2020/03/12 ニュース

ヴィッツ後継でここまでスポーツでいいのか?…新型ヤリス公道試乗〈戸田治宏〉

ラリーの申し子として世界共通「ヤリス」を名乗る



ヴィッツ改めヤリス。国内名の海外名への統一は、一連のマツダ車で記憶に新しい。

スターレットからヴィッツへ。そして、20年を節目にヴィッツからヤリスへ。改名の最大の狙いは、「新しい価値観の提供」にある。ヤリスが全面的に訴求するのは、走る楽しさ。トヨタおなじみのキャッチフレーズで言うなら、「ファン・トゥ・ドライブ」である。

しかも、仕掛けは驚くほど大がかりだ。トヨタは2015年1月、2017年から「ヤリスWRC」でWRCに参戦することを発表。同時に、WRC日本開催の誘致も動きはじめた。この時点でヤリスへの改名は規定路線になったのだろう。

さらにはWRCのホモロゲーションモデル、GRヤリスの存在も明らかに! 新型ヤリスはまさしくラリーの申し子として誕生したのだ。そのタイミングも、トヨタが「カローラWRC」を最後にWRCから撤退してちょうど20年だから、因縁は深い。

https://driver-web.jp/articles/detail/27862/

ただし…。

ヴィッツは国内Bセグメントハッチを代表する一台であり、老若男女を問わず幅広いユーザー層に愛されてきた。その後継を担うヤリスが、クロスオーバーの台頭という時代の変化があるとはいえ、こうもラリーやスポーツにまっしぐらでいいものか。


●ヴィッツ。3月12日時点ではまだトヨタ公式HPに載っている

ヴィッツから受け継がれた助手席の買い物アシストシートを見て、そんな疑問も浮かんだりする。運転席はほぼ理想的なドライビングポジションを手に入れたが、後席ニールームはヴィッツのほうが広かった。


●旧ヴィッツから継続。助手席シート上に荷物を置いても、ブレーキなどで滑り落ちないようにする装備だ

●身長175cmの筆者が後席に座る。やはり広いとは言い難い

しかし、何はともあれヤリスはカッコいい。アグレッシブさを前面に押し出しながら、女子のハートをくすぐるような茶目っ気もさりげなくブレンドしたデザインは、ほかの国内メーカーではなかなかできない芸当である。


ヴィッツよりも軽くてパワーアップ!

車両の基本性能を司るメカニズムには、新アイテムがテンコ盛りだ。

プラットフォームはGA-B。TNGAで設計されたBセグメント用で、ヤリスが第1弾となる。そのポテンシャルの高さは袖ケ浦フォレストレースウェイの事前取材で確認済みだが、初の公道試乗ですぐにそれを実感したのは、乗り心地だ。

試乗車はハイブリッド車(HV)のトップグレードZと、1.5Lガソリンの中間グレードG。HVは185/55R16サイズをオプション装着していたが、サスペンションはボディの姿勢をフラットに保ちながら路面に対してしなやかに追従し、突き上げを吸収。路面の継ぎ目など段差を乗り越えるショックも軽い。


●赤が1.5LガソリンのG、白が1.5LハイブリッドのZ

ガソリンのGは185/60R15で、これもオプション。サスはHVより引き締まった印象で、路面からの入力が強い。それをバネ下でドッシリ受け止め、突き上げのカドを丸め込んだ乗り心地には、Cセグを彷彿させる剛性感や上質感がある。


●試乗車はいずれもオプション装着。左はガソリンG(185/60R15)、右はハイブリッドZ(185/55R16)

ちなみにタイヤの指定空気圧は、前車が前220/後210kPa、後車は前230/後220kPa。開発担当者によれば、この違いはインチによるもので、パワートレーンではないという。HVの燃費はその16インチ装着でもWLTCモードで32.6㎞/Lというのだから凄い。

それでいて、走りは両車ともキャラクターどおりの躍動感にあふれる。とにかく車両全体の軽さが印象的。新開発1.5L直3が投入されたパワートレーンも力強い。アクセルは奥側がキックダウンスイッチのような設定だが、そこまで踏み込まなくても思いどおりの加速が得られる。


ハイブリッドZ

スペックをヴィッツと比べれば、その理由は明らかだ。HVはエンジンが74馬力/11.3kgmから91馬力/12.2kgm、駆動用モーターは61馬力/17.2kgmから80馬力/14.4kgm(プリウスより高出力!)にそれぞれアップ。システム出力も100馬力から116馬力に向上しながら、車重は最上級グレード同士でも10~20㎏軽くなっている。ワインディングでもガソリンGに見劣りしない胸のすく加速が楽しめる。


G(1.5Lガソリン)

その1.5Lガソリン車も、車重は試乗車でちょうど1トン。オプション装備の条件を揃えれば、何とヴィッツ1.3Lより30㎏ほど軽い。そして動力性能は、ヴィッツの99馬力/12.3kgm(FF)から120馬力/14.8kgmに大幅アップしているのだ。パワーウエイトレシオは先代フィットのRS(132馬力/15.8kgm)に肉薄。発進ギヤ付きのダイレクトシフトCVTも大きな武器で、特にスポーツモードにおけるスタートダッシュの速さはMTにもヒケをとらない。急加速でのステップ変速制御もスポーツ感を演出する。


G(1.5Lガソリン)

若干気になったのは3気筒特有のエンジンフィール。ガソリン車はバランスシャフトで振動が抑えられているが、吹き上がりのノイズは同じ1.5L直3でも欧州勢のほうが耳に軽い。アイドリングストップは非搭載。HVはEV走行中の静粛性か高いため、エンジン稼働時のノイズ・振動がさらに目立ちやすい。ロードノイズについても、高速では荷室付近からの侵入を許す傾向にある。


ハイブリッドZ

真骨頂のダイナミック性能は、まさに期待どおりの出来映えだ。小径のパワステは袖ケ浦で乗ったときより手応えを増した印象で好ましい。ロック・トゥ・ロックは2.6回転で、従来のTNGA車と同じややクイックなギヤ比だ。サスペンションは頼もしい剛性を発揮しながら、4輪の優れた路面追従性を両立。ハンドリングは微小蛇からリニアで軽快そのもの。特にロールを初期から抑えるガソリンGは、クラストップレベルの正確性と一体感を堪能させる。16インチや6速MTが選べるガソリンZなら、さらにダイレクト感の高い走りが得られるはずだ。

〈文=戸田治宏 写真=山内潤也〉

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