2020/08/06 新車

秘密のマシン、ヤリス改良版に乗った…走りがもう劇的に進化!

見た目は何ら変わらないのだが


某月某日、某所にてちょっと変わったトヨタ ヤリスのステアリングを握る機会を得た。とは言え、見た目はごくフツウのヤリス。カラーリングも内装も、タイヤ&ホイールも何もかも、慣れ親しんだあの姿そのままである。さて、一体何がちょっと変わっているのか。

yaris
●見た目は何も変化がなかった

そもそもヤリスは、その走りが高く評価されているクルマだ。TNGAのBセグメント用であるGA-Bプラットフォームの高いポテンシャルを生かして、それこそヴィッツの時代とは雲泥の差と言えるほどのフットワークのよさを実現している。

一方で、ステアリングフィールや乗り心地には若干の物足りなさを覚えるのも、また事実。動きの質はいいけれど、その味わわせ方がいまひとつだというのが私の率直な評価である。

TNGA
●TNGAプラットフォーム(GA-B)

開発陣もそれをわかっていたのだろう。じつはこのヤリスは、まさに走りの質を高めるべく手が入れられている。そう、まさにこの車両の正体は、2月のデビューから半年ほどしか経っていないというのに、トヨタの開発陣が「もっと良いクルマをつくろうよ」と、さらに進化させたヤリスなのだ。

とは言え、変更点はさほど多いわけではない。ざっと挙げると、まずボディ下側へのブレースの追加。これによってボディ剛性が高められたので、それに応じてサスペンションもスプリングレート、ダンパー減衰力が高められている。そしてEPS(電動パワーステアリング)のチューニングも見直されたという。以上、これだけである。


全体のネジを増し締めしたようなしっかり感


早速走り出すと、まず乗り心地がよくなっていることに気づいた。硬くなっているはずなのに、むしろアシの動きはむしろ上質になったという印象。おそらくボディ剛性の向上でストローク初期から減衰力がしっかり発揮されるおかげだろう。

エンジンから伝わるステアリングやアクセルペダルの微振動も減った気がする。おもしろいのは、そのおかげでエンジンのレスポンスまで向上したように感じられることだ。特に低回転域の振動が減ったおかげで、繊細なコントロールがしやすくなったように思えるのである。

ステアリングフィールも、特に中立感が明確になっているのが好感触。手応えはほんのわずかに重みを増したかもしれないが、フリクション的な嫌な感触ではなく、しっかり感と言うべきものだ。これにはEPSの制御の変更だけでなく、高められたボディ剛性も、再セッティングされたサスペンションも貢献しているのは間違いない。

走りの基本的な性格が大きく変わったわけではない。けれど走りの質と言うべき部分は、しっかり磨かれていたのが、今回乗ったヤリスである。喩えるなら、クルマ全体のネジをギュッと締め増ししたかのようなフィーリング。ヤリスのコンパクトカーならではの軽快な走りの魅力が、一段上の次元で実現されていたのである。

走りの違いは明らかだが、変更点は上記の通り、ごくわずか。つまり市販車への投入へのハードルは高くない。詳細まで聞けたわけではないが、このクルマは当然そのつもりで育てているはずだ。


「運転の気持ちよさ」へのこだわり


感心させられたのは、このクルマ自体の完成度の高さよりも、何より世に出たばかりのクルマにも関わらず、すでに次の進化を見据えた開発が進められていたということの方かもしれない。「もっと良いクルマをつくろうよ」とは、豊田章男社長が常々発しているメッセージだが、いよいよその精神がトヨタ全体に浸透してきているに違いない、なんて思わせたのである。

もちろん「もっと良いクルマ」にも色々あって、トヨタは自動運転技術、先進安全技術の開発に邁進し、電動化や燃料電池自動車の開発にも積極的に取り組んでいる。そして遂にはウーブンシティのような実験都市まで自ら創り出そうとしているほどだ。

こうした分野に積極的に取り組みながら、一方で未だヒトが運転する以上はきわめて大事な、運転の気持ち良さという面でも進化の手を緩めていないのが、今のトヨタ。しかも、その気概はGRヤリスのようなスポーツモデルではなく、こうしてごくフツウのモデルにまで及んでいる。

トヨタがここまでやるならライバルだって手をこまねいているわけにはいかないだろう。そうやって「もっと良いクルマ」づくりの競争が激化すれば、間違いなくこの世界の活性化につながるはずだし、何よりユーザーのメリットは大きい。その意味でも今のトヨタのこの邁進ぶり、とても頼もしく見ているし、大いに期待したいとも思った、このちょっと変わったヤリスの試乗だったのだ。

〈文=島下泰久〉