2020/06/17 コラム

映画「フォードvsフェラーリ」の主役「フォードGT」誕生の経緯に迫る【東京オリンピック1964年特集Vol.11】

前回東京オリンピック開催年、1964年を振り返る連載11回目は、driver1964年6月号に掲載された「フォードGT」、そして中国初の国産乗用車ブランド「紅旗」についてだ。

〈該当記事はこちら〉


■フォードGTのベース車があった?

例年ならル・マン ウイークだ。

2020年のル・マン24時間レースは6月13~14日に行われるはずだったが、新型コロナウイルスの影響でとりあえず9月19~20日に延期が決まった。

ル・マンといえば、2019年にアメリカで公開された映画「フォードvsフェラーリ」が話題になった。日本では2020年1月にロードショー、春からはデジタル配信やDVDなどのリリースが始まっている。このストレートすぎるタイトルは――わかりやすいといえばわかりやすいが――もう少し何とかならなかったのかと、個人的には思うんだけど。


●20世紀フォックス公式HPより

その主役と言っていいマシンの誕生が、driver誌の1964年6月号で伝えられている。のちにGT40と呼ばれるフォードGTだ。フォード公式サイトにあるヒストリー「Ford vs. Ferrari」によれば、生産開始から7台目まではVIN(車両識別番号)が「Ford GT」で始まったが、それ以降は「Ford GT40」になったという。わずか40インチ(1016㎜)の全高に由来することは、ご存じのとおり。


開発のベースになったのは、「1963年のロンドン・レーシングカー・ショーでセンセーションを起こしたローラGTである」(文中より)。レーシングコンストラクターのローラ・カーズは、第1期ホンダF1が2勝目をあげたRA300(1967年)のシャシー開発や、F3000やフォーミュラニッポンなどへのシャシー供給で、日本のレースファンにもなじみ深い。そのローラが初めて手がけたスポーツカータイプのレーシングシャシーが、ローラGTと呼ばれるローラ・マーク6だった。フォードはマーク6にエンジンを供給している縁があった。


4.2L・OHVのフォード製V8は372馬力を発揮。エンジニアリングにはフォード最新の設備と技術が生かされ、最高速は推定で215mph(344㎞/h)に達した。

「フェラーリを相手にルマン・サーキットのムルセェーン・ストレート(直線)を200mphで疾走する姿は、けだし見ものであろう」(同)


●1964年のル・マン24時間レース

ムルセェーンとはミュルサンヌのこと。今ではユーノディエールのほうが通りがいいかもしれない。それにしても半世紀前の300㎞/h超って、いったいどんな世界だったのか!?

■中国初の乗用車ブランド「紅旗」

さて、フォードGTからページを繰ると、5ページ後に対極的なクルマが登場する。


紅旗だ。中国初の国産乗用車ブランド。中国要人のショーファーカーとして第一汽車が手がけた。最初のモデル、CA72が登場したのは1958(昭和33)年。


記事は4月に開催された中国見本市で取材されたものだ。会場は記されていない。東京だとすれば、1959年に完成し1987(昭和62)年まで東京モーターショーの会場になった、「晴海」こと東京国際見本市会場だろうか。日中の貿易は1962年から進展していたが、国交回復にはまだ8年も前の時である。

ボンネットの中央先端には、まさに五星紅旗をイメージした赤いマスコット。


「お国柄が偲ばれるのは名前だけでなく、車全体も中共の産物らしさを感じさせている。(中略)カタログもなく、説明板にはV型8気筒、210馬力、160㎞/hとだけ出ていた。口の堅い係員は排気量5.6Lとだけ話してくれた」(同)


果たしてその実態は、1955年型のクライスラー・インペリアルC69を模して開発されたというのが定説になっている。


●1955年型クライスラー・インペリアルは写真手前

脱線するが、インペリアルと聞いて思い出した“珍車”がもう一台ある。「ウルトラセブン」に登場したポインター号だ。ウルトラ警備隊が搭乗するこの専用車は、57年型インペリアルをベースに大幅な架装が施されたものであることが、マニアの間では知られている。自動車がまだ発展途上だった東洋で、インペリアルは意外な人気車だったのかもしれない。

■世界はアメリカと中国を中心に…

あれから半世紀余り。フォードGT40は最新スーパーカー「フォードGT」として、2017年に再び復活を遂げた。


●現行型のフォードGT

かたや紅旗は、第一汽車がその後トヨタとの提携などで成長を続け、現在ではモダンなSUVまでラインアップしている。2020年の第1四半期には2万5000台超の販売台数を記録し、さらなる飛躍を目論む。そして、C72の系譜もデザインモチーフを受け継ぎながら、ついに完全自社設計を成し遂げたLシリーズとして現在まで続いているのだ。しかも、L5は日本語のウェブサイトまであるからビックリ。

アメリカと中国。今日の両国の姿をいったい誰が予想しただろうか。そして、両国を中心に世界はこれからどう変わっていくのか。

〈文=戸田治宏〉

RANKING