界でもっとも多彩なモビリティを提供してきたホンダは、地球環境に負荷をかけないクリーンエネルギーでその世界をさらに拡大すべく、新しい挑戦を始めるというのだ。実際、会見後にはテレビ番組で、小型ロケットの研究を数年前から始めたことを明かしている。

ホンダジェット(アニメーションにも登場する)を実現したように、ホンダがまた新たな夢を追い求め、ユニークな発想と優れた技術力で一つひとつ現実のものにしていく。クルマ好きやホンダファンでなくても、その姿に胸を躍らせたり勇気づけられたりする人は少なくないだろう。

またスピーチ後の質疑応答において、三部さんは今回の脱エンジン路線の“真相”についても言及している。
いわく、2040年に全車EV・FCV化を目標としたのは、排ガスをゼロにできる手段で現在手の内にあるのが、その2つだから。将来、新しい技術ができれば、それも加わることになるという。



「今日時点では(狙いが)ボケないように、あえてEV・FCVという言い方をしました。一番大事なのは、2050年のカーボンニュートラルを目指すこと。全固体電池などの新しい技術が実現すれば、シナリオもいろいろ変わってくるだろうと思います」(三部さん)

前日の22日には日本自動車工業会の記者会見で豊田章男会長(トヨタ社長)が、前述のeフューエルなども含めた「日本らしいカーボンニュートラル実現の道筋」について述べている。三部さんも基本的に同じ考えであり、そうした選択肢を捨てたわけではまったくないという。

また、同じ22日には、トヨタが水素エンジン搭載のカローラ スポーツでスーパー耐久の富士24時間レース(5月21~23日)に挑戦することを発表。F1参戦終了後のレース活動について問われると、勝負ごとは今までどおりベストを尽くすが将来の計画はまだ決めていないとしたうえで、「今後、電動化をキーワードにした新たなカテゴリーのようなレースができれば、当然検討していく」と意欲を見せた。

三部さんには2017年のシビック国内導入時に、ちょっとだが話を聞く機会があった。今回の会見もそうだが、1つ聞いたら10とはいわないまでも、3から5くらい答えてくれる印象がある。それは饒舌とかサービス精神というのではなく、事実を誤解なく理解してほしいという誠実な願いの表れのように筆者は感じる。

今回の会見で示されたのは、ホンダが2050年にカーボンニュートラルを実現するための、4輪車電動化の具体的な販売比率目標。日本市場では、まず2030年の全車電動化、うち20%のEV・FCV化を目指すことになる。ガソリン車はHV化されていくだろう。そしてエンジンの行く末は、まさしくコスト面を含めた技術革新にかかっている。

「ただ自動車においては、特殊車両やドライビングを楽しむ用途ではエンジンが残る可能性は十分ありますが、マジョリティとして(EVに)置き換わるかというと、個人的にはかなり難しいと思っています」(三部さん)

エンジン開発のスペシャリストが言うだけに説得力アリだが、いずれにしろエンジンはきっと死なず。

じつは、ボルボも切り離したエンジン部門を、親会社ブランドである吉利汽車の同部門と統合する計画。ジャガー・ランドローバーも、ランドローバーブランドのEV化も積極的に進めるものの、EV比率は2030年で60%(つまり40%はエンジン搭載車)としている。エンジンを手の内から完全に葬り去るわけではない。

三部さんは自身が考える「ホンダらしさ」について、「本質を考え抜いた末にたどり着く価値」、そして「独創性」を挙げた。我々がホンダに期待するのも、まさにその2つだ。さらにいえば、それはほかの日系自動車メーカーに対しても同じである。

ホンダには環境問題への取り組みでその「らしさ」を遺憾なく発揮し、日本を正しい道筋へ導く力の一つになってほしい。そして、ホンダが本当にホンダらしくあれば、将来のモビリティはエンジンの存続にかかわらず、今よりもさらに安全で、便利で、楽しいものになっていくに違いない。



〈文=戸田治宏〉

ドライバーWeb編集部