2020/08/07 コラム

フォード・タウナス17MTSをフルテスト!…って当時はどこでテストしてたの?【東京オリンピック1964年特集Vol.17】

●フォード タウナス17MTS、村山テストコースにて

前回東京オリンピック開催年、1964年を振り返る連載17回目は、driver1964年7月号に掲載した「フォード タウナス」のフルテストに関して。加速テストに心躍らせた時代は、もう終わったのか。

〈該当記事はこちらより〉
driver1964年7月号

driver1964年7月号




フルテストで真の実力を暴いてきた

driver誌はニューモデルをテストコースに持ち込んでのフルテストも長年の名物だ。「D’s総研」では毎号1台の実力を徹底検証。昔ながらの読者なら、前身の「マイカー研究」を覚えている人もいるだろう。

拙欄で前々回に触れたスクープ記事(連載第15回)と同じく、その定地テストも創刊の1964(昭和39)年から行われている。誌面で確認できるのは6月号の「国産車試乗リポート」が最初で、車種はプリンス スカイライン1500。求めやすい価格の「スタンダード」(連載第6回)が追加されて間もないタイミングだが、既存の上級グレード「デラックス」が採り上げられている。

続く7月号では、2台の試乗記にテストデータが載っている。1台は同じく国産車試乗リポートで、いすゞベレット。これも登場しているのは新グレードの1600GT(連載第12回)ではなく、4ドアセダンの1500デラックスだ。

そして、もう1台は「スポーツカー試乗記」と銘打って、フォードのタウナスが俎上に載せられている。

タウナス フォード

タウナスは当時のドイツフォードが開発したミッドサイズセダン。17Mスーパーは1961(昭和36)年にデビューし、欧州で3年間に40万台を販売したヒット作だ。けっしてスポーツカーではないのだが、採り上げられた17MTSは17Mをベースとするスポーティグレード。外観やシャシーはスタンダードの17Mをそのままに、エンジン排気量が1698㏄から1758㏄に拡大されていた。


テスト項目はなぜ2つだけ?


フルテストといっても、誌面で確認できるメニューは0→400mの発進加速と、50㎞/h前後からのフルブレーキングの2つだけだ。理由はこの時代の性能レベルとともに、テストコースが大きく関係している。

当時テストで使われていたのは、東京・東村山にあった通産省(現・経産省)工業技術院機械試験所のコース。「伊豆スピードウェイ」(連載第9回)でも触れたが、(財)自動車高速試験場、現・日本自動車研究所(JARI)の高速周回路を中心とした第1期工事が茨城・谷田部の地に完成するのは、この64年9月。それまでオーバルの周回路を持つ自動車用テストコースは、この通称“村山”しか日本になかった。

村山 テストコース 
●東京・東村山にあった通産省(現・経産省)工業技術院機械試験所のコース(1964年5月撮影、国土地理院より)

村山 公園
●村山にあったテストコースの跡地は、現在「都立東村山中央公園」になっている

しかし、周回路といっても全長2㎞、設計速度の80㎞/hのミニコース。タウナスが走るタイトルバックの写真を見ても、バンク角はとても緩い。この箱庭のようなコースで十分なテストができなかったのは、想像に難くない。ちなみに、旧・谷田部と現・城里(2005年開設)の高速周回路は、ともに全長5.5㎞・設計速度190㎞/h。


フォード タウナスは速かった


テスターは「精鋭ロータスに乗る」(連載第7回)で登場した伝説のレーシングドライバー、浮谷東次郎。浮谷はこの年、レギュラーに近いかたちでdriver誌のテストを担当している。



浮谷のリポートで感心するのは、内容が詳細で描写も丁寧な点だ。動力性能や操縦安定性、ノイズ・振動といったクルマの基本性能だけでなく、ドライビングポジションや後席の座り心地、ダッシュボードの雰囲気、フロアカーペット、ドアのインナーハンドル、トランク形状など、室内や使い勝手の細かい点まで観察眼が行き届いている。

タウナス17MTSの0→400mベストタイムは18.7秒。現在ではごく平凡な数値だが、浮谷は「優秀なデータ」と評価している。それもそのはず、前出のベレットは19.0秒、スカイラインは19.5秒で、そのスカイラインでも「ヨーロッパのスポーツカーも顔負けの高加速」(64年6月号)と絶賛している。ちなみに文中で紹介されているスカイラインGTのゼロヨンは、メーカー発表で18.5秒。“羊の皮を被った狼”でも、これが当時のレベルだった。



ハンドルは切れがシャープなうえ、低速でも高速でも重さがほぼ一定で扱いやすい。足まわりはロールが大きくてもフワフワすることはなく、高速用ナイロン・タイヤのグリップと相まって強いアンダーステアをこらえてくれる。フロントがダンロップ製ディスクのブレーキは、ノンサーボだが低速で効きが確実で、テストコースや大垂水峠の酷使でも信頼に足る。
「“TS”というのは、そもそも“Touring Sport”の略で、Sportという字があっても、あまりスポーツ味がかった車の呼び名ではない。たいていの場合、普通の乗用車にいくらか“スポーティな要素”を加えた、まだまだ“おとなしい馬”のことだ。その点、このタナウス17MTSは、“TS”という呼び名に実にぴったりと当てはまる。
(中略)
 車を味わいながら、静かに(必ずしも、ゆっくりということではない!)走るという、落ち着いた人たちに適した、そして、そのような人たちにきっと好かれる車であるという印象を強く受けたからである」(文中より)

クルマが飛躍的に向上しても、試乗記に求められる本質は半世紀以上前も現在も変わらない。浮谷のリポートを読んでいると、そんな思いを深くする。

タウナス インパネ


フルテストを続けづらい時代に


ただし、当時のスポーツカーの速さをファミリーミニバンが当たり前に備え、言わば“飽速の時代”を迎えて久しい現在。一部の車種やユーザーを除けば、クルマ好きでもゼロヨンタイムに胸踊らせる時代ではなくなった。

じつは、driver誌のフルテストもこのところ機会が減っている。伝統を守るべくいろいろ努力を続けているが、弱り目に祟り目というか、城里に移ってしばらくはガラガラだったJARIのコース予約がなかなか取れなくなった。どうやら自動車メーカーやサプライヤーなどによる先進運転支援関連のテストで、いつもいっぱいらしい。そこへ、新型コロナウイルスの追い打ち。自動車専門誌がフルテスト企画を続けるには、なかなか難しい時代になった。

〈文=戸田治宏〉

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