2020/03/27 コラム

転売ヤーに狙われた!? 高値で取引されたクルマたち

■高値転売は人気を示す勲章か

新型コロナウイルス感染拡大で品薄が続いているマスクの転売禁止が、3月15日から始まった。違反した場合は、懲役や罰金が科せられる。インターネット上での取引も含まれ、高額な送料や手数料の請求も違反。この転売禁止を前に、フリマアプリ「メルカリ」やオークションサイト「ヤフオク!」などはマスクの出品自体を禁止。いわゆる「転売ヤー」が問題視されているわけだ。


ことクルマに関しても転売は昔から行われており、旧車がブームになっている昨今、「納屋に眠らせておいたクルマが、今では高値取引の対象になっていた」なんてことはよく聞く話。これ自体は、何も問題になるようなことではない。


●大人気で納車待ちが長引くと…

ただ、さらに範囲を狭めて新車に限ってみるとどうだろう。ちょっと前の記憶をたどれば、先代の30系プリウス。納車が始まったばかりの時期、新車価格220万円程度のグレードの車両が某大手中古車サイトでは300万円近くで販売されていたのを見かけた。走行距離は10kmに満たないクルマがほとんど。当時プリウスは納車が追いつかないほどの人気となり、納車を待つなら…という急遽湧いた需要に対応するカタチで中古車市場に“ほぼ新車”のプリウスが流れたと見ていい。

転売によって、利益を得る。つまり、自分が買ったときの値段よりも高く売れなければ意味がないわけだが、通常新車は「登録した瞬間に値が落ちる」と言われるほど。登録したら最後、それは中古車になるからだ。


だが、件のプリウスのような「納車が追いつかない」という条件下では情勢が変わってくる。最近のモデルでもっとも注目されているのが、ご存知ジムニー/ジムニーシエラだ。2018年7月に発売されるやいなや大人気に。「納車1年待ちなんてざら」とも言われ、じつは今でも中古車サイトでは高値。走行距離10km程度のモデルだと、新車価格の50万円高なんて当たり前なのだ。もちろん、その上乗せ分は売った本人すべて渡るわけではなく、中古車販売店の上乗せ分のほうが多いだろうから、「ものすごく儲かる」というわけではない。

中古車の価格は、基本的には「需要と供給のバランス」で決まるのだから、いわば勲章のようなものだろうか。投資という観点からいっても、何も問題はない。件の、「マスク転売禁止」は人命にかかわる問題。一緒にしてはいけないし、するつもりもない。

だが、クルマ好きとして「これはどうなんだろうか」と思う案件がある。それは、「限定車」にまつわる転売だ。自動車メーカーは、一般的に特別感のあるモデルを「●●台限定」として売り出す。これが、転売ヤーに狙われやすいのだ。

■限定車販売の難しさ

その①スバルWRX STIの「Sシリーズ」

例えば、2015年10月29日に受注を開始したスバルWRX STIがベースの400台限定車「S207」。特別装備をふんだんに盛り込んだ「Sシリーズ」だ。受注開始するやいなや当日に売り切れ。先着順での受付だったが、当日に抽選枠をオーバーしたとなると先着順を判断するのは難しい。実際の購入者を決めるのに、販売現場では多少なりとも混乱が生じたと言われている。


●S207 NBR チャレンジパッケージ イエローエディション。EJ20ターボは328馬力まで到達。S207全体では限定400台だったが、そのうち「NBR チャレンジ〜」は200台、さらにそのうち100台がこのイエローボディだった

そんなS207も、やはりすぐに中古車市場に流れた。抽選で当たったオーナーなのか、はたまた件の転売ヤーだったのかはわからないが、いずれにせよ中古車サイトで検索してみると発売開始されたばかりの「S207」が検索で引っかかってきていたのだ。


●最高出力をS207から1馬力アップ。カーボンルーフの採用もトピックだった。限定台数は450台。うちNBRチャレンジパッケージは300台

購入者決定までの混乱などへの反省もあったのだろうか。次なるSシリーズ、2017年10月25日に発表された「S208」では約半月という期間を設けて限定450台の予約を受け付けた。当然ながらその枠を超えた、2619名という申込数にがあったという。そのなかから厳正なる抽選によって購入者が決められた。だが、歴代Sシリーズを乗り継いできた人など、いわゆるお得意さんでも購入できないという案件も。それは致し方ない面はあるが、はたして本当に“オーナーになりたい”人に届けられたかというと…。S208もやはり中古車市場に流れ、高額で取り引きされていた。

その②ホンダの「タイプR」

もうひとつ象徴的な例として上げるのは、現在ではシビックにのみ設定されているホンダの「タイプR」。現行の「FK8」はカタログモデルだが、先代の「FK2」は限定販売だった。2015年10月28日に正式発表、限定台数は750。やはり申込多数となり、抽選で購入者が決められた。だがタイプRに強い販売店、そうでもない販売店など各拠点によって割り当て台数がまちまちということもあり、店舗の違いで「足りない」「余っている」などの差が生じていたという。


●FK2型のシビック タイプR

当然、店舗同士の仲のよさ、つまり連携が取れれば余っているほうから足りないほうへ割り当てられた台数を譲る、ということもできるのだが、すべてがそううまくやれるわけではない。あれほど人気だったモデルなのに、在庫として結構な期間保管されていたFK2があったというウワサも聞いている。

そしてやはり中古車市場での高値取り引き事例も。納車されたばかりのFK2が、オークションサイトに流れてくる…。もちろんいろいろな事情があってすぐに売らなければならなくなった人だって当然いる。そして、すぐに転売って「どうなんだろうか」と思いつつも、「いくら値が付くのだろうか」と気になっている部分もある。

SシリーズやタイプRのみならず。他にもこういった事例はたくさんある。

■転売を“やんわり”防ぐ?

各メーカーとしては、「本当にオーナーになりたい人に買ってほしい」と思っている。だからこそ、いろいろと販売方法を試行錯誤している。ただ、申込者が悪質な(といっても法に触れることではないが)転売ヤーかどうかなどを判断するのは非常に難しい。しかも、クルマの転売が禁止されているわけでもないし、極端に締め付けてしまっては販売方法が複雑になってそもそもクルマが売れなくなってしまう可能性もある。


GRヤリス

そんななか、「これは転売をやんわり食い止めるための方策か?」という事例がある。2020年1月、東京オートサロンの会場で予約受け付けを開始したGRヤリスの初回限定車だ。購入希望者は、申込みの前金として10万円を支払う必要があるのだ(前金と聞くとテスラを思い浮かべるが、あちらはその資金を開発のために使うというスタイル)。しかも、「1人につき1台」という縛りがあったらしい。

GRヤリスは「初回限定」といっても、台数に縛りはない。先行予約期間の2020年6月30日までWEBからの申込みがあり、実際に契約された分だけ生産される。そして初回限定の販売が終わった後、普通のカタログモデルも販売される。それなのに、なぜ前金が必要なのだろうか? じつはGRヤリスは普通のラインを流れるような大量生産で作られるクルマではない。簡単に言えば、普通のクルマよりも手間暇がかかっている(ラインを作るための大規模な投資を避けたという面も。価格的にも大量に売れるクルマではないので、トヨタとしては特殊な生産方法を採用したのも特徴)。

となると供給が追いつかず、前述のジムニーなどのように“人気モデル”となってしまい、高値で転売されるであろうことは想像に容易い。そういった状況を“やんわり”防ぐために、「前金10万円」という手間を作ったのではないだろうか(トヨタが公式にそういった狙いがあるとはもちろん言ってはいないが)。1.6Lターボに4WD、軽量ボディのGRヤリスに心底惚れて、「これでサーキットやダートラを走ってやるぜ!」という熱き思いがあるオーナー予備軍にとっては前金なんてなんのその(と思う)。

https://driver-web.jp/articles/detail/25675/

ただ、もちろんちょっとした壁ができるだけで、儲けてやろうと強く思っている転売ヤーには「さらに希少価値が上がって高値で取引できそう」と思わせる要因にもなりえる。何度も繰り返すが、クルマの転売は何も悪いことではないから、防ぐようなものでもないのだが…。

新車は高い。だからそれこそ裕福層か、それなりの資金を持ち合わせていないと転売ヤーなんてできない。つまり、ここまで書いてきたことはクルマ好き貧乏人の僻みだと言われても仕方がない。そもそもマスク転売禁止を引っ張り出してクルマの転売を語るなんて、とお叱りも受けるだろう。

ディーラーや中古車買取店だけではなく、現代ではさまざまな方法によってクルマが売り買いされている。売買が自由な時代だからこそ、「やれるならやって儲けてみたい」と思っている、転売ヤー予備軍のほうが多いのかもしれない。

なんと言っても、限定商品は人気がある。人気がなければ転売もされない。こと日本人も、「限定」という言葉に弱い。だからこそメーカーは「限定車」を送り出す。もちろん、限定車は特別なパーツを装備していることが多く、大量に生産できないから台数を絞る、という側面もある(そうでないものも散見されるが…)。

本来は、いつでも欲しいときに買えるのが理想だと思う。でもそれでは人の購買意欲を掻き立てることはできない。クルマにかぎらず、モノを売る・買うという行為には、複雑な事情や心境が絡み合って成り立っている。

〈文=driver@web編集部〉

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