現在のミニの各モデルは、ベーシックなONEやクーパー、クーパーS、ディーゼルのクーパーDとクーパーSD、そして高性能バージョンのジョン・クーパー・ワークス(以下JCW)など、さまざまなバリエーションが用意されている。ミニ・クラブマンとミニ・クロスオーバーには4WDのALL4も設定されていて、「コンパクトで個性的なデザインを備えた、元気のいい走りが魅力のクルマ」というミニの世界観は、今なお大きく拡大中だ。
とはいえ、「ゴーカートフィーリング」と表現されるスポーティな走りは、今もミニ・ブランドにおける最も重要な価値のひとつである。ここをないがしろにしてはミニがミニでなくなると言ってもいい。
昨年12月に、世界3000台限定で発売されたミニJCW GPは、そんなミニのスポーティネスを、モータースポーツのノウハウを盛り込んで極限まで引き上げたスペシャルな1台。2006年に3ドア(R50)クーパーSにメーカーオプションとして設定された「ミニ・クーパーS with JCW GP kit」を初代、2012年に世界2000台限定で発売されたミニJCW GP(R56)を2代目とすると、今回は3代目となる。今回はこの最新のミニJCW GPの走りを、千葉県にある袖ヶ浦フォレストレースウェイで体験できた。
写真を見てもらえばわかるとおり、最新のミニJCW GPは、とにかくルックスのインパクトが抜群だ。前後バンパーや専用デザインの18インチ軽量アルミホイールはもちろんだが、何より目を引くのは、フローティング構造が特徴的な前後のリサイクルカーボン製オーバーフェンダーや、よく見るととても凝った形状の8の字型ルーフスポイラーである。これらは10mm低められた車高と相まって、極めてスポーティなイメージを放つと同時に、エアロダイナミクスの点でもしっかり機能するようにデザインされているという。
コクピットまわりも専用アイテムがいくつも採用されている。まずメーターパネルは、昨年発表されたEVのクーパーSEにも備わる楕円形のデジタルディスプレイだが、表示内容はもちろん専用。またステアリングホイールは12時の位置にメタル製のマーカーが備わり、パドルシフトも専用のメッシュ状のデザインとなっている。このパドルシフトは3Dプリンター技術を用いて制作されたそうだ。
そしてレッドのステッチがあしらわれた、レザー/ダイナミカの専用スポーツシートは、サイドサポートがしっかりしていて、座った瞬間からダイナミックな走りへの期待が膨らむ。フロントシートの直後には、鮮やかなレッドに塗装されたロードプロテクションバーが装着され、リヤシートは軽量化のために取り除かれた。ミニ・ブランドの頂点に位置づけられるモデルとして、相当な懲りようである。
搭載エンジンは、最高出力306ps/5000rpm、最大トルク450Nm/1750〜4500rpmの2L直4ターボ。組み合わされるトランスミッションは8速ATである。こちらはすでにミニJCWクラブマンやミニJCWクロスオーバーにも採用されているパワートレーンで、機械式LSDも同様に備わっている。違いは4WDではなくFFである点だ。
トグルスイッチでエンジンを始動し、Dレンジに入れてコースイン。まずはコース確認のためにゆっくり流すが、ステアリングやシートからは非常に高い剛性感が伝わってくる。トレッドはフロントが1520mm、リヤは1510mmへ、前35mm/後25mm広げられ、ダンパーとスプリング、スタビライザーも専用にチューニングされているが、ステアリングフィールに癖は感じられず自然だ。
最終コーナー手前から右足を深く踏み込み、306馬力のエンジンに鞭を入れると、マシンは豪快なエグゾーストノートを放ちながらバックストレートを猛烈な勢いで加速してゆく…速い! 0→100km/h加速が通常のミニJCWより0.9秒も短い5.2秒というタイムは伊達じゃない。
コーナリングもキレ味抜群だ。ストレートエンドで170km/h超からフルブレーキングで100km/h程度まで速度を落としながらステアリングを切り込むと、スッとノーズが向きを変えて狙いどおりのラインをトレースしてゆく。減速Gが残ったままでもリヤのスタビリティはまったく失われず、挙動が不安定になるようなことはない。ハイスピードの複合コーナーで、コーナリング中にステアリングを切り増すような場面でも、その動きはステアリング操作にとてもリニアで、まさにオン・ザ・レール感覚。あらゆる走行状況でスタビリティが抜群に高く、まさにゴーカートフィーリングの極みである。
足まわりのセッティングも、引き締まってはいるがしなやかさもあり、路面のうねりや縁石に乗り上げたときでも不快な突き上げは感じない。それだけにドライバーは加減速とライン取りに集中できるのだ。結果、周回を重ねるごとに、理想の走行ラインを突き詰め、0.1秒でも速く走りたくなってしまうのである。
そういった意味で、このミニJCW GPは、いわゆるホットハッチとは楽しさのベクトルがやや異なっている。速さ、そしてクルマの挙動をコントロールするのが楽しい一般的なホットハッチとは違い、ミニJCW GPは、針の穴を通すような緻密な走りが出来たときに、最高の満足感が得られる。そんなレーシングカーのようなモデルなのである。
だからこのクルマが本領を発揮するのはサーキットだ。一般道でも加速のよさやオン・ザ・レール感覚のハンドリングを感じることできるが、この高いポテンシャルの半分も引き出せないだろう。手に入れることができた人は、ぜひ定期的にサーキットへ足を運んで、そのレーシーな走りを楽しんでほしい。
価格は576万円。決して安くはないが、ベースとなったミニ3ドアのJCWから110万円高という設定はバーゲンプライス! 国内割り当て分の240台が、発売から2カ月で完売となったのも頷ける出来映えだ。
〈文=竹花寿実〉
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