2020/12/22 コラム

日本最大級の自動車博物館がなぜ石川に!? 展示車はどうやって集めたの? 今こそ訪れたい日本自動車博物館の魅力とは

●日本自動車博物館(石川)の副館長・高川秀昭氏


展示車は、どうやって集めたのか?




Q:展示車がかなり多い印象があります。実際、何台あるのですか?
A:展示車は500台ほど。この他、小矢部市などに300台ほど保管しています。

Q:そもそもどうやって始まったでしょうか?
A:1950年代から60年代、石黒産業の事業としての製造品を全国各地にトラック輸送した際、各地に使用済みで朽ち果てていく数多くの三輪トラックがもったいないと感じて…。引き取るために、一升瓶2~3本を置いて、帰路のトラックに富山の持ち帰ってきたのが所蔵の始まりです。

Q:そうしたクルマが徐々に増えていった、ということですか?
A:はい。最初のころは協力業者のエンジニアがいて、いつでも動くような動体保存のためのメンテナンスをしていました。

Q:その後、一気に所蔵車のバリエーションが増えていった?
A:周囲の人たちが使わなくなり捨てられてしまうような大衆車も含めてクルマを集めました。そうした話を聞いて、全国各地で趣味でクルマを所蔵していた方々からも、保管が継続できないので引き取ってもらえないかという話が増えていきました。

 

Q:では、購入はしていない?
A:現在は購入したり、自社での買付けはしていません。寄贈していただくことが基本です。たまに(有償を前提とした)売り込みがありますが、すべてお断りしています。常設展示車はほとんど変わりませんが、寄贈されたクルマで展示車より保存状態がいい場合に入れ替えることもあります。

Q:現在でも展示車すべてが動体保存なのでしょうか?
A:そうした体制ではありません。ただし、整備経験があるボランティアの方々が24名登録されており、日曜日やご自身の空いた時間に手弁当で修繕をしていただいております。

Q:では、数あるクルマの中で来場者に人気があるのはどのモデルですか?
A:若い人含めて、トヨタ2000GTです。こちらでは後期モデルを所蔵していますが、現在はトヨタ博物館から前期型もお借りしており、ここでは両方をご覧いただけます。その他では、スカイラインシリーズ。また最近はネオクラシックカー(ここではニュークラシックカー)も人気です。希少車としては、小型四輪駆動車「くろがね起」や、1938年式トヨダ「フェートンABR型」でしょう。



Q:博物館の場所ですが、昭和53年に富山県小矢部市で始まり、平成7年にいまの石川県小松市に移転していましたが、その理由は?
A:旧博物館前の国道8号線の拡幅工事です。移転先を探す中で、各方面と相談する中で、山代・山中・片山津など人気温泉地にも近いこの場所となりました。

Q:開業当時はかなりの来場者だった聞きました。
A:はい、ちょうどバブル期でしたし、年間30万人に達しました。その後は、団体旅行から個人旅行への旅のスタイルが変わるなどして来場者は減少しましたが、テレビ、新聞やSNSでの露出を積極的に行うなどの広報活動によって、近年は年間9万人ほどで推移しております。

Q:今年、コロナの影響は?
A:4月13日から5月31日まで閉館しました。7月は県による観光復興支援策などがあり、来場者数は前年同月比70%まで回復しており、8月以降は徐々に回復傾向にあります。

Q:つまり、現在の来場者は、温泉目当てではなく、自動車博物館を目当てにくるクルマ好きの方々なのですね。では、運営してうれしいと感じるのはどんな時でしょう?
A:来場者の中には、1日中いる方もいる。そういう方が、満足している顔を見るときでしょうか。自動車メーカーではない地方企業がこれだけ多くのクルマを維持管理していることに関心される方も多いです。

Q:今後についてのお考えを。
A:ここにあるクルマは文化遺産だと思います。国民の共通財産として今後もしっかりと保管し展示していくことが大事だと思います。

〈石黒産業とは?〉
博物館の運営会社は、石黒産業(本社:富山県小矢部市)。創業は、明治26年4月で富山県石動町(現在の小矢部市)の石黒商店で、石黒兵太郎氏が煉瓦製造販売業を興したのが始まり。大正4年1月に、商号を合名会社石黒商店として、前田次三郎氏が経営を引き継いだ。高度経済成長期に事業を拡大し、昭和52年2月、前田彰三氏が2代目社長に就任。その翌年の昭和53年10月に最初の日本自動車博物館(小矢部市)を開設した。平成15年に前田智嗣氏が3代目社長に就任。 


●レストア中の三菱「GTO」。博物館内の大型車展示スペースの一角でボランティアが作業


●「リトラクタブルライト」括りでの展示。「プレリュード」「RX-7」「スープラ」など


●博物館内には「世界のトイレ」を設置。石黒産業の本業である住宅用事業の影響か?


●ここでは、昭和50年代以降車を、ニュークラシックカーと呼び常時展示している


●戦後間もない高度成長期の前半、全国各地の商業を支えた小型・中型の3輪車が勢揃い


●昭和の庶民の暮らしを描く立体的な造形での展示。スバル360が庶民の暮らしを支えた

〜特別企画展も実施〜

「平成バブル時代を飾った車たち」(2020年4月4日~9月27日)を開催した。トヨタ「セルシオ」「セラ」、ニッサン「シーマ」「フィガロ」、マツダ「オートザムAZ-1」など。そのほか、次世代技術的な視点では「未来を拓く 水素燃料の世界」(2020年1月20日~3月20日)し、3月後半には博物館の屋外駐車場内でトヨタ「MIRAI」とホンダ「クラリティフューエルセル」の燃料電池2モデルを乗り比べ体験会も実施した。

ドライバーWeb編集部

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