2020/12/22 ニュース

ラクダの足にヒントが!? 月面で活躍予定の「ルナ・クルーザー」用タイヤは、なぜゴムではなく金属製なのか?

ルナ・クルーザー用のタイヤはブリヂストンが手掛けている



最近、宇宙関係の話題が多い。小惑星リュウグウへのタッチダウンに成功した、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の小惑星探査機「はやぶさ2」のカプセルが無事地球に帰還した。その後カプセル内部に黒い砂粒状の物質が確認でき、その重量は計画収量の54倍にもなる約5.4グラムだったことがわかった。物質の分析も気になるが、カプセルにはまだほかの物質が収納されている可能性があるというから期待がふくらむ。



はやぶさ2は、小惑星リュウグウの探査だったが、2019年に発表されたトヨタが国際宇宙探査ミッションへ挑戦することを覚えているだろうか。これもJAXAの国際宇宙探査ミッションで、月に人が行くというものだ。その月面で使用される乗り物が「有人与圧ローバ」なのだが、装着されるタイヤ開発を担っているのがブリヂストン。20年8月にはトヨタが、燃料電池車両(FCV)の技術を用いた月面でのモビリティ「有人与圧ローバ」の愛称を「ルナ・クルーザー(LUNAR CRUISER)」と命名。徐々にルナ・クルーザーの仕様がわかってきた。

ブリヂストンがルナ・クルーザー用に開発を進めている実物のタイヤを見ることができた。ユーザーがブリヂストンを深く知るきっかけを生み出す場所として、東京都小平市に20年11月からイノベーションギャラリーを公開しているが、ここだけに展示されているのがルナ・クルーザー用のタイヤだ。

実物はゴムではなく金属製!?



当初公開されていたイメージ図では、タイヤは幅が広くトレッドはフラットになっていたが、実物は写真のようにトレッドはかなりラウンド(丸く)していて、2本のタイヤが一緒になったダブルタイヤのように見える。色からもわかるように通常のゴムタイヤではなく、すべて金属製になっている。イメージ図の段階でも、タイヤモックアップの段階でも金属で製造されることは決まっていたが、実際のタイヤはまるで異なるデザインになったのにはわけがあったのだ。





まず月面で求められるタイヤの機能は、車重を支え、駆動力と制動力を伝え、方向転換を維持しながら衝撃を和らげる。月面であってもほぼ地球の路面を走るタイヤと求められる性能に大差はないが、ただし月は使用環境が大きく異なる。真空状態の月は、重力が地球の6分の1しかなく、もちろん大気もない。温度はマイナス170℃から120℃にもなり、路面はほぼ砂に近い状態で宇宙線がきわめて多い環境下で使用される。当然ゴムタイヤでは不可能なわけで金属製タイヤを開発していたが、問題になったのが砂地でのグリップ力だった。さらに砂だけでなく、角がとがった大きい岩や石も多く、タイヤがダメージを受けやすいことも予想されている。

ラクダの足にヒントがあった!



開発陣は、地球上で月面によく似た地表である砂地の砂漠に解を求めた。技術のブレークスルーは自然界に潜んでいることがよくあるが、このタイヤも自然界からヒントを得て開発されたという。それは、なんと「ラクダ」だった。童謡の「月の沙漠(つきのさばく)」にもラクダが登場するが、本当の月の砂漠でもラクダが活躍しそうなのである。



トレッドが丸くふっくらとした形状は、砂漠を歩いているラクダの足の裏の肉球を参考にしている。じつは同じ砂地を歩く「ダチョウ」の足の裏も似た形状で、どちらも細かい砂地でもグリップしやすく、歩いたり走ったりするのに適した形状になっているという。この足裏をヒントにしたのが、このタイヤだ。展示されているタイヤを触ると(特別に許可を得て触っているが通常は禁止)、細かい金属の繊維を束ねたキッチンなどで使う”スチールたわし”のような触感だ。もちろん、たわしほど柔らかくはない。スチールウールのような素材と斜めに刻まれた方向性が異なるグルーブ状のデザインによって、砂地でのグリップを確保しながら岩を踏んでもダメージを受けにくいように設計されているという。直径はかなり大きく、大型トラック用サイズと似たサイズ感だ。



ラクダの足の裏をヒントにした金属製タイヤを装着したルナ・クルーザーを載せた月探査ロケットは、29年の打上げを目指している。遅くても30年代には月面を”ラクダの足”で走るのを見ることができるはずだ。このタイヤの実物を現在唯一見られるのは、ブリヂストン イノベーション ギャラリーだけだ。

■ブリヂストン イノベーション ギャラリー
東京都小平市小川東町3丁目1-1
電話:042-342-6363
開館日:月曜日〜土曜日
開館時間:10時〜16時(最終入館15時30分まで)
入館料:無料
休館日:日曜・祝日・年末年始
※開館時間・休館日が変更になる場合があるためウェブサイトを要確認
bridgestone.co.jp/corporate/innovation_gallery/

〈文と写真=丸山 誠〉

ドライバーWeb編集部

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