前回東京オリンピック開催年、1964年を振り返る連載3回目は、driver創刊1964年4月号の「国産車仕様価格一覧表」をお届け。え、そんなの?と思いきや。今見てみると、もう知らないクルマばかり…? ※毎週金曜連載中
さて、東京オリンピックが初めて開催された当時、新車で販売される日本車はいったいどのような状況だったのか。それがひと目でわかるのは、巻末近い活版に掲載の「国産車仕様価格一覧表」だ。現在は国内で販売される日本車にも海外生産の車種があるが、当時の日本車は100%“国産”である。
車名型式の欄から見ていくと、乗用車系だけでなく商用バンや軽トラック・バンも掲載されている。それでも車種は、ざっと数えて50ほど。今日ではあり得ないほど子細に諸元項目を立てても、見開き2ページで全車をカバーできる少なさだ。ただし、当時「ジープ型」と言われたオフロード4WD車は、一般ユーザーに縁のない特殊な作業車という扱いだったのか含まれていない。掲載されていればライセンス生産の三菱ジープを筆頭に、トヨタ・ランドクルーザー、日産パトロール(のちのサファリ)の名前があったはずだ。この表は現在、年2回刊のドライバー誌臨時増刊「オール国産車&輸入車完全アルバム」に大諸元表として受け継がれている。
ランドクルーザーは今に続く伝統のブランドだが、表に登場する車名で現在も健在なのは、クラウン、スカイライン、フェアレディ、キャロル、ハイゼット、サンバーのみ。このうちフェアレディは現在の「Z」ではなく、厳密には微妙なところ。キャロルにしても、2代目がアルトのメカコンポーネンツを使い89年に復活するまで、長い空白の期間があった。その後アルトのOEM車に。サンバーも現在はハイゼットのOEM車である。
また、スカイラインのメーカーはプリンス。まだ日産との合併前だった。軽商用車には、完成車メーカーだった愛知機械工業のコニー360が名を連ねる。いすゞは自社開発の乗用車、ベレルとベレットをラインアップしたが、ノックダウン生産していた英ルーツ社のヒルマンミンクスの名前もまだ見られる。
商用車には、クルマ好きのオジサン世代にさえ“難問”の車名がいくつもある。怪獣のような名前のブリスカは、コンテッサのエンジンを流用した日野の小型トラック。マスターラインはクラウンベースのバン・トラックだ。キャブライトはフェアレディと同じくダットサンブランドで販売された小型トラック・バン。プリンスのライトバンはスカイラインベースで、車名もスカイウェイと洒落ている。ハイラインはもちろんフォルクスワーゲンのグレード名ではなく、ダイハツの小型ライトバンなのだ。
各車のスペックに目を移すと、乗用車のエンジンはOHVが主力。360㏄の軽自動車は2サイクルが大半で、静粛性やクリーン性より動力性能が優先だった。もっとも多気筒なのは発売直後のクラウンエイトで、2.6Lながら国産初のV8を搭載。これがセンチュリーの源流になる。排気量で勝るのは2.8L直6のセドリック・スペシャルで、こちらはプレジデントに発展する。両車とも最高出力はグロス115馬力だから、現在のネットでは100馬力程度。最大トルクも2L並みだ。プリンス・グロリアの2L直6は国産初のOHCエンジン。
水平対向は現在は言うまでもなくスバルだが、当時採用していたのはトヨタ・パブリカとコニー(ともに2気筒)。スバル450と同360は並列2気筒だった。縦置きを直列、横置きを並列と区別したのは、2輪界にならった表記か。当時、軽でもっとも贅沢なのは、360㏄でアルミ製の水冷4気筒を奢ったキャロル。それ以外の軽はすべて空冷だったのだ。
「性能」の項目には最小回転半径や平坦路燃費のほかに、最高速度、登坂力、制動距離の数値が。「フレーム型式」も記され、スバルは先鞭をつけた一体(モノコック)、プリンス勢やスズキ・フロンテはBB(バックボーン)、ダイハツ・コンパーノは梯子(はしご)など、メーカーや車種、開発された世代によって形式が異なる。
ほかにも冷却水容量、蓄電池(型式と電圧容量)、点火プラグ(メーカーと型式番号)と、現代の諸元表では見られない項目が。つまり、当時のクルマはそうした部品の交換を含むメンテナンスが比較的頻繁に必要だったのだ。
そういえばいつの頃だったか、「最近は信頼性が上がったからかコストダウンのためか、車載工具が昔よりずいぶん貧弱になった」というユーザーの不満に何度か触れた覚えがある。しかし、今はそうした声もすっかり聞かなくなって久しい。
〈文=戸田治宏〉
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