2019/11/22 カー用品

ダンロップの最新低燃費タイヤ「エナセーブNEXT Ⅲ」が、ウエットグリップ性能の低下を半減を達成できた理由

住友ゴム工業は2019年11月20日、同年12月1日から発売を開始する最新低燃費タイヤ、ダンロップ エナセーブNEXE Ⅲ(ネクストスリー)の技術説明会を実施した。エナセーブNEXT Ⅲは、1サイズ(195/65R15 91H)のみのラインアップで、希望小売価格は2万5100円(税別)。タイヤラベリング制度において最高グレード「AAA-a」を達成している。販売ボリュームとしては大きくないタイヤだが、これからの社会に向けて最新技術を市販化まで繋げたという点で非常に興味深いタイヤである。
そんなエナセーブNEXT Ⅲの最大の特徴は、従来のポリマーとはまったく異なる「水素添加ポリマー」を用いることで、ウエットグリップ性能の低下を半減できたこと。そう、性能持続技術がさらに進化したのだ。水素添加ポリマーは、JSRが開発した。タイヤの性能低下の要因となるゴム劣化要因はおもに3つ。路面などと接触による「き裂摩耗」、時間の経過で科学的な性質変化を起こす「経年変化」、き裂摩耗や経年変化などを合わせて科学的な変化が起こる「メカノケミカル変化」だ。今回新たに搭載した水素添加ポリマーは、これらタイヤの劣化要因に対応する画期的な素材であるという。

「き裂変化」に強い〜水素添加ポリマー搭載の効果①〜

水素添加ポリマーの長所としてまず挙げられるのが、分子同士の絡み合いが増加すること。水素添加ポリマーは、分子鎖が広く分子の慣性半径が大きいのが特徴だ。慣性半径が大きいと、分子同士が絡み合う体積が大きくなる。従来ポリマーだと、分子同士が浅く絡んでいる状態だったが、水素添加ポリマーは深くしっかり絡み合うイメージ。
次なる長所は、架橋の均一性だ。従来ポリマーだと架橋点が均一ではないため力が局所に集中しやすかった。一方で水素添加ポリマーは、架橋点が均一で力が分散。無理な力がゴム内にかかりづらくなり、破壊されにくくなるわけ。つまり、き裂摩耗に強い構造となるのだ。
さらに、炭素二重結合が減少するのもポイント。二重結合の隣の単結合は切れやすいという特性を持つため、二重結合が多いと全体として結合が弱いことになる。水素添加ポリマーは、二重結合が大幅に減少。さらに、切れても不安定という性質を持ち、再び元の結合に戻るというのだ。
よって、従来ポリマーと水素添加ポリマーのき裂摩耗性能の差は歴然。それぞれのポリマーの分子モデルを同じように変形させたとき、水素添加ポリマーはマイクロレベルでのゴム破壊場所が極端に少なくて済むという。き裂摩耗は、従来比で27%抑制されている。

「経年変化」を抑制〜水素添加ポリマー搭載の効果②〜

タイヤは経年変化を起こすと、硬くなったりひび割れたりする。これに対応するため、住友ゴム工業ではクラレが開発した新軟化剤「液状ファルネセンゴム」を採用してきた(スタッドレスタイヤ、WINTER MAXX 02に搭載)。この液状ファルネセンゴムはゴムから抜けにくい性質を持ち、長期間に渡ってゴムのしなやかさを保持可能なものだった。
これに加えて、水素添加ポリマーは前述のとおり架橋点が新たに発生しにくく、ポリマー分子が劣化しにくいため経年変化抑制にも効果的。ゴムは空気中のオゾンによって劣化が起こるが、水素添加ポリマーを配合したゴムはオゾン耐性が飛躍的に向上するという。経年変化は、なんと従来比で50%抑制。

「メカノケミカル変化」に対応〜水素ポリマー搭載の効果③〜

メカノケミカル変化には、これまでなかなか対応できなかった厄介者。ポリマーが切断されたあと、酸化により劣化が起こるのだが、従来ポリマーだとこの酸化を防ぐ手立てがなかったのだ。その点、水素添加ポリマーは、切れた部分に酸素が結合しにくく、かつポリマーが元に戻る性質を持つ。つまり、劣化のスピードが抑えられ、新品時の性能を保持しやすくなっている。結果として、メカノケミカル変化は従来比で62%抑制した。

以上ゴム劣化要因3つに対応し、ウエットグリップ性能の低下を半減。高い耐摩耗性能と、優れた性能が持続するというダンロップ史上かつてない低燃費タイヤの開発に成功した。
なお、劣化のメカニズム解明にあたっては、AIなどの解析技術とシミュレーションを融合。タイヤ内部で何が起こっているか全容を知ることで、開発スピードは格段に加速することだろう。ちなみにエナセーブNEXT Ⅲの市販は、予定よりも1年前倒しされているのだ。

世界初!「セルロースナノファイバー」で環境にもよく走りも進化


住友ゴム工業は、次世代タイヤの開発理念として「スマートタイヤコンセプト」を掲げている。タイヤ自体の性能向上もそうだが、環境配慮の面にも注力。今回のエナセーブNEXT Ⅲには、タイヤとしては世界で初めてとなるバイオマス材料「セルロースナノファイバー」が採用されている。このセルロースナノファイバーとは、木を構成する繊維をナノレベルまでほぐしたもの。高強度のバイオマス材料として、国が重要視する素材である。
この素材をタイヤに使うにあたって、ただ「環境にいい」でとどまらない。採用箇所は、タイヤの剛性を左右するインナーライナー部。繊維の方向を揃えることで、方向によって剛性差を作り出せるため、タイヤの回転方向(周方向)には硬く、強く。つまり高剛性化に寄与し、操縦安定性を高められる。一方、径方向は柔らかくなるため、乗り心地アップに繋がる。

現時点では、水素添加ポリマーもセルロースナノファイバーも高価で、幅広くタイヤサイズをそろえる量販タイヤへの適用は難しい。だが、これからタイヤのみならずさまざまな製品に適用され、その量産効果で価格はどんどん下がっていくことが期待されている。〈文=編集部・柿崎〉

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