2020/04/21 コラム

首都高は速度超過80km/hが運命の分かれ目。スピード違反を罰金で解決できない職業とは?

スピード違反の罰金は思ったよりも安いが…


「スピード違反で捕まっても金で済む。痛いのは免停 (免許停止処分)だ」。多くの運転者がそう思っているんじゃないだろうか。

超過速度が30㎞/h(高速道路と自動車専用道路では40㎞/h)未満は「反則行為」とされ「反則金」を払えば済む。警察庁のデータによれば2019年のスピード取り締まりは約114万件。うち約96万件、約85%は30㎞/h未満だ。


●東京航空計器のオービスⅢLk型かLx型。オービスマップなどでは「LH」と呼ばれる。ストロボとカメラが1対ずつ、2つの車線を狙っている。路面下に埋設したループコイルセンサーで速度を測定し、撮影画像は通信回線で警察の中央装置へ伝送する

超過速度が30㎞/h(高速道路と自動車専用道路では40㎞/h)以上は「非反則行為」とされ、刑事手続きへ進む。刑事手続きとは、検察官が、場合によっては裁判官が関与する手続きだ。通常、いわゆる交通裁判所へ出頭して「罰金」を払うことになる。

反則金の上限は、大型車でも4万円だ。罰金の上限は、酒酔い運転は100万円、酒気帯びと無免許運転は50万円なのに対し、スピード違反は10万円。めっちゃ安い。

しかも現実の道路は、渋滞でない限り制限速度を多少オーバーして流れていることが多い。スピード違反に罪の意識を感じず「捕まっても金で済む」と思っている運転者が多いんじゃないか。

だが! 超過速度がかなり高いと、反則金や罰金では済まない。懲役刑(上限は6月。ろくげつ)の対象とされる。

「かなり高い」とはどれぐらいか。そこは一概には言えない。一般道路か高速道路等か、制限速度は何キロかといったことによって違う。地方によっても違うようだ。

罰金刑と懲役刑の分かれ目とは



私は主に東京簡裁、地裁、高裁で、事件数で8600件以上を傍聴してきた。スピード違反の裁判もだいぶ傍聴してきた。ほとんどは首都高速での違反で、そのすべてはオービスによる取り締まりだ。首都高速の「量刑相場」は、はっきりしている。

超過60㎞/h台 罰金9万円
超過70㎞/h台 罰金10万円
超過80㎞/h台 懲役3月
超過90㎞/h台 懲役4月


首都高速でのスピード違反は、超過80㎞/h未満か以上か、そこが罰金刑か懲役刑かの分かれ目だ。ただしこれは裁判になったら(=起訴されたら)の話。超過90㎞/h台で、検察官により罰金10万円で済ませてもらったケースもある。

懲役刑とされても、直ちに刑務所行きとはならない。別の事件で執行猶予中だとか特別なことがない限り、2年か3年の執行猶予が必ずつく。判決は例えばこう言い渡される。

「主文。被告人を懲役3月(さんげつ)に処する。この裁判が確定した日から2年間、その刑の執行を猶予する」

その2年間にまた何かやって懲役刑を受けるとかない限り、2年過ぎれば懲役3月の言い渡しは効力を失う。刑務所へ行かずにすむ。こう思う方もおいでだろう。

「なんだ、懲役刑でも執行猶予付きなら、財布から10万円とか出ていく罰金刑より俺はいいな」

なるほど、おっしゃるとおり。私も執行猶予付き懲役刑のほうが断然ありがたい。

執行猶予付きでも職を失う仕事とは



ところが! ここからが大事なとこだ。よぅく聞いてくださいよ。執行猶予付きでも懲役刑は懲役刑。公務員は失職、医師は医業停止、不動産業者はさまざまな資格が取り消し、消除の危機に直面する!

起訴され被告人になって初めてそのことを知り「どうか罰金刑!」にと必死にお願いする人がよくいる。仕事を失って家族が路頭に迷うとか、いろんな事情を法廷で述べる人がいる。罰金刑の上限の10倍、100万円の贖罪寄付(反省を示すための寄付)をした人もいる。しかし残念ながらほぼ100%無視される。無視される裁判を私はどんだけ傍聴してきたか。

べつに飛ばし屋でもない人が、高性能のスポーツカーを手に入れ、ついスピードを出しすぎて身の破滅、そんなケースがけっこうある。もともと飛ばし屋の人は、オービスの設置場所を熟知し、またGPSなどで設置場所を報せる装置を装備しており、オービスなんぞには捕まらないのだ。

公務員、医師、不動産業者、そのほか国家資格をもって仕事をしている方は、スピードの出し過ぎにはマジでご注意を!

〈文=今井亮一〉

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