2020/05/29 ニュース

三菱の主力車種!…エクスパンダーはなぜアセアンでそんなに人気なの?

■エクスパンダーの本国はインドネシア

先日発表された三菱自動車の2019年度決算報告。そのなかで「三菱自動車の主力車種へ」として紹介されたのが「エクスパンダー」だ。


しかし、日本人においては耳馴染みのない車名と感じる人が多いことだろう。なにせ、日本で売っていないし注目されてもいないクルマだからだ。しかし、2017年のデビュー以来販売地域を拡大するとともに、販売台数も増加の一途。2019年はタイ、フィリピン、そしてベトナムにおいてクラス(タイとベトナムは「MPV」、フィリピンでは「スモールMPV」)の最量販車種に輝き、年間販売台数は11万4000台をカウントした人気モデル。三菱にとって欠かせない車種なのだ。


エクスパンダーの本国と言える、生産拠点にもなっている国は、日本の約2倍となる約2.6億万人の人口を抱えるインドネシアである。

デビューは2017年8月のインドネシア国際オートショー。発売されるやいなや事前の想定を超えるほどの大人気となり、本来であれば翌年3月末にタイへ輸入車として導入される予定だったものの、あまりの売れ行きに供給が追い付かないことからタイ導入が延期となったほどだ。その後2018年夏には生産を拡大し、2019年2月からは日産へ「リヴィナ」としてOEM供給をスタート。


●日産リヴィナ

また2019年11月からはSUVテイストを強めた派生モデル「エクスパンダークロス」も追加。こちらも販売台数拡大に一役買っている。



●エクスパンダークロス

■インドネシアのクルマ事情とは?

エクスパンダーの人気の理由を紐解くには、まずはインドネシアのクルマ事情を知る必要がある。2019年の販売のうち約半分が、インドネシア国内向けだからだ。


●インドネシアのカーオブザイヤー2018を獲得。部門賞のベストオブザベストMPV賞とベストオブスモールMPV賞も受賞している

インドネシアの人気ジャンルは少し独特。セダンでもコンパクトカーでも、SUVでもなく「MPV」のニーズが強いのである。ボディはかつて日本で流行った「ロールーフ型ミニバン」に近いボンネットが突き出た3列シート、そしてスライドではなくヒンジ式のリヤドアを組み合わせたパッケージングだが、SUVのように最低地上高を高くした、いわゆるクロスオーバーSUVとしているのがポイントだ。ロールーフ型ミニバンとSUVのクロスオーバーといってもいいだろう。それらにも「大型」と「小型」があるが、エクスパンダーは小型に属する。


ライバルはトヨタ「アバンザ」やスズキ「エルティガ」、ホンダ「モビリオ」(かつて日本で売っていた小型の箱型ミニバンとは異なる)など。いずれも日本人にとってなじみのないモデルだが、小型の3列シーターで最低地上高が高め(エクスパンダーは200mm確保)というパッケージングは共通している。


●トヨタ アバンザ

●スズキ エルティガ

●ホンダ モビリオ

■目が肥えてきた現地ユーザーに“刺さった”

そのなかで、エクスパンダーが高い人気を得ているのはどうしてか。


ひとつはボディサイズにある。エクスパンダーの車体サイズは全長4475mm×全幅1750mm×全高1695mm。これは今なおクラス最大で、今でこそ大型化しこの全長に近づいたライバルも登場したが、デビュー時にはライバルに対して明らかに全長が長く、差別化が図られていた。そんなサイズは単に実用性を高めるだけでなく、見栄えを重視する東南アジアの人々にとっては大切なこと。大きく立派に見えることは美徳なのだ。


2つ目は実用性。車体が大きなぶんだけ室内スペースにゆとりがあり、特に3列目の居住性はライバルに勝っている。当然ながら3列目を畳んだ際の荷室容量もリードし、本気でクルマを使い倒すユーザーを喜ばせる(口コミの評価もアップする)。


●3列目への乗り込み時、2列目シートはしっかり前に倒れる

●荷室も含めて、室内の実用性はかなり高い

さらに評価されているのはデザインだ。いかにも“箱”で洗練度が低く、チープな印象を拭えないライバルたちに比べてエクスパンダーのエクステリアデザインは洗練されている。長めの全長を生かした伸びやかなフォルム、アグレッシブでシャープなフロントマスク、そしてエッジを効かせたサイドライン。いずれもがライバルのデザインを凌駕し、現地の人々の支持を得ているのだ。見比べると、泥臭いライバルとはデザインクオリティまったく違う。経済成長に伴って目が肥えてきた現地のユーザーは、そこをしっかりと見ているのである。


デビュー時にインタビューした開発者は「狙っていくのはライバルよりも若いファミリー。大胆でスタイリッシュなデザインは若い層へ向けたアピールです。生活感を漂わせない、高級ホテルへも横付けできる雰囲気にしたかった」と教えてくれた。


車体構造はモノコックで、プラットフォームはコンパクトカーの「ミラージュ」用をベースに延長・強化したものを使用。ここはコストが抑えられていて、エンジンは自然吸気の1.5Lで105ps。トランスミッションは4速ATと5速MTを用意している。


■コストをかけるところが日本とはちょっと違う

筆者がタイで試乗したのはATモデル。発進加速は「速くはないけれどスペックを考えれば意外に遅くない」という必要最低限といった印象。スラロームなどをするとロールは大きめだが挙動が穏やかで唐突な動きや不安はなく、想像していた以上に芯のある走りだった。


ごく一部では日本導入を希望する声もあるようだが、自動ブレーキなど先進安全システムが搭載されていないでこのまま輸入するのは厳しい。とはいえ日本導入のために大改良をすると価格が大きく上がってしまうので、難しいところだろう。

〈文=工藤貴宏〉

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