2020/05/18 コラム

「移動式オービス」と呼ぶのは間違い?「新たな速度違反自動取締装置」の呼称問題

移動式、というより新型のほうが相応しい


ネットでは「移動式オービス」(または「移動オービス」。以下同)という呼び方で固まっている。しかし私はネットに逆らい「新型オービス」と呼び続けている。なぜなのか。そこんとこ、はっきりさせておこうと思う。

「新たな速度違反自動取締装置」、それが警察庁の呼び方だ。合計13文字、長いのに略称はない。どんな略称が適当だろう。


●警察庁のWebサイトより。「新たな速度違反自動取締装置」は可搬式、半可搬式、固定式の3種類。固定式は細いけれども頑丈な支柱に固定され、移動しない

速度違反自動取締装置は1970年台の後半に登場した。現場では装置が自動的に測定と撮影をおこない、写真に映ったナンバーから違反車両の持ち主を特定、違反者を警察へ呼びだして取り締まるという画期的な装置だった。


最初の装置は東京航空計器の「オービスⅢ」。その後、他社が同様の装置を製造販売し始めた。三菱電機は「RS-701」など、松下通信工業は「VT-1510」など。片仮名のわかりやすい名称がなかった。そこで運転者たちは三菱や松下の装置も「オービス」と呼んだ。特定の商品名が同種商品の一般名称となったわけだ、セメダイン、ホッチキスのように。

速度違反自動取締装置は一般にオービスと呼ばれる。「新たな速度違反自動取締装置」は装置的にも運用的にもまさに「新たな」である。ここは「新型オービス」と呼ぶのが適当と思われる。

では、「移動式オービス」はどうか。新たな速度違反自動取締装置は3種類、可搬式、半可搬式、固定式がある。固定式まで「移動式」と呼ぶのは適当じゃない。じっさい、「移動式」という言葉が広がりすぎてか、固定式も移動するのだという勘違いがネット上にはあったりする。


●日本無線の「車載式速度監視記録装置 JMA-5E」のパンフレットより。「移動オービス」と呼ばれたものだ。これはレーダー式。ほかに光電式もあった

また、かつて「移動オービス」と呼ばれるものがあった。ワンボックス車の荷室にオービスを積んで道端に駐車し、荷室の後部窓から赤いフラッシュを光らせて撮影するタイプだ。運転者たちは長年にわたり「移動オービス」と呼んできた。2018年をもって終了、廃止になったとはいえ、かつて存在した装置と混同させる名称は如何なものか。


●移動オービスの都道府県別、超過速度別の取り締まり件数。前年までぐんぐん減っており、平成30年(2018年)、とうとうゼロ件になった

以上の理由で私は「新たな速度違反自動取締装置」を新型オービスと呼ぶ。しかしネットでは「移動式オービス」が主流であり私は少数派だ。最初のころ、誰かがなぜか「移動式オービス」と言いだし、それがたちまちネットに広まったようだ。ネットの伝搬力はすさまじいと思う。


ちなみに、ある県警が新型オービスを導入したとテレビ、新聞が報じることがよくある。その際、ときどき「移動式」とされている。いくつかの県警に私は電話してみた。「移動式と記者発表したのですか?」と。どこの県警も答えは同じ、こうだった。

「我々は移動式という言葉は使いません。新たな速度違反自動取締装置のうち可搬式とお伝えします。どう報じるかは各社さんの判断です」

一般の視聴者、読者に「可搬」という語は難解であり、ネットに合わせておこう、そういう判断かなと私は想像している。

〈文=今井亮一〉

ドライバーWeb編集部

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