2020/10/19 コラム

ベテラン警部補が速度データ偽造を繰り返して逮捕…レーザーパトカー「LSM-100」の実績を上げるため?

事件の肝は、「パトカー搭載のレーザー装置」


こっ、これは単なる警察不祥事ではない! 警察内部に激震が走ったんじゃないか! 多くのテレビ、新聞が報じたうち以下は10月13日付け読売新聞の記事だ。

速度データ偽造し取り締まり、交通機動隊の警部補逮捕…パトカー走らせ電柱にレーザー照射

交通違反の取り締まりで速度データを偽造したなどとして、北海道警は12日、交通機動隊の警部補吉本潤容疑者(58)(恵庭市)を証拠偽造と虚偽有印公文書作成・同行使の疑いで逮捕した。
発表によると、吉本容疑者は昨年8月~今年5月、パトカー搭載のレーザー装置で速度データを測る際、止めたパトカーから計測する本来の手法ではなく、パトカーを走らせて電柱などにレーザーを照射して10人分の速度超過データを偽造し、書類を上司に提出した疑い。10人には交通反則切符(青切符)が交付された。測定時に速度超過の確定的なデータが取れなかった場合に偽造していたという。
道警は吉本容疑者が計47人分を偽造したとみている。動機のほか、パトカーに同乗していた部下3人の関与を調べる。高田重栄・道警監察官室長は「厳正に処分する」とコメントしている。 https://www.yomiuri.co.jp/national/20201012-OYT1T50187/

事件の肝、最も重大なのは「パトカー搭載のレーザー装置」と私は考える。2016年に私は北海道警察からその契約書、仕様書、取扱説明書の開示を受けた。装置は東京航空計器の「車載式速度測定装置」、LSM-100。その時点で北海警察は合計13式を1式540万円(税込み。当時の消費税率は8%)で購入していた。


●2014年6月3日分の契約書の鑑(かがみ)の一部

取扱説明書によれば、LSM-100の測定方法は「スキャンレーザー方式」(以下、レーザー式)。可搬式オービスLSM-300と同じだ。LSM-300は、通学路等の安全を守る切り札として度々新聞やTVニュースに登場してきた。たまに取り締まり件数などが報じられる。LSM-300はほとんど取り締まれていないようだ。たとえば岡山県警はLSM-300で1年間に136回の取り締まりをおこない、「摘発」は133件だったという(今年2月25日付け山陽新聞)。1回1件を割るってそんなバカな取り締まりがあるもんか!

他のさまざまな事柄もあわせ考えるとーーそのへんはマニアな雑誌『ラジオライフ』などにさんざん書いてきた。今回は省略する――LSM-300はどうやら使い物にならないようだと推認せざるを得ない。そうしてだ、警察庁内には「LSM-300をムリ推しする一派」と「LSM-300には見切りをつけて先へすすみたい一派」とあり、せめぎ合っているらしい。


●LSM-100を搭載したパトカー。マニア氏が沖縄で撮影したもの。パトランプの間にあるのがLSM-100だ。このパトカーは測定部を後方へ向けている

どうやって速度データを偽造したのか?


LSM-100はどうなのか。LSM-300と同じレーザー式なのにLSM-100だけは高性能、ばんばん取り締まれる、とはちょっと考えられない。LSM-300については「見せる取り締まり」で速度を抑止するのだというTVニュースがあったが、LSM-100はパトカーの屋根のパトランプの間に目立たず搭載されている。LSM-300のような言い訳はできない。取り締まり件数を上げるしかない。かといって、普通に制限速度程度で走っている運転者に対し、完全にデッチ上げの測定値を押しつけることは心理的なハードルが高い。そこで警部補はこういうことをやったのではないか。

1、LSM-100搭載のパトカーを道端に停車し、取り締まろうとした。
2、目測で超過30㎞/hほどの違反車両が通過したが、LSM-100はまともに測定できなかった。
3、パトカーを発進させて違反車両を追いかけ、途中、走りながらLSM-100を操作。レーザー波を電柱などの固定物に反射させ、パトカーの速度を測定値として表示させようとした。
4、超過20数㎞/h程度の測定値を得られたとき、パトランプを点灯させ違反車両に停止を命じた。
5、違反者をパトカーの後部座席に乗せ、測定値を示して速度記録紙をプリントし、違反切符を切った。


●LSM-100の取扱説明書にある速度記録紙

捕まった違反者は、超過30㎞/hほどで走った認識はあるわけで「しまった。やっちまった! 赤切符を切られて一発免停か?」とがっくり。ところが見せられた測定値は超過20㎞/hほどでしかない。「青切符で済んだ。ラッキー」となり、1万数千円の反則金をすみやかに納付する。ぶっちゃけ、違反者に損はないのである。そうやって警部補は「速度データ偽造」をくり返していたのではないか。

警部補はベテランだという。追尾式の速度取り締まりもたくさんやってきたはず。追尾式は、パトカー(または白バイ。以下同)が違反車両の後方を等間隔=等速度で走り、パトカーの速度を特殊な装置(ストップメーター)で固定。その速度を測定値として取り締まる。等間隔かどうかは警察官の判断に任されている。言ってみれば、追尾式の測定値は警察官が自在につくれるのである。違反者がゴネるとめんどうだ。測定値を低めにつくり、手間をかけずに次々取り締まる、という話は昔からあった。ゆえに今回も、警部補にはあまり罪の意識がなかったのではないか。


●パトカー内のストップメーター

氷山の一角に過ぎない・・・?


LSM-100でちゃんと測定できれば、警部補は偽造などする必要はなかったはず。LSM-300をムリ推しする一派が警察庁内にいるのに「同じTKKのレーザー式であるLSM-100は使い物になりません」とは口が裂けても言えないだろう。自分の成績ではなく「LSM-100の取り締まり実績」を上げるために偽造をやったんじゃないか。もしそうなら、58歳、あと2年で定年退職だったベテラン警部補が哀れすぎる。可哀想すぎる。私はそう思う。

私の読みが当たっていれば、LSM-100を購入させられた他の県でも同様の偽造が行われている可能性がある。役に立たないLSM-100の実績を上げるために! 今後いったいどうなっていくのか、私のような者が言うのもなんだが、非常に心配だ。

〈文=今井亮一〉

ドライバーWeb編集部

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