2020/10/12 コラム

池袋踏み間違い暴走事故、似た裁判ではどんな判決が?



70歳代女性がアクセルとブレーキを踏み間違い


元女優? 正直そう思った。大学院卒業で70歳代のその女性は、白くなった髪を、外国映画で見るような黒いネットに包み、服は柔らかい生地でドレスのよう。背すじが伸びて姿勢がよく、話し方はゆっくりと上品で知的。だが、女性がいま座っているのは「自動車運転過失致死」の裁判の被告人席なのだ。

被告人は普通乗用車を運転してスーパーの駐車場から出ようとした。一時停止して車道へ出る際、アクセルとブレーキを踏み間違えた。クルマは急加速、イッキに車道を横切り、反対側の歩道のガードレールを突き破った。その歩道を1人の女性(39歳。以下、被害女性)が歩いていた。まさか真横からガードレールを突き破ってクルマが襲いかかるとは考えもしなかったろう。被告人のクルマは被害女性を車底部に巻き込み、小学校のフェンスに突っ込んで停止した。女性は約45分後に救出されたが死亡…。

被害女性は身元がわかるものを持っていなかった。警察は「歯科捜査、地取り捜査」を開始。一方、被害者の両親は帰らない娘を心配して捜索願いを出した。事故から19日後、警察署の霊安室で対面したとき両親は「地獄へ落とされた」という。そんなことがあっていいものか!

いったいなぜ、被告人はアクセルとブレーキを踏み間違えたのか。高齢でボケていたのか。ふだんから危なっかしい運転だったのか。法廷では誰もがそこを突っ込んだ。弁護人はまず、情状証人(被告人の夫)にこう尋ねた。

弁護人「事故の前に被告人運転のクルマに乗ったとき、どうでしたか?」
夫「むしろ、あのう、安全運転しすぎというぐらい…」
弁「被告人は免許を取って何年になりますか?」
夫「52年ぐらいと思います」

検察官(若い女性検事)はこう尋ねた。

検察官「踏み違えの原因について被告人は何か言ってましたか?」
夫「自分でもほんとどうして踏み間違えたのかわからない、でもやってしまったと泣きながら…」

そして被告人質問が始まった。弁護人からの質問は省略しよう。検察官はこう尋ねた。

検「事故の原因はペダルの踏み違えですね。これまで同じようなことは?」
被「ありませんっ」
検「ではなぜこのとき」

被告人は苦しそうに答えた。

被「私にも…どうして、どうして、どうして…」
検「考えごとをしてたんですか?」
被「いいえ」
検「焦ってたんですか?」
被「いいえ」

ドライバーWeb編集部

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