2020/06/11 コラム

新型車試乗でよく聞く「プロトタイプ」って何者!? 市販車と何が違う?|木下隆之の初耳・地獄耳|

■トヨタ ハリアーのプロトタイプに乗る

トヨタ ハリアーがデビューした。久しぶりのフルモデルチェンジに興奮を抑えきれない。勇躍、試乗会が行われた袖ヶ浦サーキットに足を運んだ。といっても、発売前のプロトタイプという立ち位置である。


●新型ハリアー。発売前のクルマは、サーキットなどのクローズドコースで試乗会が行われる

そんなとき、担当編集者のKがまた、わがままを言い出した。

「せっかくの新車なので、街なかを走らせましょう」

それは無理な相談なのだ。というのも、プロトタイプは一眼に晒せいなという事情がある。

「街なかで見せびらかせましょうよ」

確かに話題の騒然のクルマである。多くの方が一刻も早く、観たいと思うはずだ。だが公道を走ることは許されない。

「なぜ、持ち出せないンスか?」

「それはプロトタイプだからだ」

「プロトタイプ?」

無知な担当者を抱えると、だから頭が痛いのだ。

プロトタイプとは、いわば試作品である。製品を開発する過程に発生する製品のことだ。設計に問題がないか、実際に走らせて完成度を確認するモデルのことだ。未完成だからまだ人目に晒せないのである。

「そんなのを、口の悪いジャーナリストに乗せちゃっていいンスか?」

「僕の口は悪くない(怒)」

「じゃ、辛口ジャーナリスト」

「辛口でもない。歯に絹を着せないだけだ」

「それを辛口というンスよ(笑)」

「それでも、我々に取材する機会を与えてくれるわけだから、感謝せねばならん」

「それで、ハリアーは未完成でしたッスか?」

プロトタイプであることは真実だけど、限りなく完成車に近い。なかには内装の生地が市販車モデルと異なるとか、ホイールの意匠がちょっとだけ違うとかの開発車両が混じっていることもあるけれど、99.999%市販モデルだといっていい。そのつもりで僕はインプレッションを記事化しているつもりである。

「プロトタイプなので、不具合などないンスか?」

「だから99.999%完成していると言ったはずだ」

「でも、何か気に入らないことがあると、『これはプロトタイプだから無視してください』なんて言われたりしないンスか? メーカーの逃げだったりして…」

「それは…(汗)」

「あるンスね」

「まあ、時と場合によっては…」

「ほらっ」


●内外装のクオリティは市販車とほぼ同じなのだが…

「でも、ハリアーではまったくない」

「ほんとッスか?」

というよりむしろ、いざ市販されるときの方がむしろ、完成度が高いことが多い。これが実際に本格的な生産ラインになると、完成度が高まるから不思議である。ボディ剛性なんて、市販モデルが優っている場合が多いのだ。つまり、我々が乗るプロトタイプよりも、市場に流れるモデルの方がいいのである。

「なるほど…」

「納得したか?」

「はい、辛口ジャーナリストでないことはわかりました」

「そこじゃないだろ(怒)」

〈文=木下隆之〉

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