2020/11/02 新車

これで価格は据え置き!? トヨタのFCV、ミライはスポーティなFRセダンに生まれ変わった

初代のときはいっぱいいっぱいだった


●2代目ミライのプロトタイプにサーキットで試乗した。正式デビューは12月を予定

「本当なら今年の夏、東京オリンピックでマラソンの先導車として走っていたはずなんですけどね~」

新型ミライの開発を取りまとめたのは、初代に引き続き田中義和チーフエンジニア。現在はプリウス系の同職も兼任する。開発責任者のキャリアは初代プリウスPHVがスタート。いつも明るく元気なトヨタの名物チーフエンジニアにして、電動環境車について世界でもっとも実践的な知見を持つ“自動車屋”の一人だろう。


●初代に続き、開発責任者を務める田中義和氏

「初代もあのときは一生懸命造ったつもりですが、今思えばいっぱいいっぱいで、燃料電池車(FCV)であることがある意味、魅力のすべてになっていたのかもしれません。2代目は走りの魅力を備えた上質なセダン、乗っていただいて見ていただいて、こんなクルマが欲しかった、乗ってみたかった、そうしたらそれがFCVだったと言っていただけるクルマを目指して開発しました」


●初代ミライ

2代目はロングノーズ&ショートデッキのFRプロポーション



クラウンと同じホイールベースを持つボディは、滑らかなクーペフォルム。ピットで出番を待つその姿は、初公開の東京モーターショー2019で見たときよりも、さらにロングノーズ&ショートデッキ的な印象が強い。FFの初代から、華麗なるFRへの転身だ。ヒップポイントが低めで足が十分伸びたドライビングポジションも、上質でスポーティなクーペセダンの雰囲気をいっそう盛り上げる。半面、後席ニールームは若干犠牲になったが、そこまでしてもガソリン車と遜色のないシュッとしたスタイリングの“ドライバーズカー”を造りたかったのだ。後席中央は足の置き場に困るものの、乗車定員は初代より1名多い5名を確保する。




前後重量配分は50:50を実現。航続可能距離も拡大!


燃料電池の「トヨタフューエルセルシステム(TFCS)」は第2世代に進化した。FCスタックは前席下に搭載した初代から体積で27%、重量で16㎏コンパクトになり、エンジン車と同じように前輪の車軸上に移設。モーターと駆動用リチウムイオンバッテリーは後輪の車軸上に位置する。前後重量バランスは、何とFRの理想とされる50:50を実現しているのだ。



FCスタックは出力も155馬力から174馬力に向上している。この体積出力密度と高圧水素タンクの貯蔵性能(タンク重量に対する水素貯蔵量の割合)は、ともに世界トップレベルを達成。タンクは初代の2本から3本になり、水素搭載量が4.6kgから5.6kgに増えている。システム効率の向上と相まって、満タンの航続距離は約650~700㎞からWLTCモードで約850㎞と格段に向上しているのだ。


●水素タンクは、センタートンネルに1本、後席下に1本、そして荷室下に1本、合計3本

後ろからグッと押されるような加速感



後輪を駆動するモーターは、182馬力・30.6kgmを発揮。154馬力・34.2kgmの初代よりもパワー型の特性だ。それでも、いざコースインすると、アクセルを踏み込んだ瞬間立ち上がるトルク感はスペック以上。車重も80kg増えているが、後輪に駆動力がしっかりかかり、後ろからグーッと押されるような加速感は、初代と同等以上の力強さだ。これには後輪からの駆動力伝達方向と車両重心位置を近づけ、ピッチ方向の姿勢変化を抑えたことも大きく貢献しているという。



しかも、車内はバッテリーの電気自動車(EV)にヒケをとらない静粛性が保たれる。FCスタックに空気を送るエアコンプレッサーには、初代のスーパーチャージャーに代えてターボに採用。耳触りだったメカニカルノイズに邪魔されずアクセルを踏み込める。加速の一体感と気持ちよさは、初代の比ではない。ただし、175km/hの最高速は従来どおり。ストレート全開でパワーの頭打ち感はやはりスペックなりだが、公道で不足を覚えることはもちろんないだろう。

「トルク特性、応答性を高めたのはもちろん、特に今回は加速時の車体の姿勢にこだわって開発しました。このことにより、リヤ駆動で後ろからまさに押し出されるような感覚で、ステアリングを自由に切っていただける。姿勢が変わらないことでまさに、今までの電動車であまり感じたことのない走りがを楽しんでいただけるのではないかと思います」

FRらしいスッキリとした操舵感



ボディはドッシリ剛性感にあふれ、ステアリングはシットリした手応えが頼もしい。それでいて操舵力は重すぎず、操舵開始からフロントがスイッと気持ちよく向きを変える。前後マルチリンクのサスペンションは、ストローク感がじつに豊か。旋回では初期から自然なロールを許すものの、収束が素早い。S字の切り返しでもボディの揺り返しはほとんどなく、4輪の接地性も十分保たれたままだ。タイヤはレクサスLS並に大径でZグレードは20インチを装着するが、縁石に乗り上げてもバネ下はバタつく気配すらなし。ドライバーを中心に曲がるようなボディバランスのよさは、前後イーブンの重量配分の恩恵を実感させる。19インチを履くGグレードは足まわりがいっそうソフトになった印象だが、サスペンションのチューニングは共通とのこと。



「乗り心地や操安性にはGA-Lプラットフォームの効果はもちろんですが、FCのマウントも効いています。エンジンの振動を抑える必要がないので、今回のような(旋回中に重量物の揺れを低減する)セッティングができます。一方、走りのドッシリ感はステアリングとアクセルペダルで出しています。ですから、ドッシリ感をなくすのも簡単にできます。私はこういうクルマにしたいという思いで、開発に強く要望しました。乗る方によっては愚鈍に感じると言う方もいらっしゃる。これは味付けの世界ですので、好みの問題だと思います。でも、このシットリした乗り味とか、路面からくる細かな入力も相当いなしているので、サーキットより一般路面のほうがクルマのよさはわかると思います」

生産能力が大幅に増加…価格はもしかして据え置きか!?



格段のレベルアップを遂げたのは、クルマの出来だけではない。FCスタックを中心とした生産性の進化が、また凄いのだ。

「初代は初年度(生産)700台。それが元々の企画だったんですよ。でも凄い反響をいただいて、2年目2000台にしました。3年目は3000台。でも、そこまで増やすのがいっぱいいっぱいで。新型はそれを10倍に増やしました。3万台。グローバルですよ。私の思いからしたら、日本では年間1万台、月でいうと1000台くらい売らせていただきたい。生産はそれだけ出す能力を構えています」

トヨタは2019年8月、東京2020オリンピック・パラリンピックのワールドワイドパートナーとして、約3700台の車両(電動車比率は約90%)の提供を公表している。そのうちミライは約500台もの数におよぶが、新型の生産能力が2500台/月あれば、単純計算すると1週間ほどで揃えることができるのだ。


●装備はもちろん、質感もグッと上がった。これで価格が上がらないとしたら…

生産台数が増えれば、量産効果によって価格面にもメリットが生まれる(FCVの場合は一般論が当てはまらないかもしれないが)。
「値段は言えません、横に広報がいるので(笑)。言えませんが、初代は消費税込みで740万円くらいですね。新型はタイヤも2ランクくらい大きくなっていますし、内装なども(質感や機能を)上げたつもりです。メーターは8インチのフル液晶で、12.3インチのセンターディスプレイも付いています。初代はナビゲーション、ディーラーオプションなんですよ。30万とか40万とかしましたよね。あと、ステアリングヒーターとかシートヒーターは新型も付けてますし、1500W(のアクセサリーコンセント)とかDCMも付けています。けども、初代より値段が高くなることは絶対にないと思います!」


●後席は「広々!」という感じではない

仮に据え置きだとしても、国のクリーンエネルギー自動車(CEV)補助金が現状どおり200万円ほど出るとしたら、実質価格は540万円。自治体によっては補助金がさらに上乗せされる。プレミアムなFRセダンに生まれ変わった世界最先端のFCVが、クラウン2.5Lハイブリッドの予算で手に入る…。これってもしや、目玉が飛び出そうなバーゲンプライス!? PHVやEVの輸入車勢に対しても、新たなライバル車になる可能性を秘めている。

懸念されるのは、現在4大都市圏が中心の水素ステーションとその使い勝手だが、
「水素ステーションは全国ですでに140カ所くらいあります。確かに今は閑古鳥が鳴いていますが、FCVの数が増えれば24時間営業や土日稼働をすると(運営会社は)言っていただいています」

初代のミッションがFCVの実用化なら、2代目はその普及。水素社会実現の重要な役割を担うFCVの未来は、まさしく新型ミライが占うことになりそうだ。


●後席後ろに駆動用バッテリーを搭載するため、トランクスルーは不可

〈文=戸田治宏 写真=岡 拓〉

ドライバーWeb編集部