2020/06/25 コラム

クルマは買うより借りるが得? トヨタのサブスク「KINTO」の罠|木下隆之の初耳・地獄耳|

■KINTOのCMに度肝を抜かれた

「クルマは買わないほうが得なんスカねぇ」

担当編集者のKが突然にそう言い出した。

「はあ? そんな不遜なこと、誰が言ったのか? 」

「トヨタです」

「そんなバカな話があるか…」

聞けば、トヨタが展開しているサブスクリプション「KINTO(キント)」のCMで、タレントがそう言っているというのだ。サブスクリプションとは、いわば定額契約である。買わずに借りる方式を意味する。トヨタは借りることに抵抗のないサブスク世代をターゲットに、KINTOを展開している。なるほどCMでは、菅田将暉と矢本悠馬と二階堂ふみが語り合う。そのなかで、クルマを所有することの是非が軽いタッチで語られ、最後は刺激的なキャッチフレーズで締める。

「買うより得、らしい」

そのCMを目にして、担当のKは目を丸くしたという。

「だってCMのクライアントは、自動車メーカーのトヨタですよ。『クルマは借りるより買え』っていうのが筋じゃないですか。買ってもらわなきゃ儲からないッスから」

長尺のCMではさらに刺激的な文言を連発する。菅田将暉が「クルマが若者から離れている」と言い、「クルマを持つと金がかかる」と言い捨てる。矢本悠馬は免許不所持者を演じ、それを恥じることなく笑い倒す。そしてこうのたまうのだ。「クルマ買うのってメンドくさくね⤴︎」。

さらに、二階堂ふみが「クルマ買うのに手続きがめんどう」と言い、菅田将暉は「スーツ着ちゃって、緊張する」と販売店をディスる。確かに自動車メーカーが展開するCMとは思えない内容なのだ。

「トヨタ内でね、購買意欲を刺激する仕事をしている人がいるのに、一方で買わないほうが得だなんて言っちゃっていいんスカ?」

まったく二の句が告げない。

ただ、それも納得がいく。クルマ離れの世代がいることは確かだし、だったらサブスクでも乗ってもらったほうがクルマは流通する。せめて、クルマから離れることは抑えられる。そう考えたのだろうと想像する。

「ただ、社内では販売に命をかけている人もいるわけですし、販売店の営業マンもいる」

「そりゃ気分悪いだろうね」

「とはいうものの、背に腹は変えられないんだろうね」

ネット時代、もう世間は綺麗事ばかりを並べ立てたCMには響かない。本音の言葉にしか響かない。YouTubeしかり、SNSしかりだ。だから正直な言葉を役者に語らせたんだろう。

■KINTOから透けて見えるトヨタの罠とは

「キノシタさんもYouTube始めたんですよね」

「そうだ、君はチャンネル登録したのかな?」

「まだです」

「それはけしからん(怒)」

「バツとしてここで宣伝させてもらう」

【木下隆之channelCARドロイド】

チャンネル登録、よろしくお願いします。

「キノシタさんのYouTubeも本音ですか?」

「そうだ。だからチャンネル登録者がうなぎ上りだ」

「それって、自慢話ッスか?」

「いや、宣伝だ」

「で、KINTO のCM、どうなんですか?」

「いやはや、これには周到な罠が仕掛けてある」

「ワナ?」

「若者のトヨタは離れを防ぐには、よくできたCMだと思うのだ」

「キノシタさんもCMのドライビングディレクターとして、制作に携わっているんッスよね?」

たしかに数々の動画制作を手掛けている。その経験上で思うのは、トヨタが魅力的なメーカーであるとするメッセージが込められているのだ。若者の気持ちに寄り添うトヨタというイメージを訴求することに躍起になっている。サブリミナル的にKINTOサブスクの言葉が繰り返され、いつしかクルマに乗ることの楽しさが刷り込まれ、ぶっちゃけ、トヨタって、なんつーか、わかる感じ、になるわけだ。

「社長の豊田章男さんは、クルマ会社ではなくモビリティカンパニーになると宣言した」

「だから?」

「トヨタ車を売るのだけでなく、トヨタのある社会を創造しようとしているのだ」

「だからKINTO? それは表向きだ。トヨタが愛されることが狙いなのだ」

「なるほど、ワナはそれッスね」

「僕がいま手掛けている動画を楽しみにしていて欲しい。テイストは似ている」

「それ、なんのCMですか?」

「それはいずれ僕のFacebookで明らかにする。そして僕のFacebookのアドレスは…」

「それ、けっこうです(怒)」

〈文=木下隆之〉

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