SUVブームで各社さまざまな車種を投入しているが、たびたび目にするのが、悪路を走行している写真や動画だ。普段のドライブでそんなに悪路を走ることはないかもしれないが、SUVを乗るなら気になるという人も多いだろう。「悪路の走破性」と、ひとことで言ってもわからない、その判断基準。それなら専門家に聞いてみよう! 今回の書き手は、数々のオフロードコース試乗などでインストラクターを経験している、自動車ライターの吉田直志さん。○○アングルだけではわからない、悪路走破性の判断基準とは?
SUVの悪路走破性を表すときに使われる数値といえば、最低地上高、それとディパーチャーアングルやアプローチアングル、ランプブレークオーバーアングルなどの対地障害角(一般に言われる3アングル)。だが、本当の走破性はそれだけでは表せないところがある。例えば、スバル フォレスターは220mmという最低地上高を誇るが、本格的オフローダーと呼ばれるスズキ ジムニーでは205mm、ジープ ラングラーでは200mmといずれもフォレスターに劣ることになる。しかし、リアルワールドではジムニーやラングラーのほうが走破性が高いのは、その計測方法だけでは表現できない何かがあるからだ。
そもそも最低地上高とは、タイヤやホイールなどを除いた、そのモデルでもっとも路面に近いポジションにおける距離のこと。フロア下をのぞいてみると分かるが、乗用車プラットフォームベースのフロアは全体が最低地上高かのようにフラットであるのに対して、ヘビーデューティを名乗るモデルはスカスカであり、最低地上高とされるパートがフロアの一部分であることが分かる。
もし、行く手に転がっていた石が尖った形状をしていて、その一部の高さが205mmであったならば、ジムニーとラングラーは少々のヒットを許したとしてもタイヤ4輪が浮いてしまって動けなくなることはない。この高さであれば接地輪にトルクを伝えることで、半ばゴリ押しとばかりにクリアさせてしまう。こうやって走らせることは自動車メーカー側も承知しているので、この手のモデルではヒットしてしまうポイントの強度を高くしてあるし、さらには、スキッドプレートを配してクリアしやすいようにも仕立ててある。だから、最低地上高だけでは走破性を一概に言い切れないところがあるというわけだ。ちなみにスキッド(skid)とは滑らせるといった意味があり、アンダーガードのような守るだけではない機能性がそこには与えられている。
もちろん、その石の形状がフラットに205mmの高さを続けるような形状であれば、ジムニーとラングラーは前進できないかもしれない。しかし、どんな悪路であろうと路面はアップダウンしており、石だってひとつだけが転がっているわけではない。そういった地形を逆手に取ることで、フロア下に大きなクリアランスを作り、クリアしていくことができるものだ。
ちなみに、オフロード走行の基本は障害物を逆手に取ることである。凸があったならばそこにタイヤが当たるラインを選んで乗り越えるように走ること、そして、凹があったならばそれをまたぐようなラインを取ること。これはボディをヒットさせないためのドライビングテクニックで、そこで求められるのは、いかにして障害物をボディよりも先にタイヤに当てられるか、にある。この、障害物を逆手に取り走破性に生かすというドライビング方法で有利とされるのが、左右輪をホーシングで繋げたリジッド構造(その理由は別の機会に)だ。逆に言えば、乗用車ベースのSUVが採用している4輪独立懸架式は、その意味合いで不利となる(あくまでも基本的に)。
いずれにしても、走破性を語るにはやはり3アングルが優秀なほうが有利なんでしょ? と思われたかもしれないが、最低地上高同様にこれもまた指標に過ぎない。先ほど、障害物に対してボディよりもタイヤをいかにして先に当てられるか、そして、障害物を乗り越えられるかが重要となると述べたが、想像して欲しい。アプローチアングルにおいていかに優秀な数値を持っていても、もし、バンパーのボトム部が路面に近いようなデザインをしていたならば、障害物にタイヤを当てる前に、まずバンパーをヒットさせてしまう。
つまり、走破性だけを考えると、フロントオーバーハングにおいては何もないことが、理想となる。もちろんこれは現実的ではなく、その理想を追求したスタイルとして、フロントバンパーのボトム位置をできるだけ高くしたデザインや、バンパーの左右を上方へとカットした造形が見られるのである。アフターパーツではさらにそれを極めたデザインが多くリリースされているのも、そうした機能性を追求したスタイルによる。
ならば、オフロード走破性を語るにはバンパーボトムを取り払い、できるだけスッキリとさせてしまえばいいではないか、と思われたかもしれない。だが、法規対応はもちろんのこと、それは日常においてはあれやこれやと逆効果となる。
たとえば、空力性能においてフロントで受けたエアをフロア下へときれいに流すためには不利であることは一目瞭然。また、水たまりへと侵入した際に跳ね上がるスプラッシュを抑えるという役割がバンパーのボトム部にはあり、オンロードであっても大雨の際には、まさに水たまりに”突っ込む”と、一瞬前方の視界が奪われるという不都合も出てくる。余談だが、ジープ グランドチェロキーの3世代目モデルでは走破性と実用性をバランスさせる策として、バンパーボトム部を手で取り外せるスタイルを採用した。だが、実際に外すには面倒だったのに加えあのモデルにそこまでを求めるユーザーも少なく、現行型では廃止となっている。
というように、SUVには3アングルや最低地上高だけでは語れない、本質がいろいろとある。今回は触れることができなかったが、オフロード走破性を語るならばシャシーの作り方や、タイヤ、さらには4WDシステムといった、さまざまな要素がそこにプラスされるもの。ここでお伝えしたかったのは、乗用車ベースのSUVに対してオフロード走破性を語るな、なんて乱暴なことではない。指標とされる数値だけに惑わされることなく、本質までを見極めて、そして自分にぴったりのモデルを選んで欲しい、という想いにある。
ちなみに、三菱のSUVたちは、これらスペック以上の走破性がデザインされている。三菱 ジープから始まり、パジェロに引き継がれてきた四駆の本質を追求してきたスタンスが最新のモデルにも引き継がれているからこそ。たとえば、デリカD:5。最新型になってスペックダウンを余儀なくされたように見えるものの、その走破性はスペックから受けるイメージ以上であり、これはエクリプス クロスも同様だ。これは次回詳しくお伝えしようと思う。
いずれにしても、オンとオフをいかにしてバランスさせるのか、それともどちらかを突出させるのか、その仕立て方こそにSUVの個性と魅力が表現されている。だから、SUVはどれも同じと捉えないほうがいい。それぞれのブランド、それぞれのモデルに個性がありこだわりがある。そう、SUVはなんとなくで選ばないほうがいい。
<文=吉田直志 Naoshi Yoshida>
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