2020/12/07 カー用品

なぜタイヤは氷の上で滑るのか。極寒ではグリップ!? 国産と欧州スタッドレスの違いとは|短期連載第2回|

※短期連載第一回「バブル到来!? オールシーズンタイヤはスタッドレスタイヤの代わりになるのか?」の続きです。今回も、スタッドレスタイヤに関する素朴な疑問に関して、タイヤスペシャリストの2人に聞いています!

斎藤 聡 Satoshi Saito

●タイヤ師匠の異名を取るモータージャーナリスト。これまで無数のタイヤに試乗し、その開発背景までを知りつくす。自身もオールシーズンタイヤを愛車に装着し、その性能を確かめているところだ

市川 仁 Hitoshi Ichikawa

●長年タイヤメーカーの商品企画などに携わり、タイヤの進化を見届けてきた。現在は、フィンランドのメーカー「ノキアンタイヤ」をはじめ、さまざまなタイヤメーカーの商品を扱う阿部商会の販売促進部 商品課に所属。海外の事情にも詳しい


滑りの原因は水。でも極寒だったら!?



―― じつはこの場に来る前、編集部の若いスタッフに、なんで氷の路面が滑るのか知ってる?って聞いてみたんですけど、あまりよくわかっていないんです。

なので、氷が滑るのは氷とタイヤの間に薄い水の膜ができてしまうからなんだ、って話をしたら、水が浮かないくらい寒くなったら氷の路面でもグリップするんですか?って質問されて…どうなんでしょう?


市川 氷自体がアスファルト路面に比べてずっと摩擦抵抗が少ないので、アスファルトと同じようにグリップするわけではありません。ただ水を含んだ氷の滑りやすさとはかなり違います。


―― ということは、水なんて浮いてこないくらい寒いところでは、氷の路面でもグリップするということですか?


斎藤 ボクも昔、うんと寒いと凍結路面でもグリップするって聞いて、マイナス20度くらいの冬山に走りに行ったことがあるんだ。これが結構グリップするんだよね(笑) 全体的にミューは低めなんだけど、唐突にツツーってどこまでも滑ってしまう感じじゃなく、引っ掛かりというか摩擦感みたいなものがちゃんとあるんだ。


―― なるほど。気温がすごく低いとグリップするんですね。


斎藤 そうだね。乾燥した舗装路のようにというわけにはいかないけれど、だいぶ走りやすくなるよ。

ここ数年でスタッドレスタイヤの氷上性能はさらによくなっていているから、最新のスタッドレスタイヤならさらに走りやすいんじゃないかな。

最新スタッドレスタイヤのトレンドとは?



―― 性能がよくなったというのは具体的にどこがよくなっているんでしょうか。


斎藤 コンパウンドでいうと、日本のスタッドレスタイヤは微粒子シリカの採用がトレンドになっているね。シリカはカーボンに代わるゴムの補強材として使われているんだけれど、低温でも柔軟性を発揮してくれるので、低温でのゴムの柔軟性を発揮させるのに具合がいい。ただ、ゴムとシリカは水と油の関係にあって、結び付きにくいうえに大量に入れるとダマになりやすい。ダマになるとシリカの効果が出ないんだ。

最近では特定のゴム(ポリマーの分子端)に、シリカを結合させるためのカップリング材というのを使った配合技術が開発されて、大量のシリカを使えるようになった。だから、シリカをさらに大量に配合するためにはシリカの粒子を小さくしてやるのがいいというわけで、微粒子シリカの配合が最近のコンパウンドのトレンドになっているってわけ。

除水性能も重要になっている。ゴムの中に空隙を作って、氷路面に浮いている水膜を除去するのだけれども、空隙の中を親水性の材料でコーティングして吸水効率を上げたりと、タイヤメーカーはいろんなアプローチでどんどん除水性能を進化させている。


―― トレッドデザインはどうですか。氷の路面ではどう機能しているんですか?


市川 氷の路面で効くのは、主に接地面積と引っかき性能なんです。氷の性能を上げようとしたら、同じタイヤサイズなら接地面積が広いほうが有利なんです。ただし、氷雪路面のみならず、ドライ路面、ウエット路面での性能も考慮する必要があります。ですから、タイヤの外側、中央部、内側にそれぞれ機能を持たせる左右非対称パターンになっていくんだと思います。


―― そういえば国産のスタッドレスタイヤはほとんど左右非対称ですね。方向性パターンは性能的に低いんですか?

欧州勢はなぜ方向性パターンを採用する?



市川 一概にそうとも言えません。他の欧州タイヤメーカーでも方向性パターンを採用している例がありますし、ノキアンタイヤのハッカペリッタR3も方向性パターンを採用しています。


●ノキアンタイヤのハッカペリッタR3(左)/ハッカペリッタR3 SUV(右)

―― 方向性パターンはどんなメリットがあるんですか?


市川 排水性、排雪性、トラクション性能などに優れています。


斎藤 排水性っていうと、水?と思うかもしれないけれど、例えばシャーベットの排雪性は方向性パターンのほうが圧倒的に有利。


市川 欧州系のスタッドレスタイヤが方向性パターンを採用しているのは偶然ではないと思います。欧州は速度が全体に高めなので、安全性に関わる、耐アクアプレーニング性能を重視するため、水、シャーベットの排水効率が求められます。


斎藤 流行りのオールシーズンタイヤも欧州向けはV字パターンだね。V字パターンは、圧雪路ではブレーキやトラクション性能がいい。Vの角度にもよるのかもしれないけれど。コンパウンドの性能にあまり頼れないオールシーズンタイヤがV字パターンを採用しているのは、トレッドデザインでトラクション性能やブレーキ性能を引き出そうという意図があるんだと思う。


ーー そういえば、耕運機のタイヤとかヘビーデューティなオフロードタイヤは横溝主体のラグパターンですね。


斎藤 あとは雪と氷の性能のバランスかな。日本向けスタッドレスはライバルが多いので、「氷上性能特化型」といった具合に、ユーザーの声を極端に反映せざるをえない。


市川 そういう傾向はあると思います。じつはノキアン社のリサーチでも、欧州でもユーザーの一番の要求は氷のグリップ性能なんです。その一方で、欧州では高速操縦安定性とかコントロール性も重視されている。というよりも、この性能があることが前提になっているんです。そのあたりがタイヤキャラクターの差になっているのだろうと思います。


斎藤 欧州タイヤメーカーも日本の氷雪性能を重視する一方で、高速操縦安定性をすごく大切にしているよね。グリップしている様子とか滑り出す直前の手応えとか、インフォメーション性がいい。

雪道を走る上で大事なこと…スピード「勘」



柿崎 雪道の運転のコツを教えて下さい!


斎藤 ボクが一番気を付けているのはスピード勘。勝手に「雪道の眼」って言っているんだけど、雪道に入ったら速度感覚を雪道用に切り替えないといけない。舗装路のカーブでゆっくり走っているつもりの30㎞/hは、雪道のカーブでは猛烈なスピードだってこと。

人間の眼はどうしてもそれまで走っていたスピードを基準に走ってしまうから、意識的に切り替える必要があるんだ。ボクは雪道に入ったら必ずABSが効く強いブレーキを踏んで、タイヤが滑る感覚や様子を確かめるようにしている。もちろん後ろにクルマのいない安全な場所を選んでだけど。
そして一回じゃなく路面が変わったと思ったらときどき試して、雪道のグリップの様子を体に覚えさせるようにしている。

もう1つ大切なのは、ハンドルをぎゅっと握らないこと。ぎゅっと力任せに握るとタイヤからの手応えがわからなくなってしまうから。殻をむいたゆで卵を握りつぶさないくらいの力でハンドルを握ってやるのがいいと思う。できれば無造作にハンドルをスバっと切るのではなく、スーッと適切な舵角になるまでハンドルを切り込んでいくようにするとさらにいい。


始めのうちは「手応え」の様子はわかりにくいかもしれないけれど、慣れてくるとハンドルを切り出した瞬間とか、切り足した時の手応えの変化などがだんだん感じ取れるようになってくる。


―― そうなれたら、雪道のドライブがグッと楽しくなりそうですね!


〈続く〉
※次回は、いまだ謎の多い「ノキアンタイヤ」のスタッドレスタイヤがどんなものなのか?についてです。

まとめ=斎藤 聡

■問い合わせ先
阿部商会
https://abeshokai.jp/nokian/

ドライバーWeb編集部

RELATED

RANKING