欧州で後にデビューしたTクロスと海を渡る順番が逆になったが、フォルクスワーゲン(VW)待望のCセグメント・クロスオーバーSUV、Tロックがついに日本導入だ。現地では2017年8月の発売から半年で受注が10万台を超えた実績を持つ。
車名ははじめ耳に馴染みにくいかもしれない。でも、Tは同社SUVのトゥアレグ、ティグアンの頭文字にならったもの、とわかれば覚えやすい。Rocは英語のRockが由来で、「セグメントをrockする(揺り動かす)」という意味が込められているようだ。
トゥアレグが導入されない日本では、これでVWのSUV3兄弟が揃ったことになる。
Tロックはその真ん中。ティグアンといちおう同じCセグメントに属するが、ティグアンはCセグの中では大柄だ。ボディサイズはむしろ、BセグメントのTクロスに近い。設計自由度の高いモジュラープラットフォーム、MQBの特徴を生かし、全長・全幅・ホイールベースは絶妙に造り分けられている。
ボディでもう一つの特徴はスタイリングだ。太く存在感のあるリヤピラーは3兄弟に共通だが、Tロックはリヤゲートがスラントしたクーペ風フォルム。広い室内空間を備えるマジメな2台に対して、ファッショナブルでスポーティな遊び心を感じさせるキャラクターなのだ。
実際、荷室を含む室内空間の広さはティグアンが断トツ。そしてTロックは絶対的な室内長でTクロスに勝るものの、Tクロスは後席に140㎜の前後スライド機構を備えている。後席をもっとも後ろにすれば、後席ニールームはTロックを凌駕。逆に一番前までスライドさせると、後席に座る空間はなくなるものの、荷室容量は455LとこれもTロック(クラス最大級の445L)を上まわる。もちろん、後席と荷室を同時に使うならTロックのほうが広く、実用性はCセグSUVとして十二分だ。
コックピットは、シボ入りのダッシュボードにTクロスと同様ソフトパッドが使われていないが、触ってみなければそうとわからない質感が確保されている。また、先進的かつ多機能なフルデジタルメーターが全車標準。
パーキングブレーキもTクロスのような手動レバー式ではなく、信号待ちなどで便利なオートホールド付きの電動式だ。見た目・機能ともにTクロスとしっかり差別化されている。
欧州にはガソリンとディーゼル合わせて多彩なエンジンがラインアップされるが、日本にまず導入されたのはティグアンと同じ2Lクリーンディーゼル+7速DCTだ。ただし、4モーション(4WD)のティグアンに対して、TロックはFFのみの設定。
150馬力・34.7kgmのスペックもティグアンと変わりない。だが、Tロックは車重が300㎏も軽い。試乗車のTDIスタイル デザインパッケージに乗るとその効果は言うまでもなく、ワインディングでもディーゼルらしいピックアップのよさ、伸びやかなパワーが気持ちのいい速さを楽しませる。
シャシーは、Tクロスでも意外なほどスポーティな仕上がりなので、クーペフォルムのTロックはさぞや…と思いきや、実際は逆だ。
前ストラット/後トーションビーム(VWが言うところのトレーリングアーム)のサスペンション形式、ロック・トゥ・ロック2.5回転のステアリングは、基本的に共通。だが、Tロックはサスの動きがフレキシブルで、バネ下の路面追従性が非常に高い。カドのある突き上げや段差乗り越しのショックは、ほとんど認められない。
それでいて、強かなロール剛性も兼ね備えている。このあたりはサスチューンに余裕をもたらすワイドトレッドの恩恵かもしれない。ハンドリングにしても初期のクイックさが浮き立つことなく、全域でリニア。TDIスポーツ以上はタイヤがさらに低偏平になるが、215/55R17サイズのTDIスタイル デザインパッケージに乗る限り、じつに上質な走りを味わわせる懐の深さが印象深い。225/40R19タイヤにDCC(減衰力可変サスペンション)を標準装備するTDI Rラインは、上質な乗り心地とさらにスポーティなハンドリングの両立が期待できる。
さて、このTロックの好敵手を日本車からピックアップすると、筆頭に挙がるのはスタイリッシュなデザインと実用性をバランスよく両立したマツダCX-30だ。
キャラクターは少なからず異なる。CX-30のフロントノーズが低く伸びた外観は、流麗のひと言。ボディサイズは全高の低さが特徴で、1800㎜以下を死守した全幅と相まって、都市部の機械式駐車場にも入庫可能だ。
運転席は着座位置が低く、足を自然に伸ばせる理想的ドライビングポジション。シンプルで洗練されたインパネの質感は、Tロックに勝るとも劣らない。後席ニールームはTロックと同じか若干狭い程度。荷室は430Lの容量を確保している。
シャシーはCX-30もサスの動きがしなやか。これに低重心が相まって、ボディが路面に吸いつくような旋回性を発揮する。ステアリングはTロックほどクイックではないが、リヤのフロントに対する追従性は抜群で、ハンドリングはじつにハイレスポンス。現代風に洗練された「人馬一体」の走りを味わっていると、SUVに乗っていることを忘れそうになる。
エンジンは3タイプ。Tロックの向こうを張るクリーンディーゼルは1.8Lだ。燃費ではCX-30のほうが若干有利だが、動力性能は116馬力・27.5kgmとTロックが断然パワフルで、静粛性もレベルが高い。
スポーティなパワーと静粛性を求めるなら、2Lガソリンの標準エンジン(156馬力・20.3kgm)。Tロックの予算なら、同じ2Lガソリンながらマツダが世界で初めて実用化した夢のエンジン、スカイアクティブX(180馬力・22.8kgm)も楽に狙える。オンデマンド4WDはすべてのエンジンで選択可能だ。
ナビやオーディオがフル装備の「ディスカバープロ」、モバイルオンラインサービス「フォルクスワーゲンカーネット」などが標準装備でも、日本車との価格差は小さくない。しかし、軽快なクーペスタイルでありながら骨太でSUVらしい存在感、堅牢なボディと懐深いシャシーが味わわせる上質で頼もしい乗り味は、やはりドイツ車ならではの魅力。コストパフォーマンスの点では、価格なりの価値は十分だ。また、プレミアムブランドまでは手が届かない、または必要ないという向きにも魅力的な選択肢になるだろう。
VWの2019年世界販売では、ついにティグアンがゴルフを抜いて1位に。他メーカーに遅れをとったものの、日本でもSUV攻勢をさらに強めることは間違いない。Tロックはそれを牽引するにふさわしい出来映え。価格がもう少し手ごろな1.5Lガソリンターボなども導入すれば、新しい主力車種になるだろう。欧州ではコンバーチブルや、ゴルフ譲りの「R」もデビュー。ワーゲンの粋なコンパクトSUVから、今後も目が離せない。
〈文=戸田治宏 写真=岡 拓〉
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