2020/07/12 コラム

かつて日産の追浜はワークス開発部隊が…今ではちょっとゆるいテストコースに!|木下隆之の初耳・地獄耳|

■ちょっとゆるい?テストコースがある

自動車メーカーが所有するテストコースの入場制限は厳しい。というのも、ここには極秘が詰まっている。発売前の車両が日々走行を繰り返しているばかりか、将来の経営を担う先進技術のテストが繰り返されることも少なくない。カメラとペンを武器に、ベラベラと情報をたれ流すことを生業としているマスコミなど、できれば退けたい対象なのだ。

だというのに、僕らがテストコースに呼ばれることがあるのは、発売前の極秘車両をドライブさせるためである。外界から遮断されているテストコースは、未発表モデルを走らせるには都合がいいからだ。

だがしかし、機密は厳重である。入館に際しては事前に申請が必要だし、当日には物々しい誓約書にサインさせられる。「ここで知り得た情報や見たものは、けして漏らさぬこと…」。つまり「盗み見てチクったらただじゃおかないからな…」というわけである。


●日産追浜工場の敷地内に見えるコースが、「日産グランドライブ」だ

ただし、意外にゆる〜いテストコースがある。それが「日産グランドライブ」である。

「日産グランドライブ」は日産追浜(おっぱま)工場の敷地内にある。入り口はお洒落な装飾でデコレートされており、無機質な工場というよりちょっとしたイベント施設のようでもある。それもそのはず、極秘車両を走らせるのではなく、僕らのようなマスコミを招待する施設なのだ。

■デビュー前のクルマが見えちゃうことも?

日産追浜工場の創業は1961年だ。敷地面積は1,699,000cm2というから東京ドーム36個分もある。2600人の従業員が働き、リーフやノートなど日産の主力モデルを生産しているのだ。そんな追浜工場に「日産グランドライブ」がある。

といっても、秘匿を守るのが筋である。と言うのに…。

先日、新型モデルの試乗会のために訪れた。

「あの〜、キックス、走っちゃってますけど…」


●6月24日に発表された日産久々のブランニューモデル、キックス。この発表日前に、つい見えちゃっていた…

「日産グランドライブ」は極秘車両が走る工場や研究施設から隔絶させるために、高い塀で囲まれている。だが、駐車場からテストコースまでは、コースを横断する歩道橋を越えなければならならず、その高い位置からは工場内が丸見えなのである。目ざとい編集担当のKは、当時デビュー前のキックスの存在に気がついちゃったのである。

「いいんッスかねぇ、見えちゃって」

「こっちが好きでのぞいたのではない。順路に従って歩道橋を渡っていたら、たまたま目に飛び込んできてしまっただけだ。やましいことはない」

「写メしちゃいたくなるッスよね」

「それは良心がとがめる」

「工場丸見えですね」

「じつはあの建物が元KP1のあった場所だ」

「KP1 ? それってなんッスか?」

■かつて追浜は日産ワークスの代名詞だった

「スポーツ車両開発部といってな。日産の特殊車両を開発する精鋭部隊だ。それを社内ではKP1と呼んでおる」

「スポーツ車両開発部?」

「平たくいうと、レーシングカーを開発するワークス部隊なのだ」

「そりゃ凄いッス」

「今では別の場所に移転してしまったがな」

かつては「追浜」というのは日産ワークスの代名詞だった。「大森」はのちにニスモに建屋になった。「荻窪」はブリンス自動車の流れを組む。工場の名で呼び合うのが日産の伝統でもある。

「なぜそんなこと知っているんッスか?」

「僕はかつて日産ワークスのドライバーだったからだ」

「自慢話ッスか?」

「聞かれたから答えたまでだ」

「ワークスドライバーは潜入しても許されるッスか?」

「そうではないが、レーシングマシンのテストのために何度も訪れた」

「凄いッスね」

「あそこには社員食堂がある」

「ワークス飯、喰ったッンスか?」

「KP1でこしらえたマシンを、このコースでテストドライブしたのだ」

「このコースって?」

「この日産グランドライブだ」

■WRCパルサーGTI-Rは木下がここでテストした

「ここ、テストコースだったんッスか?」

「多少レイアウトは変わったけれど、ここでレーシングカーを走らせたし、ダートコースもあったから、WRCパルサーGTiRもテストしたのだ」


●WRCパルサーGTiR。写真は1992年ポルトガルラリー

「そんなこと喋っちゃっていいんッスか?」

「もう時効だろう」

「それにしても、テストコースを開放するなんて、日産もおおらかですよね」

一般開放こそしていないが、「日産グランドライブ」は日産関係者の試乗のために活用している。発売前のモデルを販売店の方々に披露したり、我々ジャーナリストに公開する。それには、ある程度の秘匿が守られながら走ることのできる場所は都合がいいのである。

〈文=木下隆之〉

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