2020/08/14 コラム

「指定速度」と「法定速度」どちらが優先?「高速道路120キロ」を正しく理解するための「交通規制基準」とは

交通規制基準ってなんだ?


高速道路120キロの報道を見て「おや?」となった方がおいでかも。たとえば以下は7月22日付け毎日新聞記事の一部だ。

高速道路の最高速度120キロへ 全国5区間が候補、100キロ超は初 警察庁

警察庁は22日、高速道路の最高速度について、一定の条件を満たす場合に限って現在の時速100キロから120キロに引き上げられるよう交通規制基準を変更すると発表した。


「交通規制基準を変更する」とある。道路交通法じゃなくて交通規制基準? なんだそれ。あっ…と私は思い出した。だいぶ昔、そんなふうなのを情報公開でゲットしたことがあったような。探してみた。なんとずばりのものが、色褪せたコクヨの2穴ファイルに綴じられて見つかった。すごい! 我ながら大いに感心したね(笑)。

交通規制基準
●「交通規制基準の制定について」。平成11年(1999年)10月25日、警察庁の交通局長が全国都道府県警察などに対し発出した、これは通達だ。「永年保存」は珍しい。その後、改正されているかもしれないが、「交通規制基準」とはどんな文書なのかだけ、今回は見ておこう

交通規制基準
●これが「別添」の文書の1枚目。迫力がある。このあとに細かな目次が2ページ続き、本文の文書が170ページもある

「第2 適用」のところに大事なことが書かれている。簡単に説明するとだ、交通規制は「指定」と「法定」がある。道路交通法(以下、道交法)第4条に基づき都道府県の公安委員会が定める規制と、道交法およびその施行令などで定める規制だ。わかりやすいのが駐車違反だろう。駐車禁止の標識は、あれは公安委員会による。標識で禁止された場所を「指定禁止場所」という。一方、交差点内や横断歩道上などは駐停車禁止と道交法で定められている。こっちは「法定禁止場所」だ。「指定」と「法定」、交通規制は2種類あるのだ。

それでだ、各地の公安委員会が独自にばらばらに「指定」しては困る。その基準を警察庁(いわば全国警察の総元締め)のほうで示したのが「交通規制基準」なのである。


●「第2 適用」を思い切って略すと「この基準は…都道府県公安委員会が…道路標識等を設置し…交通規制を行う場合に適用する」ということだ。「法定」の規制には及ばない

公安委員会が行う高速道路の速度規制については、120ページ目の「第34 最高速度(高速自動車国道)」が基準を示している。以下だ。

高速道路 最高速度 基準
●高速道路の最高速度についてはこれ1枚だ。次ページは最低速度についての基準になる

「指定」と「法定」、どちらが優先される?


「道路別規制基準」に「(1) 設計速度が100キロメートル毎時以上の場合」は「原則として最高速度を指定しない」とある。指定しない? じゃあ、何キロで走ってもいいのか? そうじゃない。速度について定めた道路交通法第22条第1項をしっかり見ておこう。

第二十二条 車両は、道路標識等によりその最高速度が指定されている道路においてはその最高速度を、その他の道路においては政令で定める最高速度をこえる速度で進行してはならない。

つまりこういうことだ。まずは公安委員会が定めて道路標識等で示す最高速度(指定最高速度)守りなさい。公安委員会の道路標識等がないその他道路においては「政令」で定める最高速度(法定最高速度)を守りなさい。

「政令」とは、高速道路については道交法施行令第27条だ。第27条が、高速道路における最高速度は「普通自動車」や「普通自動二輪車」などは100キロと規定している。それが高速道路の「法定最高速度」だ。

1999年にこの基準が制定されたとき、100キロを超える「指定最高速度」を指定することは念頭になかったのだろう。標識等がなければ「法定最高速度」を守りなさい、それで足り、ずっとそれでやってきた。

しかし、「指定最高速度」がいわば優先。「指定」が「法定」を超えちゃいけない理由は何らない。一般道路(高速道路を除く)の「法定最高速度」は60キロだ(施行令第11条)。でも速度の標識は70キロ、80キロという自動車専用道路をあなたも走ったことがあるでしょ。あれは「法定」より「指定」が強いからなのだ。

今回、100キロを超える「指定」に警察庁はゴーサインを出した。そこで、冒頭の報道にあるように「交通規制基準を変更すると発表した」わけだ。「(1) 設計速度が100キロメートル毎時以上の場合」は「原則として最高速度を指定しない」というところを少しいじるのだろう。私としては、いじらなくてもべつにいいと思うけどね。

今回の「高速道路120キロ」は、いわゆる「アメとムチ」でいえばアメに当たると私は読む。ムチは何? そのへんは「「高速120キロ」は1台800万円の超高性能・可搬式オービスの活躍と「速度違反金」導入の前振りか!?」という記事に書いた。

ところで、ちらっと大変なことを言っておこう。「オービスは赤切符の違反(高速道路では超過40キロ以上)しか取り締まらない。最高速度が120キロになったら、160キロ未満が青切符。159キロまでオービスはセーフってことだ。ひゃほ~!」という方もおいでかも。それはヤバイ。

可搬式オービスでは青切符の速度違反も取り締まることをすでに始めている。現在わかっているところでは、愛知県警は2018年4月から始めたようだ。従来の固定式のオービスでも青切符の違反を取り締まることは十分にできる。「高速120キロ」というイベントを契機にいろんなことが厳しくなるだろうと私は思いますよ。

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