両車の商品性の違いはサイドビューで一目瞭然だ。
フィットはボンネットとフロントウインドーが直線的に連続した、歴代のワンモーションフォルムを継承。三角窓があるのはフロントピラーが前寄りにあるためで、その分、室内長を前方に稼げる。新型は後方のサポートピラーに衝突安全性能を持たせ、前方のフロントピラーを極細にすることで、コンパクトハッチの常識を覆すワイドな前方視界を実現したのも見どころだ。三角窓も大型化している。
ヤリスは逆に、先代ヴィッツでドアにあった小さな三角窓を廃止。フロントピラー位置を後ろ寄りした証拠だ。これによってノーズが伸びやかでスタイリッシュなフォルム、着座位置が低めのドライビングポジションを獲得。ドラポジはフィットも改善されたが、ヤリスのほうがスポーティだ。半面、フロントピラーとともに前席の位置も後退するため、室内長は不利になる。
デザインにはトヨタ、ホンダそれぞれの特徴がよく表れている。ヤリスは面構えがアグレッシブなバリバリのスポーツキャラ。ホンダがこの手の造形をやると先代フィットのようになるが、ヤリスは母性本能をくすぐるような茶目っ気も持ち合わせる。一方、愛嬌のある顔づくりはホンダの十八番。優しさと意志の強さを感じさせるつぶらな瞳の表情は、年齢や性別を問わず幅広いユーザーに親しまれそうだ。
コックピットも対照的。メーターをコンパクトに収める狙いは共通でも、フィットは完全フラットなインパネに、すっきりシンプルなカラー液晶メーターを内蔵。電動パーキングブレーキの採用も目をひく。ヤリスはモーターサイクルのような2眼式で、ナビゲーションはトヨタ車に共通の独立式。パーキングブレーキは従来と同じ手動レバー式だ。
ボディの全長はフィットが55㎜長い。ホイールベースは逆にヤリスが20㎜長いが、室内の広さはフィットの圧勝だ。身長175㎝の乗員を基準に室内長をチェックすると、後席ニールームは握り拳が縦に2つ分以上のフィットに対して、ヤリスは同じく1つ分。荷室容量もフィットがFFでガソリン330L/HV306L、ヤリスはアジャスタブルデッキボード非装着車で同じく270Lと、コンセプトの違いがパッケージにはっきり表れている。
シートは両車とも文句なし。C-HRなどCセグメントで定評のあるTNGA設計のシートは、ヤリスも前後ともに例外ではない。ホンダも前席に新構造のシートフレームをフィットから投入、腰まわりの優れたホールド性と上質な座り心地を両立している。後席の快適性も格段に向上し、2クラス上のアコードに匹敵する座り心地を自負。センタータンクレイアウトならではのシートアレンジをそのままに、座面の面積拡大や厚型化、背もたれの角度見直しが図られているのだ。
パワートレーンは、HVがともに新作。フィットは先代から踏襲の1.5L直4エンジンに、2モーター式のi-MMDをコンパクトカー用に新設計したe:HEVを搭載する。低負荷の高速巡行ではクラッチをつなぎエンジン走行モードに移行するが、メインはモーターの動力のみで走るシリーズHVだ。モーターは109馬力・25.8kgmを発揮。一方、ヤリスは元祖2モーター式のTHSⅡだけでなく、1.5Lエンジンまで新開発3気筒にコンパクト化した。動力はエンジンがメインで、システム出力は116馬力。
実際の印象は、厳密に言えばフィットがトルク型、ヤリスはパワー型。しかし、トータルの印象では拮抗しているというのが実感だ。e:HEVはモータードライブらしい力強さだが、発電機として駆動中にエンジンノイズが意外と目立ち、やはり感覚的にはEVよりHVそのもの。ヤリスはフィットより約100㎏も軽い車重が、モーターの出力差を補って余りある。しかし、3気筒特有のエンジンノイズは目立つ傾向にあり、エンジンのオンとオフで静粛性の開きが大きい。
ガソリンエンジンは、新型から1.3Lに一本化されたフィットに対して、ヤリスはHVと同じく1.5L直3が主力。ガソリン車用はバランスシャフトを備え、3気筒の不快な振動は抑えられている。120馬力・14.8kgmとHV用より強力で、98馬力・12.0kgmのフィットを問題にしない。内蔵の発進ギヤで出足のいいダイレクトシフトCVTもヤリスの武器。6速MTも新型フィットにはない設定だ。
WLTCモード燃費も、ヤリスがフィットを大きく凌ぐ。HVはヤリスがFFで35㎞/L以上を達成しているが、フィットは30㎞/Lに届かず。さらに、ヤリスは1.5Lガソリン車でも1.3Lのフィットを上回っているのだ。フリクション低減と軽量化で有利な3気筒エンジンの威力はさすが。
シャシーの仕上がりは好勝負。チューニングはHVとガソリン車で、それぞれ好対照だ。フィットはガソリン車がしなやかで、軽快なフットワークとマイルドな乗り心地が印象的。HVは車重増に対して足まわりが強化され、16インチ車は大舵角でクイックな可変ステアリングギヤレシオ(VGR)と相まって、剛性感が高くシャープなハンドリングを味わわせる。
ヤリス1.5L系は、ガソリンがかなり引き締まったサスチューン。ステアリングギヤ比はフィットのVGRに近く、ワインディングでは微小舵からいっそうリニアで一体感あふれる走りを堪能させる。HVは若干しなやかなストローク感を出し、上質な乗り心地も狙った設定だ。ボディフロアの剛性感、リヤサスの路面段差のいなし方などからは、プラットフォームをTNGAに全面新設計したヤリスのほうがハイポテンシャルに感じられる。ただし、ヤリスの量販グレードは175/70R14タイヤが標準。走りを楽しむには185/60R15のオプション装着が条件になる。
4WDは、フィットが前輪の空転で後輪に駆動トルクを機械的に伝えるビスカス式。一方、ヤリスはガソリンが電子制御カップリングのオンデマンド式で、滑りやすい路面の発進性はビスカスに勝る。また、HVは後輪モーター駆動のE-Fourを採用。後輪を駆動するのは約70㎞/hまでだが、生活4WDとしての性能はこれもフィットより上だろう。
先進安全装備は競り合いだ。フィットのホンダセンシングはフロントワイドビューカメラと前後ソナーの新システムで性能・機能が向上。ヤリスのトヨタセーフティセンスも、交差点における右折時対向直進車や右左折時歩行者の検知はトヨタ車初だ。標準ではフィットのほうが多機能で、前後の近距離衝突軽減ブレーキを装備。ヤリスは同様の装備がオプションだが、セットで備わるリヤクロストラフィックオートブレーキはフィットには設定がない。
先進運転支援は、フィットのACCが停止・保持まで可能な渋滞対応で、約25㎞/h以下では使えないヤリスより実用的。一方、ヤリスHVは世界初の駐車位置メモリ機能を搭載し、区画線がない駐車場でもアシスト可能なアドバンストパークで差をつける。
伝統の多機能に加え、乗員の心地よさを徹底的に追求したフィット。一台で幅広いユーザーの使い勝手に対応し、迷った時にも選んで間違いのない、まさにBセグメントのザ・定番。前席優先のヤリスは、新しいメカニズムを惜しみなく投入し、とびきりスタイリッシュなデザイン、欧州勢をほうふつとさせる走り、世界最高レベルの燃費など、とにかくイチバンを目指したこだわり派のコンパクトなのだ。
〈文=戸田治宏〉
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