2020/07/01 ニュース

プリウス・ミサイルを防ぐ最終手段!? 障害物なしでも加速を抑制する新機能を世界初搭載。意図しない作動もありえる!?

2020年7月1日、トヨタ プリウス/プリウスPHVが改良された。内外装や動力性能に変化はない。何が変わったかというと、安全性能。昨今ニュースなどでも大きく取り上げられている、「ペダル踏み間違い事故」を防ぐ、画期的新機能が搭載されたのだ。

■あの痛ましい事故が開発のきっかけ

プリウスの開発責任者である田中義和氏は、今回新たに搭載した「急アクセル時加速抑制機能」を生み出した経緯を次のように解説した。


●プリウス開発責任者の田中氏。メディア向け取材会は6月上旬、袖ヶ浦フォレストレースウェイの駐車場特設コースで行われた

「昨年、プリウスでの大きな事故があり、社会的な課題認識が非常に高まりました。当時、弊社の吉田守孝副社長(当時)も『できるかぎり、今の世の中を鑑みて、高齢者の痛まし事故が起こらないように対応してまいりたい』とお話しさせてもらいました。その答えが、今回の新機能です」


昨年の事故とは、東京・池袋での痛ましい事故のことだ。ペダル踏み間違い事故が原因とされ、その責任はドライバーにある。しかし、「交通事故死傷者をゼロにしたい」という究極の願いのもと、「クルマ側にも、もっとできることがあるのではないか?」と開発陣は新機能を模索。生み出されたのが、前方に障害物がなくても加速を抑制するという、常識破りの新機能だった。トヨタはこの安全装備を、今でもトップレベルの販売台数を誇るプリウスから導入してきた。

■高齢者はペダルを踏み間違えやすい

近年、全体的な傾向としては、交通事故による死者の数は減っている。しかし、75歳以上が加害者になる数は横ばいであり、結果としてその比率は高まっている。


高齢ドライバーが加害者となった事故を分析してみると、75歳以上はそれ以下のドライバーに比べてペダル踏み間違い事故を起こす確率がなんと8倍。死亡者の数こそ多くないが、割合は高い。これが高齢者の事故の特徴である。

ペダル踏み間違い事故への対策として、トヨタはインテリジェントクリアランスソナーを2012年から導入、これは前後の超音波センサーを検知して、障害物があればブレーキを制御し、衝突回避/被害低減するもの。


もうひとつ、既販車向けの「踏み間違い加速制御システム」もある。後付けで搭載できる安全システムで、加速を抑制して被害を軽減する。現在、12車種に用意している。

インテリジェントクリアランスソナーの事故低減効果は非常に高い。保険会社のデータを使って調査すると、おもに駐車場でペダル踏み間違い事故を7割も低減。しかし、あと3割に対応すべく、新たな技術を開発した。


それが、「急アクセル時加速抑制機能」である。

■障害物がないところでも踏み間違いは起こる

トヨタが新たにプリウスに搭載した急アクセル時加速抑制機能は、超音波センサーは使わずに、つまり、進行方向に何もない状態でも、ペダルを踏み間違えれば加速を抑制する。特別なハードを必要としないため、多くの車種に低コストで横展開できるのも特徴だ。

しかし、センサーを使わないで、どうやってペダル踏み間違いを認識し、加速を抑制するのか?


開発にあたって活用したのは、実際の走行データだ。トヨタは、トヨタ車に搭載されていてインターネットと繋がっているデータコミュニケーションモジュール(DCM)を経由して、走行データを録りためている。ここに集められた実際の事故のデータ、インテリジェントクリアランスソナーの作動理由、一般ドライバーの急アクセル操作などのいわゆるビッグデータを解析し、「これは踏み間違いだ」という判定ロジックを開発した。そのロジックに当てはまるペダルの踏み方をした場合、加速を抑制するわけだ。

そのロジックとはどんなものなのか? 踏み間違い事故のほとんどは「30km/h以下」で発生しているという。さらに、アクセルを速く踏み込む、深く奥まで踏み込むと、ほとんどの場合、踏む間違いだと予想できる。


ただし、坂道ではアクセルを深く踏み込むことが多い。また、ブレーキを踏んだ直後も深く踏み込む場合がある。そして、右左折時。前後から車が接近していて、急いでアクセルを踏み込むことは多々あるだろう。その場合を考慮し、ウインカーが出ているときは、踏み間違いと判定されない。

■「急アクセル時加速抑制機能」は誤作動する

トヨタは、ペダルの踏み間違いか、ドライバーが意図した操作なのかをかなりの確度で判定できるよう、ロジックを磨いてきた。しかし、それでも100%正確とは言い切れない。前述の田中氏は、「不要作動(いわゆる誤作動)が起こることも、一部覚悟しながら導入している」。つまり、ドライバーが意図したペダル操作でも、加速が抑制される可能性があるということだ。

とはいえ、30km/h以下でアクセルをベタ踏みするシーンは、通常ではありえない。ほとんどの場合、異常な操作といってもいいだろう。

この高齢化社会において、100%正確ではなくても、安全を優先するシステムを導入したトヨタの選択を、心から歓迎したい。

■サポキーで、機能をオンオフ

とはいえ、「そんな機能は必要ない…」と思う人もいるかもしれない。そこでトヨタは、「急アクセル時加速抑制機能」のオンオフをスマートキーの違いで選択できるようにしている。


「急アクセル時加速抑制機能」は、トヨタセーフティセンス、インテリジェントクリアランスソナーに続いてドライバーをサポートしていくという意味を込めて、「プラスサポート」という商品名が付けられている。基本的にはディーラーオプション。購入者には、サテンゴールドに加飾した専用のプラスサポート用キー、略して「サポキー」が付いてくる。サポキーを持ってクルマに乗り込むと、「急アクセル時加速抑制機能」がオンになる。

もちろん通常のキーも付いてくる。そのため、例えば1台のクルマを家族でシェアする場合、免許取り立ての子供や高齢者にはサポキーを持ってもらい、慣れている人は通常のキーを使う、という使い分けができる。

つまり、下記のような安心が得られるわけだ。

・運転に不安を持っている人がサポキーを携帯することで本人も安心
・大切な人にサポキーを渡すことで、家族も安心
・家族で1台のクルマを共有しても、意識することなく機能を使い分けられる

また、既販車向け後付けのシステムの「踏み間違い加速抑制システムII」にも急アクセル時加速抑制を追加。こちらにはサポキーはなく、機能はつねにオンとなる。

■虎穴に入らずんば虎児を得ず

今回、クローズドコースで実際に「急アクセル時加速抑制機能」を試してみた。サポキーを持ってクルマに乗ると、メーター画面に作動状況が表示される。


ブレーキペダルから足を離して、3秒以上たってからアクセルをベタ踏みすると、ピピピピという警告音とメーター内の警告表示があり、加速が抑制された。もちろん、前方に障害物はない。


●前方には障害物がない場面。例えば連続的にアクセルを踏んでも30km/hまでしか出ない。ドライバーが混乱しているとクルマが判断するわけだ

また、ウインカーを出した状態でアクセルを踏んでも加速する。これはドライバーが加速する意図ありとクルマが判断したためだ。しかし、ウインカーなしでレーンチェンジ&アクセルベタ踏みだと、加速は抑制される。


●ウインカー操作のありなしも、作動条件に含まれている

試乗してみると、あえて誤作動を起こそうとすれば起こせるが、公道を走っている状況では、ほとんど誤作動を起こさないという印象だ。このシステムで救われる人は、かなり多いはず。

この「急アクセル時加速抑制機能」は、ドライバーの意図に反して加速を抑制する可能性もわずかにある。完全無欠の機能ではないかもしれない。しかし、トヨタの「交通事故死傷者ゼロ」に対する本気度が、ひしひしと伝わってくる新機能なのであった。

〈文=driver@web編集部 写真=岡 拓、driver@web編集部〉

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