スカイラインという車名は、奥が深い。ご承知のとおり、スカイラインは日産との合弁前からのプリンスの車種だ。プリンスはブリヂストン創始者である石橋正二郎氏がオーナーだった。
●1957年、プリンス スカイライン。全長4280mm✕全幅1675mm✕全高1535mm。エンジンは1.5L直4OHV(60ps/10.75kgm)。価格は120万円(デラックス・4速MT)
石橋氏は立川飛行機の流れをくむ、たま電気自動車に1949年に出資し、1954年に中島飛行機の流れをくむ富士精密工業と合弁(存続社名は富士精密工業)して引き続きオーナーとなる。将来への飛躍を期して、社運をかけた新型乗用車の開発は1953年に5月にスタート。1956年5月には試作1号車が完成している。
●テールフィンを備えたアメリカンスタイルが特徴の初代スカイライン。車名は流れるような優雅なボディラインをアピールしている。奥は商用車版のスカイウェイ
スカイラインは、基本性能の向上はもちろんのこと、何よりも気を配ったのはプロポーションの近代化だった。背が低くスマートなスタイリングを意識して、本来はモノコック式とすべきところ、技術的にはまだ不安があり、バックボーンフレームの下側に床板を付けたセミフレーム構造とした。後輪は車体側にデフを固定するド・デオンを採用して重心を低くした。これらの効果によって旧型のプリンスセダンより約100mm全高を低くできた。こうした基本形状をベースに、当時欧米で流行していたテールフィンを取り入れたアメリカンなデザインとした。
●4代目”ケンメリ”スカイラインでは独特なサーフィンラインが存在感を放っていた。スカイラインにはその由来のとおり美しいボディラインが息づいている
車名は『自動車ガイドブック1967-68年版』によると、『山、建物などの空に接する輪郭線や、地平線の意味がある。この言葉から聞えるスマートな感じを、32年に発売された新型乗用車のボデーとベルトラインの流れるような線を結びつけて名づけた』とある。モダンなスタイルに一新した新型乗用車のアピールポイントを巧みに捉えたネーミングだった。
さて、命名のいきさつを『愛の車と販売網を育てた記録 日産プリンス自販三十年の歩み』を参考にご紹介しよう。首脳陣が集まり名前を検討したが、当初は「スカイウエイ」という案が出て、オーナー石橋正二郎氏は”天国に通じる道につながる”ということでボツに。次に、「スカイライナー」の案が出るも語尾の”ナー”の語感がイマイチということでNG。石橋氏は自ら興したブリヂストンのようにストンと落ちる響きを好んだようだ。そこで、スカイラインという案が出る。”山の端”という意味合いから反対意見が出るものの、結局はスカイラインに決まったという。
ここで登場するいずれの案もすべて”スカイ”という名前が付く。調べてみると、どうやらブリヂストンでは”スカイ”というテーマにこだわりがあったようなのだ。1951年8月に「ブルースカイ」、「スカイウェイ」の名前でゴルフボールの販売を再開。じつはクルマとしての商標登録を特許庁に出願したのが1957年2月2日で「SKYWAY」と「SKYLINE」が同時だった。申請の順番と初案から考えるとスカイウェイはブリヂストンにとって大切な名前だったようだ。この後、ボツになったはずのスカイウェイはスカイラインの商用車に”復活”。ブリヂストンのタイヤや自転車の名前にも使われたのだ。
写真提供:ブリヂストンサイクル株式会社
●ブリヂストンが戦前に行っていたゴルフボール製造は1951年に復活。ブルースカイ(写真)とスカイウェイの2種類を発売した。自転車でも1960年代終盤からスポーツ車の名前として使用(写真提供:ブリヂストンスポーツ株式会社)
〈吉川雅幸著『車名博物館PART1』(八重洲出版)より〉
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