2019/11/21 ニュース

【ニューカー試乗記】ラリーカメラマンが2000km走っても疲れない!? シトロエン C5エアクロス試乗旅行記 

自走でラリー北海道の取材へ

ことの始まりは別件の撮影でC5エアクロスに乗ったこと。都内をほんの少し乗っただけだったんだけど、あまりの良さに久々に「このクルマ、欲しい!」と思ったのがきっかけ。その後、メディア向けの試乗会で再び乗る機会があって良さを再認識しました。長距離を乗ってみたいなぁって思ったときに、「そうだ、ラリー北海道の取材にちょうどいい!」 と思いつき、プジョー・シトロエン・ジャパン広報にお願いしてみたら、なんと快諾。念願の長距離試乗が実現しました。ラリー北海道はFIAアジアパシフィックラリー選手権(APRC)と全日本ラリー選手権(JRC)の1戦で、帯広で開催されています。最近あまり取材に行っていなくて、昨年はギャラリーとして観戦。愛車のプジョー106で東京から走って行って、ラリーが終わったあとは1週間ほど道内を旅するのが毎年の楽しみでした。最近は時間がなくてそんな旅もできずじまいだったので、久々の北海道クルマ旅に期待が高まります!
●新日本海フェリーの「らべんだあ」は2017年3月に就航した新造船。昔と違って雑魚寝部屋がなくてびっくり
そんなわけで、朝5時に家を出てまずは関越で新潟を目指します。C5エアクロスで高速道路を走るのはこれが初めてでしたが、まず驚いたのが直進安定性と乗り心地。街なかの低速域だとふんわりと優しい足なんだけど、高速道路だとこれが一変。ピシっと締まった感じになります。かといって決して硬いわけじゃなくて、基本はふんわり系。路面のギャップなどの大きな入力にもガチッといなすのではなく、優しくいなす感じ。これはシトロエンの新たなサスペンション技術、プログレッシブ・ハイドローリック・クッション(PHC)の賜物です。簡単に説明すると、ダンパーの中にもうひとつセカンダリーダンパーが内蔵されていて、そのセカンダリーダンパーがバンプラバーの役目を果たすというもの。通常のバンプラバーだと大きな入力があったときに衝撃が跳ね返ってくるけど、PHCは底突きする前にセカンダリーダンパーが入力を吸収してくれるので、この乗り心地が実現します。この技術はその昔、パリ・ダカール ラリーで活躍したZXラリーレイドに初めて採用。その後のラリー車にも引き継がれて、現在WRCで活躍しているC3 WRCにも採用されている技術とのこと。WRカーの技術を採用したC5エアクロスでラリーの取材へ行くなんて、これも何かの縁ですねえ。予定通りに新潟のフェリーターミナルに到着。連休前ということもあって乗船待ちのクルマも多めです。係員の誘導で車両甲板に進みます。クルマが多いときは甲板内で切り返す場面もあります。全幅は1850mmと若干広めなんだけど、車両感覚が掴みやすいのと、意外とハンドルが切れるので見た目のわりに取りまわししやすいのが助かりました。大きく見えるけど全長は4500mmなので車幅にさえ慣れればなんてことはありません。これなら北海道の林道でも楽に走れそうな予感。
●連休前とあってクルマは多め。狭い甲板内だけど見切りが良いので不安はナシ
フェリーっていうと昔は携帯の電波も届かなかったので食事→風呂→寝るの繰り返しでした。そんな非日常感が楽しかったのですが、今や陸側ならほぼ電波が繋がってしまいます。なので、ボクは出港と同時に携帯の電源オフ! これで翌朝4時半まで何者にも縛られない自由を得たわけです。といっても、食べて風呂入って寝るだけですが(笑)。
●日本海に沈む夕陽を眺めながらの船旅。何もやることがないのが逆に新鮮です
低気圧の影響もあって若干遅れて小樽に到着。とはいえ外はまだ真っ暗です。まずは朝ごはん、ということでいつも立ち寄ってた港近くのなか卯に行くと、営業時間外。昔は24時間営業だったんですが……。働き方改革め! と思いつつ鱗友朝市へ。ここは早朝から食堂が営業していて、フェリーから下船した足で訪れる人が多い朝市。この日は寒かったので、刺身じゃなくて朝から天ぷら定食を頂きました。港で撮影をしていよいよ帯広を目指しますが、まっすぐ向かうとあまりに早いのでまずは趣味の鉄道写真の撮影、通称「鉄分補給」に向かいます。
●小樽港には翌朝早くに到着。1日を有効に使えるので便利なダイヤです

●フェリーターミナルから10分ほど走った鱗友朝市でまずは朝食

●朝からボリュームたっぷりの天ぷら定食
  

未舗装路でも問題なし!

向かう先は増田山。といっても鉄ちゃん以外の人には「どこやねん、それ!」と思われるでしょう。根室本線の落合と新得の間を俯瞰撮影できる山で、頂上までクルマでアクセスできるので気軽に行けるポイントです。気軽に行けるとはいえ、頂上まではダートの上りが続くのでC5エアクロスのダートでの走りをチェックしようという狙いでもあります。
●増田山に向かう道は走りやすいフラットダート
道東道の十勝清水インターから15分ほど走ると、増田山への分岐。10年ぶりぐらいに来たので一度通り過ぎてしまいました。ほどなくして道はダートになります。ダートといっても路面の良いフラットダート。たまに出てくる大きめの石にさえ気をつければ普通の乗用車でも問題なしです。特に気をつかうこともなくあっけなく頂上まで到着。クルマから降りたと同時に列車の音が聞こえてきます。ああ、お目当の貨物列車が今まさに通過中……。林道の入り口を見落としてなかったら間に合ったのになあ。でも、せっかく来たし天気もいいので、狩勝峠の雄大な景色を背景にC5エアクロスを撮影。ちなみに、増田山は熊がたびたび出没するので要注意です。その後は帯広に向かい、取材受付を終わらせてラリー取材開始です。
●増田山の頂上。写真では見えないけど、眼下に根室本線の線路が通っています
ラリーの取材って結構大変なんです。サーキットと違って広大な範囲で開催されるので、まず移動が大変。しかもラリーのスケジュールに沿って狙いの写真を撮影しないとなので、念密な下調べと下見が重要。今回は下見なしのぶっつけ本番なのですが、これは何度も来ているラリーなので可能なこと。ラリー北海道の場合、ベースとなる帯広から片道100kmほど走った地域にステージが設定されているので、1日の走行距離は約250から300km。ダートではパンクやバーストしたり谷に落ちたりしないように気をつけつつ、ラリーカーの走行時間に間に合わせないといけないので慣れてない人だと大変です。
●帯広といえばインデアンのカレー。ラリー期間中はインデアンに毎日通うのが恒例行事

●スタート前の様子。今年も多くのギャラリーが詰めかけました
また、取材車選びも重要です。昔は自分の106で走ってたけど飛行機移動のときは必然的にレンタカーになります。普通の乗用車でも気をつければ問題ないのだけど、地上高の高いSUVが楽チンなのは当然。とはいえ、狭い林道での取りまわしを考えるとフルサイズのSUVだと持て余してしまいます。その点、C5エアクロスだと地上高も取りまわしもまったく問題なし。FFだけど走行モードを変えると電子制御で最適なグリップを得られる「グリップコントロール」を装備しているので、よほどの悪路や豪雪地帯でなければ大丈夫でしょう。たまたま遭遇したぬかるんだダートでも、FFとは思えない走破性を見せてくれました。
●FFだけどグリップコントロールを駆使すれば驚くほどの走破性を見せてくれます

●空き時間があったので、以前WRCで使われたお気に入りの林道に寄ってみました。遠くに雄阿寒岳と雌阿寒岳が見えます
そして、普通の人にはあまり関係ないかもしれないけど、テンパーとはいえスペアタイヤがあることが好印象! 最近はパンク修理剤しか車載してないクルマが多いけど、人里離れた林道でバーストしたらパンク修理剤じゃお手上げ。ダートのラリー取材でレンタカーを借りるときは、スペアタイヤの有無を確認することも重要なポイント。まさにラリー取材にぴったりのクルマでした。
●今回唯一のシトロエン。DS3 R3 MAXは、JRC部門にエントリー

●APRC部門総合優勝のCH-R。中身は2リットルターボで四輪駆動のバケモノです
表彰式を撮影後、先輩カメラマンと2人で帯広を離れて北を目指します。日曜はフェリーが運航されてないことを理由に、また鉄分補給です。ラリーカメラマンはなぜか鉄ちゃんが多いんです。帯広から約170km離れた、石北本線の生田原駅近くの常宿に向かいます。真っ暗な国道を、鹿におびえながらひたすら走ること約3時間で生田原に到着。C5エアクロスで気になったのは、ヘッドライトがハロゲンなこと。ただ、真っ暗な北海道の夜道でも特に支障はなかったので、いいっちゃいいんですけど。400万円超えの価格を考えると、LEDが標準装備でもいいんじゃないかなぁとは思いました。
●APRC部門はマイケル・ヤング/グレン・マクニール組のCH-Rが優勝。この後170kmほど移動です

●陸別駅跡近くの赤とんぼでお昼ごはん。映画「幸福の黄色いハンカチ」にもちらっと出てくるんですよ

●赤とんぼでイチオシのとんぼ丼。具材がとんぼの形になっています
  

疲れないのはシートのおかげ!?

台風の接近に伴って道内も雨の予報だったけど、朝起きたら曇り。宿からダートの林道を20分ほど走った常紋峠の撮影ポイントに向かいます。ここは蒸気機関車時代からの撮影ポイント。紅葉の時期は多くの鉄道ファンで賑わう場所です。何度か訪れたことがあって、以前の愛車スバル トラヴィックで来たときはギャップで跳ねてフロントのスポイラーを粉砕したり、冬に106で来たときはあまりの雪深さでスタック。かなり手前でクルマを捨てて徒歩でポイントに向かったら、氷点下15℃なのに汗だくになったりと、思い出深い場所でもあります。
●蒸気機関車時代からの撮影地、通称146キロポストにて。この日はボク達を含めて3組だけでした
今回は少し荒れた路面はあったけど、問題なく到着。無事に貨物列車も撮影できました。ちなみに、この列車は通称たまねぎ列車。たまねぎの産地として有名な北見地方からたまねぎを満載して運ぶ列車で、収穫シーズンにしか走ってないんです。急勾配の峠をあえぎあえぎ上ってくる光景は、蒸気機関車時代から変わりません。蒸気機関車の現役時代は知らないけどね(笑)。
●北見地方で収穫されたたまねぎを運ぶ通称たまねぎ列車。紅葉時期には多くのファンが撮影に訪れます
鉄分補給も終えてあとは苫小牧を目指すだけ。夜の仙台行きフェリーに間に合うように移動開始です。土砂降りの雨の中を高速で一気に札幌まで移動。こんな長距離移動でも本当に疲れないんです。ボクは腰痛持ちなのでクルマのシートの出来は重要なポイント。C5エアクロスのシートは、柔らかすぎず硬すぎず絶妙な座り心地です。ひと昔前のフランス車のふんわりしたシートと、ドイツ車のかっちりしたシートの良い点だけを組み合わせたような感じ。腰痛持ちのボクにはぴったりのシートでした。札幌で行きつけのスープカレー屋さんに立ち寄りお昼ご飯を食べたあと、先輩と別れて苫小牧のホクレンショップへ。フェリーに乗る前に食料とお土産を買い込みます。苫小牧からフェリーに乗るときは、必ずここに寄って野菜などを買い込んで帰るんです。こんなこともクルマ旅だからできることですね。飛行機じゃこんなことできません。都内のスーパーで買うより安いしね。新潟行きのフェリーが台風で欠航した影響で、仙台経由名古屋行きの太平洋フェリーはかなり混んでました。ラリー車もいっぱい。今夜は宴会なんだろうなぁ、と思ったけど、出航して外海に出たら激しい揺れ! 宴会どころじゃありませんでした。ボクはいくら揺れても酔わないので平気だけど、周りの人たちは大変な様子でした。台風とすれ違うように仙台に到着。台風一過の仙台は快晴でした。あとは東北道で東京に帰るだけ。ACCを使えば楽チンだし余裕な距離です。
●街や高速はもちろん、ダートの林道でも良さを発揮したC5エアクロス。街中よりもむしろ山のなかが似合うかも

燃費も優秀! 新しい乗り味はオススメ

今回の走行距離は約2000km。平均燃費は14.4km/リットルでした。特にエコランせず流れに乗った走りで、この燃費は優秀だと思います。遮音性が高いのか、ディーゼルのガラガラ音は特に気にならなくて車内はとても静か。何度も書いたように足とシートが絶品で、とにかく疲れないんです。ゆったりした走りが楽しめるロングツアラーだけど、ワインディングでは思ったラインをトレースできる素直なハンドリングで、思いのほかハイペースで走れたりもします。ヘッドライトがハロゲンなのと、細かいことだけどシフトレバーが左ハンドル仕様のままなので少し遠いのが気になる点ではあるけれど、言い替えればその2点以外は全部お気に入り! SUVを名乗りながらFFだしなぁ、と思う人もいるだろうけど、よっぽど激しいダートに入り込むとか豪雪地帯とかじゃなければFFでも十分ではないでしょうか。最低地上高も190mmあるので、よほどの悪路じゃない限りフロアを擦ることもないと思います。本格クロカン車と比べるとアプローチ、デパーチャーアングルなどは不利だとは思うけど、このクルマでそんな道に行く人はいない、よね? きっと。ハイドロ時代の乗り味とはまた違った新しい乗り味だったC5エアクロス。気になった人はぜひ試乗してみてください。タイヤが転がった瞬間に違いを感じられると思います! <文&写真=山本佳吾 text & photo by Keigo Yamamoto> 
 

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