2019/12/11 ニュース

【ダン・アオキの輸入車通信簿】第1回 マクラーレン 720S

本誌連載「峠狩り」で活躍中のカメラマン、ダン・アオキがお送りするWeb新連載「輸入車通信簿」。記念すべき第1回目は、マクラーレンのスーパーシリーズ「720S」が登場だ。
■マクラーレン 720S「このスポーツカーは速いけれど、味がない」と論じる人に、「お前はクルマをかじるのか!?」と突っ込むのが古典的な試乗記の楽しみ方だが、それはともかく、正統派自動車ライターが「味がない」と評価したくなる最右翼のモデルが、マクラーレン720Sクーペだ。

マクラーレン・オートモーティブは、2009年に設立された若いメーカー。モータースポーツでの活躍を背景に、公道用スポーツカーを売り出すという、「超」正統派の成り立ちを持つ。720Sは、2017年のジュネーブショーでデビューした新世代マクラーレン。これまで3.8リッターV8ツインターボのチューン違いでラインナップを構成してきた同社だが、720Sでついに排気量を拡大。4リッターV8ツインターボとなった。最高出力は、名前の通り720ps。キャパシティを増した8気筒を運ぶボディも進化して、カーボンモノコックはエンジンを覆い、ルーフまで含む「モノケージII」となった。
真横から720Sを観察すると、長いホイールベースとキャブフォワードのフォルムがいかにも現代的。斜め前上方に跳ね上がるディヘドラルドアを開け、太いサイドシルをヨイショと跨いで、センター前寄りのドライバーズシートに座る。この一連の動作だけで、高いボディ剛性と、ドライバビリティへのこだわりが感じ取れる。鬼才ゴードン・マレーが手がけた市販モデル、マクラーレンF1ほどではないけれど。
実際、720Sの走りはスムーズ至極。硬いボディの下で、サスペンションが機能的によく動く。少々アレた路面でも、乗り心地がいい。もちろん動力性能も折り紙付きで、0→100km/h加速は2.9秒。ランボルギーニ ウラカン ペルフォルマンテ クーペと奇しくも同じ数値だ。あちらが鳴り物入りの祝祭的な速度上昇とするならば、720Sはよくできた精密機械のそれ。ターボユニットならではの、前方へ吸い込まれるような加速感。クールだ。血の気の多いイタリア人なら「なにが面白いのか!?」と文句の一つもつけそうだが、サーキットでタイムを出すとなると、まず720Sを選ぶだろう。
個性が売りのスポーツカーでは、多くの場合、機械的な欠点や構造的に至らない点が好意的に「味」として評価される。サービス満点。濃厚な味を提供してくれるイタリアンスーパーと比較して、マクラーレン720Sでは、乗り手が走りに味付けしなければならない。なろうことならサーキットに通って、調理の腕を上げたいところだ。価格は、3530万円。ウラカンより少しばかりお高い。

走り:★★★★コスパ:★質感:★★★使い勝手:★★★
<文=ダン・アオキ 写真=佐藤正巳  text by Dan Aoki photo by Masami Sato> 

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