2020/04/20 コラム

公共交通機関は辛い…現役バス運転士が語る「新型コロナウイルス対策」

こんにちは。バス運転士のマーヴェリックです。先日の記事「迷惑行為5選」については、読者の方の否定的な反応もありつつ、肯定的な反応も見られ、バス運転の仕事について理解を持つ方もいるのだなと救われた気持ちになりました。さて今回は、昨今、世界を揺るがせている「新型コロナウイルス」について、バス運転士はどのように対応しているのか、書いてみたいと思います。


運転士はつねに危険と隣り合わせ

新型コロナウイルスが国内に蔓延してから、日本のほぼ全ての企業が大打撃を受けていると思います。特に皆様の“アシ”であるバスも例に漏れず、特に貸切バスを扱う会社は死活問題。苦肉の策で、稼ぎの道具であるバスを売却したり、会社存続のために運転士を解雇したりと、暗いニュースが聞こえてきます。

一方、私の担当でもある路線バスは(私の所属会社では)通常運行を継続しています。お客さんの有無にかかわらず動かすのが公共交通です。しかし運転士は全員、いつ誰がどこでコロナにかかるか、心配を抱えながら運転しています。不特定多数の人が利用する以上、つねに危険と隣り合わせの状況です。

ではバス運転士、およびバス事業者は、どのように対策をしているのでしょうか。私の所属会社では、マスクの着用が義務付けされました。まずはウイルスの体内への侵入を防ぐということですね。そして車内の換気も指示されています。バスには暖房、冷房のほか換気扇が独立してついています。それを最大に動かし、車内の空気をつねに入れ替えながら走っています。

それ以外には、運転士全員、起床後と出社後の2回、体温を測定します。もし自宅でそれ以上の発熱があった場合は数日間待機となります。その後もし陽性であれば、2週間の出勤停止になります。その他会社からは、不要不急の外出を避けることや、休憩室などでの飲食を避けるよう指示がされていますが、ざっと以上がバス運転士がとっている対策となります。

感染・発症したら会社も自身も大変な目に

現状、私の所属会社からは感染者が出ていませんが、もし出てしまうと状況は一変すると思います。最悪を想定しますと、まずは感染した運転士の出勤停止にとどまらず、接触の疑いがある運転士は全員自宅待機となるでしょう。バスももちろん消毒に入ります。運転士がいなく、バスの本数も無限ではないため、運行に影響が出ます。その上、不特定多数の乗客が利用するので、自治体ぐるみの事態に発展します。「運転士を出勤停止にしたからOK!」では済みません。下手したら営業所閉鎖。住民からの信用も失墜しますね。

また、一人の労働者として、大きな問題が収入です。2週間の出勤停止ということは「欠勤」となるわけで、その分の給料が出ません。会社の方針では、有給が残っていればそれに当てるのですが、ない場合は救いようがありません。会社からの有給取得指示は、労働関係の法律に反しているのではないかと、労働基準監督署に聞いてみたのですが、違法には当たらないそうです(3月時点)。明日にでも、不可抗力で感染してしまう可能性があるにもかかわらず、感染したら完全に“負け"です。社会に不可欠な仕事をしているのですから、もう少し補償をしっかりとして欲しいというのが正直なところです。しかしそれは誰でも同じ状況ですから、運転士だけが騒ぐわけにもいかないのかな、とも思います。「公共交通なんかさっさと止めちまえ」という意見もあるかもしれません、しかし“ワッパを回してナンボ”の我々からすると「その分の給料はどうしてくれるんですか」というのが本音です。

特別な対策よりも、一人ひとりの行動が大事

というわけで、バス運転士だから何か特別な対策をしているのかと聞かれると「別に」というのが正直なところです。感染を防ぐためには、運転士自身の対策はもちろんですが、利用者の皆様一人一人の協力もあってこそ、だと思います。車内でマスクをかけずに咳をして喧嘩になったと聞くと、本当に心が痛みます。これはバス運転士だけの問題ではないと思います。一人一人の行動が、人の生活をどん底に落に叩き落としてしまうかもしれません。こんな状況でもバスを利用していただけることは、大変ありがたいことです。乗るなとは決して言いません。ただ、乗るときには、最大限の注意とご協力をして頂くことを、お願いと致します。

〈文=現役路線バス運転士マーヴェリック〉

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