2021/01/27 コラム

燃費最優先の時代は終わった? 数値を追いすぎない開発で日本車が急成長中!|木下隆之の初耳・地獄耳|

「最近、クルマの数値が語られること少なくないっすか?」 
編集担当のKがそう言いはじめた。
「特に、燃費に関して、あまり聞かなったっすよね」
なるほどである。担当のKも、たまには的確なことを口にするのである。

かつてハイブリッドが世に出まわりはじめたころ、どのメーカーも燃費性能の優秀性を競っていた。特にトヨタ プリウスとホンダ インサイトの燃費バトルは壮絶で、0.1km/Lでもライバルを超えたくて、非現実的な仕様を投入したりもした。競い合いが技術開発を活性化させることはいい。高度な技術の誕生には、ライバルとの激烈な競争が欠かせないとは思う。巡りめぐって、地球に優しいクルマが誕生するわけであるし、僕らユーザーにもメリットがある。だが、ときには本質を見誤った数値至上主義が止めどなくヒートアップすることがあったのだ。

「あんな仕様って、誰も買わない、ってグレードがありましたね」
テストで良好な燃費を記録し、国土交通省が認めることでその数値がカタログ公表値になる。優れた数値を稼ぐために、ただならぬスペシャルグレードを設定することもあったのだ。

「グリップ無視の超燃費タイヤを設定していたし、装備を徹底的に簡略化させた軽量グレードでね、それでもあまり売れると生産がタイヘンだから販売価格を高めにしてね、結局誰も乗らないんだけど、それがそのクルマの最高燃費を記録するって話ッスよね。プロモーション的にはインパクトがある」

「それならばまだいいほうなんだよ。燃費を稼ぐために、デフやミッションのギア比を細工するってことも横行したよね」

本来の走りやすさをスポイルさせてまで、燃費を稼ぐための設定にしていたのだ。アイドリングストップモデルなどは、完全停止するはるか前からエンジンカットさせた。だから、速度が0km/hになる前に再加速するときなど、ドライバビリティが悪くなる。お客さんからは不満の声が届くし、僕らのような辛口系ドライバーから不具合を指摘される。担当の開発陣は辛い思いをしたという。現場をよく知る開発担当者が不満を口にしても、ユーザーの声の届かない開発責任者や会社の上層部が首を振らなければ、改善は厳しいからね。

「ただね。それじゃ本末転倒だって開発スタイルが浸透しつつあるんだよ。数値目標を優先しない開発者が増えてきたんだ」
「それはいい話ッスね」
「トヨタのRAV4 PHVの開発責任者のS氏などは、自らが開発燃費の数値知らなかったね。いやじつは知っていたのかもしれないけれど、無頓着だった」
「数値にとらわれない開発スタイルッスね」
「燃費はいいほうがそりゃいい。だけど、数値を追い過ぎて走りを疎かにするのはダメだってね。指示したらしいよ」
「いい話ッスね」
「日産の開発者であるN氏も同様なことを口にしていた。彼、かつてはGT-Rの開発もしていて、いまはルークスの担当をしている」
「なかなかいい時代になったものッスね」
 日本車がずいぶんとよくなったのは、それが理由の一つだろうね。

「ところで、キノシタさんのクルマ、燃費はいくつでッスか?」
「カタログ数値なんて知るわけないよ。基本、走り重視だから…」
「実用燃費はいくつッスか?」
「平均6.0km/lだよ、V型8気筒5リッターからね」
「ちょっとは燃費を気にしたほうがいいかもッスね」

〈文=木下隆之〉

ドライバーWeb編集部

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