最初に試乗したのは、1.5Lの3気筒エンジンを搭載したGグレード。新型ヤリスの中心グレードとなるのは同Xグレードだが、その1つグレード上のモデルで車両価格は175万6000円。
そういえばトヨタはめずらしく、新型車のプレスリリースで新旧モデルの価格差をわざわざ公開している。それによれば、旧ヴィッツ1.3Lガソリン車・Fグレードの150万9200円に対し、ヤリス1.5Lガソリン車・Xグレードは159万8000円と約9万円高。トヨタはどうやら「プラットフォーム、エンジン、トランスミッションも新型、安全装備充実で約9万円高はコスパが高いでしょ」とアピールしたいようだ。はたして、この価格アップに見合った進化を遂げているのだろうか。
ボディカラーは、鮮やかなレッドとルーフをブラックに塗り分けた2トーン仕様(7万7000円)のブラック×コーラルクリスタルシャイン。写真やショー会場で見たときはリヤホイールまわりのフェンダーの張り出し感が大きく、そのバランスが気になっていたが、自然光の下で見ると意外にリヤのボリューム感は普通。2トーン仕様のためか、よりコンパクトに見える。
運転席に座ると目に飛び込んできたのが、例のバイクのような2眼タイプのデジタルメーター。中央に4.2インチディスプレイをレイアウトする特徴的なデザインは好みが分かれそうだ。Xグレードは通常のアナログメーターが装備される。
スタート時に気づいたのはステアリングの軽さで、駐車場から出る低速であっけなく感じるほど軽く回る。低速時に軽いと車庫入れなどの際に切り遅れることが少なくなるため扱いやすいが、速度を増していってもこの傾向が続く。さすがに高速域になると手応えは増すが、操舵力自体は軽い部類に入る。
さらに走ると、ボディ剛性の高さを実感。コンパクトカー向けに新たに開発された、TNGAプラットフォーム「GA-B」を初採用した効果だ。マンホールなどの大きなギャップを通過してもボディはしっかりとした感じで、ステアリングに振動が伝わるようなこともない。
ただサスペンションはやや硬めの設定。フロントサスに大きな入力があると突き上げ感があり、ショックが伝わってくる。リヤは突き上げ感がないのにフロントは縮側の動きがやや渋い感じだ。これは距離を走って馴染めばフィールが変わるかもしれない。
ボディとフロントサスの剛性感の高さを実感したのが高速域でのコーナリング。ヤリスはフロントがほとんどロールしない感じでタイヤもよく路面に追従し、欧州車のようなしっかり感がある。
ちょっとしたサスチューンが施されたコンパクトカーのような挙動でスポーティだが、こうした場面でもステアリングは相変わらず軽め。挙動はスポーティだがステアリングが軽めというアンバランスさがちょっと残念だ。それと全般的に乗り心地が硬めなのもやはり気になる。走りに振った味付けというのがヤリスだというのは理解できるが、市街地を含めた低中速域ではもう少しソフトなサスセッティングでもよかったのではないかと感じる。
全開加速すると、ギヤ付きのCVTはステップ変速をしてくれるため加速感はリニア。だが新開発の直列3気筒エンジン「M15A-FKS」は高回転域の音に雑味感があって、あまり気持ちのいい音ではない。音質がノイズという感じで積極的に回したくはならないエンジンだ。回転自体は3気筒であることを感じさせないスムーズさだが、エンジンからの遮音もあまりよくないため雑味感が強調されている。ライバルであるフィットはハイブリッドを含めて4気筒で、ノーマルでも高回転域でホンダらしい快音を発するのと対照的だ。
エコモードの制御は、積極的に低回転域を使う。加速が終わってアクセルを戻すと、すぐにエンジン回転が落ち、そこからゆっくりとアクセルを踏むとあまり回転を上げずにトルクで加速する、といった感じ。これは低回転時のトルクが太いことに加え、ギヤ付きCVTの効果もあるようで、CVT特有のラバーバンドフィールを感じにくい。
確かに低回転域のトルクは充実しているが、市街地を走るときにはもう少し活発なほうがいいと感じたためノーマルモード選択。それでも低回転域を維持したがる設定だった。パワーモードを選ぶと1000回転ほどアップするためアクセル操作に対しての反応がよく、加速もよくなる。だが、燃費を考えると市街地ではパワーモードを選択しにくい。ノーマルモードの特性をもう少し元気よくしてレスポンスを改善するほうが、市街地では走りやすいはずだ。
次は注目のハイブリッド、試乗車はZグレードだ。こちらのほうがガソリン車よりも前後の重量バランスはいい感じだ。リヤシート下に駆動バッテリーを搭載するためか、乗り心地はガソリン車よりフラットな挙動を示す。だがサスペンションの設定はハイブリッドもやはり硬め。ジョイントなどの段差を通過すると、それなりのショックが伝わってくる。
ここまで2時間ほど乗って気づいたのだが、運転席のクッションがやや薄いように感じる。奥に深く腰掛けるとクッションの分割線も気になってしまう。シート位置を機械的にメモリーする「運転席イージーリターン機能(オプション)」は使ってみると便利だが、購入検討時には座り心地を含めたクッション性や座面のデザインをよくチェックしたほうがいいだろう。
ハイブリッドはモーターのトルクを感じさせる加速でスムーズかつ速いが、ハイブリッドに組み合わされる1.5Lの3気筒「M15A-FXE」も、エンジン音自体に雑味感がある。期待していた新型パワーユニットだっただけにちょっと残念。ハイブリッドXの燃費は、WLTCモードで36.0km/Lだからトップクラスなのはまちがいないが、エンジン音は高回転域だけでなく巡行時のこもり音も気になる。
燃費向上のために積極的に低回転域とEV走行を使い分けるのがハイブリッドの魅力。高速道路を巡行するとエンジンを使って駆動するが、75km/h付近でこもり音が発生してしまう。エンジンで駆動するかモーターでEV走行するかは駆動バッテリーの残量にも左右されるが、1500回転ぐらいの低回転域で巡行するとこもり音が発生することがあるため、この速域を外して走行したくなる。
後席にも座ってみたが、足元が意外に狭い。フィットがフラットで広い後席足元を実現していることを考えると、この差は大きい。さらにヤリスはリヤを絞り込んだデザインのためサイドウインドーが近く、余計に狭さを感じてしまう。ファミリーユースを考えると、後席の快適性でフィットの優位性が見えてくる。
今回ガソリンのGとハイブリッドZの2グレードに試乗したが、改めてガソリンGグレードの試乗車スペック表を見て驚いた。車両価格は約176万だが、オプションがかなり付いていて、そのオプション価格だけで約70万円。このうち高額なオプションはブラインドスポットモニターが約10万円、Tコネクトナビが11万円で車両総額は約245万円と意外に高額。
オススメはガソリンGグレードにLEDヘッドライト(8万2500円)とTコネクトナビキット(11万円)だけを付ける仕様。これならオプションは約20万円。総額約196万円となり、コンパクトカーらしく、なんとか200万円を切れる。ハイブリッドは一番下のXグレードでもスタート価格は199万8000円。ただ、LEDヘッドライトはオプションでも選べない。
そこでライバルのフィット。ハイブリッドの最廉価グレード「ベーシック」で199万7600円とほぼ同価格帯だが、ヘッドライトは標準でLED(装備面は人によって必要・不要が細かいため単純に比較はできないが)。ただフィットの優位性は先進安全装備のステアリング支援が渋滞時まで全車速域で働くこと。一方でヤリスは、追従クルーズコントロールもステアリング支援も約30km/h以下では使えない。
旧ヴィッツと比較して、走りの面など確かにヤリスは進化した。そして室内の広さなど使い勝手の面は、フィットが一枚上手の印象。ヤリスは、よりパーソナルなクルマとして捉えたほうがよさそうだ。
〈文=丸山 誠 写真=山内潤也〉
https://driver-web.jp/articles/detail/25764/
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