2019/11/25 ニュース

【国内公道初試乗】マツダ3 スカイアクティブXの実力とは。思ったよりもSPCCI作動領域が広い!

やっと公道で乗れたスカイアクティブX

ついに乗れる! 内燃機関の新たな扉を開くガソリンエンジンの革新、「SKYACTIV-X(スカイアクティブ・エックス)」ことSPCCI(火花点火制御圧縮着火)。国内販売開始は、もともと2019年5月のマツダ3発表から約4カ月後の10月予定だったが、欧州仕様に倣ったハイオク対応変更でさらに2カ月を要したから、その感慨もひとしおである。
レギュラー仕様で開発が進められた15.0の圧縮比はそのままに、ハイオク仕様で欧州と同スペックの180馬力・22.8kgmを発揮。同じ2Lのガソリン「SKYACTIV-G(スカイアクティブ・ジー)」に対し、パワー・トルクともに約15%の向上を見ている。燃費のよさも特徴で、WLTCモード17.2㎞/L(FF・6速AT)と約10%アップを実現。すべてはSPCCIによって燃焼効率が大幅に高められた結果だ。搭載グレードは、その名もズバリ「X」。試乗車のファストバックX Lパッケージ(FF・6速AT)は、すでにエンジンが掛かっていた。アイドリングは車外でも「G」より静かな印象。エンジンを吸音材で囲んだカプセル化の効果だろう。

●写真上はSKYACTIV-X、写真下はSKYACTIV-G 1.5。Xのエンジンカバーのほうが大きい
センターディスプレイにはパワーユニットの「システム作動状態」が表示可能だ。発進でアクセルを踏み込むと、燃焼状態にすぐ「SPCCI」の表示が現れた。つまり、アイドリングは通常のガソリンエンジンと同じ火花点火(SI)である。

●写真下がSPCCI作動時
ディーゼルに近い圧縮着火(CI)をSPCCIで可能にした目的は、リーンバーン(希薄燃焼)の実現にある。リーンバーンといえば、かつては各メーカーが低燃費に特化したエンジンを模索したが、「X」はさにあらず。「G」より全域で10%以上トルクアップというとおり、トルク感は走り出しの1000回転台から2L・NAとは思えない力強さだ。旧聞に属するが、初代アクセラに設定のあった2.3L・NAは171馬力・21.8kgmで、今ではパワー・トルクともに「X」が上まわる。

SPCCIは軽負化領域のみならず!

しかも、SPCCIの作動領域がじつに広い。負荷の低い平坦路の巡行だけでなく、上り勾配でアクセルを全開にしてもSPCCIの表示はついたままだ。「X」は運転状況に応じて燃焼状態をCIとSIのどちらかに切り換えるのではなく、両者の割合を変化させる。CI(=リーンバーン)の割合がSI(=ストイキ)に対して多いほど、燃費がよくなるという具合。
ワイドバンドなCIには、マツダ初搭載のMハイブリッドも一役買っている。CIが難しい低回転域の高負荷ではISGのモーターアシストで動力性能をカバーし、CIをキープしているという。ISGはアイドリングからのエンジン再始動にも威力を発揮。その速さと滑らかさはフルハイブリッド車(HV)並みで、発進・停止における上質さも身につけている。そして、フル加速を続けると約5000回転でSPCCIの表示が消え、SIに遷移。エンジン音とともにパワーがグンと盛り上がり、約6800回転のレッドゾーンまで一気に吹き上がる。その速さはスペックどおりで、シビック ハッチバックと日系Cセグメント最速の座を争う(同タイプRを除く)。スカイアクティブG 2.0の20S系や同D(1.8Lクリーンディーゼル)のXD系ではパワーにもの足りなさを覚える場面もあるが、Xでは期待どおりシャシーの速さに見合う動力性能を獲得している。そのシャシーは20S系より硬質感を増した印象だ。ステアリングに感じるフロントの重さは、XD系に共通するフィーリング。車重は20S系より80㎏重く、サスペンションは相応に引き締められている。ハンドリングはもちろん初期から正確で、Xの速さを十分に受け止める実力を備える。ただ、タイヤサイズは20S系やXD系と同じで、競合のスポーツモデルより1~2サイズ細い。このあたりの力関係については、あらためて比較試乗で確かめたいところだ。

X+MT+4WDの出来に驚きを隠せず!

Xは、6速MT車にチョイ乗りする時間も設けられていた。シフトは意外とユルい感触だが、エンジンのピックアップのよさや駆動力のダイレクト感は、やはりAT車をさらに上まわる。加速感も迫力を増し、これもまさにシビック ハッチバック・MT車の好敵手。

●ファストバックのみに設定されるバーガンディセレクションは、本革内装が深みのあるレッドとなる

●XとMTの組み合わせなら、シフトフィールはもう少しショートストロークのほうが小気味よさがさらに味わえる印象
だが、じつはそれ以上に驚いたことがある。シャシーフィールが明らかに違うのだ。AT車より操舵力がすっきり軽く、サスペンションは路面に対していっそうしなやかに追従する。旋回中や立ち上がりにおけるアクセルとステアリングの連携も、じつに自然。クルマが自分の手足のように動く、これぞ人馬一体!の走りなのである。ナゼこんなに違うのか。足まわりの味付けはAT車と変わらない。トランスミッションの重量差はMT車が20㎏軽いが、それだけでこれほどの違いが出るものか……。そんなギモンを開発陣にぶつけると、要因として浮上したのは駆動方式だ。MT車の試乗車は4WD。マツダ自慢のi-ACTIV AWDもマツダ3でさらに進化し、旋回時におけるヨーレートのフィードフォワード制御を加えている。後輪を駆動する領域はオンロードまで拡大し、今回試乗したワインディングでも「駆動トルクの2、3割は後輪に配分されているはず」(開発担当者)という。その分、前輪はタイヤグリップを旋回に使うことができ、言われてみれば立ち上がりの感触には思い当たるフシがある。また、前後駆動力配分の積極的な制御は車両の姿勢にも好影響をもたらす。そういえば、筆者はマツダ3の4WDをXDの6速AT車で一度経験している。ワインディングは走っていないが、Xのような印象は特に受けなかった。パワーユニットとの組み合わせによってフィーリングが多少なりとも異なる可能性は、もちろんある。

1.5Lの実力も侮れない

今回はマツダ3で残るもう1つのエンジン、SKYACTIV-G 1.5にもチョイ乗りできた。この1.5Lガソリンはファストバックのみの設定で、試乗車はXなどと同じ18インチが標準の15Sツーリング(FF・6速AT)だ。エンジンスペックは基本的に先代アクセラを踏襲する。トルクバンドは排気量を意識させないほど頼もしく、吹き上がりも相変わらず快活。1.5L同士の新旧を比較すると車重は大人1人分ほど増えているが、ふだん使いには十分な加速性能が確保されているに違いない。タイトコーナー続く下り勾配では、フロントの軽さを利して20S顔負けの速さを秘める。
15S系は手ごろな価格と低燃費が最大のウリだが、WLTCモード燃費はXがさらに上。マツダが試乗会拠点の箱根・十国峠周辺で計測したデータでも、20S系の15.1㎞/Lに対してX系は18.2㎞/L(ともにFF・6速AT)と、約20%上まわる数値をマークしている。燃費が1~2割いいため、ハイオクを使ってもトータルの燃料代はレギュラーと変わらないというのが、マツダのアピールである。
その実力はぜひ自分でも検証したいところ。ほかにも、さまざまな走行シーンにおけるSPCCIの実力、Mハイブリッドの効果、さらにはATとMTの違い、FFと4WDの真相など、Xにはまだまだミステリアスな部分が多い。そして、20S系より70万円近く、XD系に対しても約40万円高いだけの魅力があるかどうかも。果たしてXは何者なのか。その解明にこれほど心引かれるクルマはそうそうない。◼マツダ3 SKYACTIV-X搭載モデル価格帯ファストバック:319万8148(FF)〜368万8463円(4WD)セダン:319万8148円(FF)〜361万6963円(4WD)◼マツダ3 SKYACTIV-X搭載モデル主要諸元グレード:ファストバック X Lパッケージ(FF・6速AT)全長×全幅×全高:4460mm×1795mm×1440mmホイールベース:2725mm車両重量:1440kg(4WD:1510kg)総排気量:1997ccボア×ストローク:83.5mm×91.2mm圧縮比:15.0エンジン最高出力:132kW(180ps)/6000rpmエンジン最大トルク:224Nm(22.8kgm)/3000rpm使用燃料・タンク容量:プレミアム・51L(4WD・48L)モーター最高出力:4.8kW(6.5ps)/1000rpmモーター最大トルク:61Nm(6.2kgm)/100rpm駆動用バッテリー種類・容量:リチウムイオン電池・10AhWLTCモード燃費:17.2km/L(4WD:16.2km/L)◼SKYACTIV-X搭載モデルのおもな識別点
●大型のマフラーカッターはX専用

●Xのタイヤサイズは215/45R18 89Wと、ほか18インチタイヤ装着車と変わらない。ホイールはブラックメタリック塗装で、こちらはX専用だ
 〈文=戸田治宏 写真=山内潤也〉

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