世の中には、フルモデルチェンジされずにその役目を終え、一代限りで消えていくクルマがある。そんななんとも悲しいクルマたちを毎回1台取り上げ、「なぜそんな憂き目にあってしまったのか?」と振り返ってみようと思う。
パッソセッテとブーンルミナスは、トヨタとダイハツがタッグを組んで開発し、2008年12月に送り出したコンパクトサイズのミニバンだ。ネーミングからもわかるように、そのベースはパッソ/ブーン。初代シエンタの後継車種として開発され、ホイールベースは初代シエンタより50㎜も長い2750㎜とし、3列シートの7人乗りを実現した。エクステリアは、ミニバンというよりハイトワゴン的なルックスだ。全高は1620㎜と、シエンタより50㎜低い。だから、5ナンバーサイズでもワイドに感じられた。
エンジンは1.5L直4。最高出力は80kW(109ps)/6000rpm、最大トルクは141Nm(14.4kgm)/4400rpmだ。トランスミッションは無段変速機のCVTではなく、インパネシフトの4速ATを組み合わせている。駆動方式はFFが基本となっているが、多くのグレードにトラクション能力の高い4WDモデルを設定した。
キャビンは外観から想像するより広く、1列目も2列目も快適だ。運転席はアップライトなポジションで座るが、着座位置はコンパクトカーより少し高い程度だから乗り降りしやすい。また、見下ろし感覚だから視界はいいし、取り回し性も優れている。ベンチシートとセパレートシートを用意しているのも親切だ。セパレートシートならセンターウォークスルーも可能だった。2列目の膝まわりはフリードとシエンタ以上に余裕があった。が、シート幅が狭く、フロアの中央は盛り上がっていた。だから3人掛けは窮屈だ。2人でゆったり座るのがいい。
3列目はさすがに狭いが、2列目のシートを目いっぱい下げて足元を広くして乗る使い方には適している。そしてときどき3列のマルチパーパスカーとして使うのだ。3列目のシートを畳んでおけば、それなりのラゲッジスペースが生まれ、フロアはフラットだから荷物を積みやすい。2列目は5:5分割可倒式で、これを畳めば奥行きは1.8mまで長くなる。ラゲッジアンダーボックスも小物の収納に重宝した。
走りの実力はクラス平均。1.5Lエンジンは扱いやすいし、4速ATは応答レスポンスも鋭かった。ハンドリングはファミリー派好みの穏やかな味付けとしている。スポーティムードは薄く、安定志向を前面に押し出した。乗り心地もとりたててよいわけではないが、不快ではない。すべてが軽自動車からステップアップしてきた子育て世代のママさんを意識した味付けなのだ。
デビュー直後は販売目標だった3000台前後の販売を記録し、好調な滑り出しを見せた。だが、半年早くデビューしたホンダのフリードに追いつくことはなかったのである。パッソセッテが登場しても、2003年に登場した兄貴分のシエンタはしばらく販売を継続。そして2010年に勇退した。が、パッソセッテの販売が低迷したため、シエンタはあわてて化粧直しを行い、2011年5月に再登板。前代未聞の屈辱劇だった。
パッソセッテ/ブーンルミナスは、ついに両車合わせて200台を切るようになり、12年春に販売を打ち切っている。不振の理由はいくつかあるが、最大の理由はエコカー減税(新グリーン税制)の対象外だったことだろう。地球にやさしい、燃費のいいクルマが望まれ、フリードのハイブリッド車は100%減税、ガソリン車も最大75%の減税だった。設計の古いシエンタでさえ最大50%減税だったのに、燃費の悪いパッソセッテとブーンルミナスは蚊帳の外だったのである。
また、ミニバンらしからぬ中途半端なルックスと後席用ドアがスライドドアでなかったこともマイナスに作用した。売れ筋となっている軽のスーパーハイトワゴンを見れば分かるように、背を高くし、電動スライドドアを採用して乗降性をよくするのがミニバンのイメージとして定着していたのだ。キューブキュービックと同じようにヒンジドアを採用したため、子育て世代のママさんたちを取り込むことができなかったのである。
車両安定制御システムなどの安全装備が充実していなかったことも人気低迷の理由のひとつだ。この時期は安全性に目を向ける人が増えていたのに、首脳陣は甘く見た。パッケージングがよかっただけに、1代だけで姿を消していったのは残念としか言いようがない。
〈文=片岡英明〉
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