前回東京オリンピック開催年、1964年を振り返る連載10回目は、driver1964年6月号の付録「第2回日本GP速報」に関して。スカイラインGTとポルシェ904対決の裏側で何が起きていたのか。
driver1964年6月号で最大の目玉は、同年5月2~3日に鈴鹿サーキットで行われた、第2回日本GP(グランプリ)の速報だ。それも4ページではあるが、B4判タブロイド紙のような「緊急付録」の体裁だから気合いが入っている。
ただ、紙面の内容はというと、全10レースの結果と表彰台の写真、優勝者のコメント、レースシーンのスナップ集、レースや大会運営にまつわる裏話やエピソードなど。第2回日本GPといえば、GT-Ⅱクラスにおけるポルシェ904とスカイラインGT勢の対決があまりにも有名だが、たった1周とはいえ生沢徹の駆るスカイラインが904を抜いてトップに立ち、グランドスタンドが大歓声に包まれたという伝説のレース展開には、いっさい触れられていない。
しかし、スナップ集の中には貴重なカットがあった。904は5月1日の公式練習中、ちょうど振りだした雨の中でスピン。ガードレールに激突してフロントを大破してしまう。メカニックの2晩徹夜の修復作業で3日の決勝当日に再び姿を現し、それも同様に語り草となっているが、その大破して間もないコース脇の904と、徒歩でパドックへ戻るドライバー式場壮吉の姿が掲載されているのだ。
「ピットパドックの裏窓」には、さらに興味深い裏ネタが載っている。
「5月1日午前8時頃、S選手が女性を乗せて、四日市市の公道上をブッ飛ばし、右側通行するのを見た。車は日本にタッタ1台しかないポルシェ904。もち論日本GP用のものだ。マシンはレース終了まで選手とメカニックが大切に扱うべきものなのに、これは一体全体どういうことなのか」(文中より)
そして、その1時間半後に始まった公式練習でクラッシュ。
「幸い彼に怪我はなかったが、プラスチックボディは台無しになってしまった。この出来ごとは、『最も安全な者が最も速い』この言葉の意味をレースから学びとるべき一つのサンプルか」(同)
ドライバー名がこの文中だけイニシャルなのは謎だが、せめてもの忖度だろうか。見出しは「勝利と安全」。なかなか風刺がきいている。
この第2回日本GPに参加したドライバーは186人。うち21人が招待選手を含む外国人ドライバーだったが、リザルトにある2人の名前が目に留まった。2人の活躍は「大会点描」でも触れられている。
一人はアメリカ人のロニー・バックナム。アメリカ・ホンダの推薦でホンダS600に乗り、GT-Ⅰクラスで優勝している。
「彼はイギリスの名ドライバー・ブラバムの直系として、ギンサーと共に、ホンダF-1に乗っての出場が予想される中の1人である」(同)
それは現実となり、3カ月後のドイツGPでホンダRA271とともにF1デビュー。ホンダF1第1期のドライバーとしても名を残すことになる。
F1といえば、日本初となるフォーミュラレースがこの日本GPで行われた。JAFトロフィーレースだ。マシンはフォーミュラ・ジュニアで12人の外国人ドライバーが出場しているが、その優勝者が目に留まったもう一人。マイケル・ナイトだ。
このドライバーについては寡聞にして知らないが、「マイケル・ナイト」といえば筆者の世代にはデビッド・ハッセルホフ演じる「ナイトライダー」の主人公である。ナイト選手はイギリス人とのことだが、ナイト2000を駆って悪と戦ったマイケルの名前とは何か関係があるのだろうか!?
大会点描を読むと、上がり続ける「入場料」に観客の不満の声もあったようだ。
「昨年は500円、そして今年は600円だ」(同)
当時の物価は、例えば映画館の入場料が350円、後楽園球場の巨人戦指定席は400円。大卒公務員の初任給は19100円で現在のだいたい10分の1だから、単純に10倍すると今の6000円くらいということになる。それでも2日間で24万人の観客が押し寄せたというから、かなりの人気だったことがわかる。これは鈴鹿に来て2年目の1988(昭和63)年F1日本GP(3日間で23万3000人)を凌ぐ動員数。しかも当時、高速道路は名神の関ヶ原IC-尼崎ICが開通しているのみで、新幹線はまだ開業前だったのだ。
〈文=戸田治宏〉
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