2019/10/16 ニュース

【世界初公開】ヴィッツ改め新型ヤリス! 燃費性能20%アップにEV走行は130km/h! 外部給電まで備えた”やりすぎ”ヤリスに死角なし!?

コンパクトカーを超えたモンスター!?

「ヴィッツ(Vitz)」改め「ヤリス(YARiS)」。1999(平成11)年の初代誕生から20年目の節目に、トヨタのグローバルにおける基幹が全面刷新。そのプロトタイプが10月16日に世界同時公開された。正式発表は12月中旬、発売は2020年2月中旬(ガソリン車の4WDは4月)を予定している。現時点で価格は未公開だ。
●初代(左)、2代目(右上)、3代目(右下)
初代ヴィッツは、21世紀を目前にコンパクトカーの新しい世界基準をつくるべく、プラットフォームをはじめ、エンジン、トランスミッション、サスペンションと、すべての主要コンポーネントを新設計。以後のコンパクトカーの性能を底上げした立役者(車)であり、登場から3世代の歴史を重ねてきた。
もともと「ヴィッツ」は国内向けのネーミング。海外ではずっと「ヤリス」だった。今回ワールドプレミアとなった4代目は、日本での呼び名も世界共通の「ヤリス」に一本化。これは、先に「アクセラ」から「マツダ3」へとグローバルで車名が統一されたのと同様のイメージだ。ちなみにヤリス(YARiS)は、気品、エレガンスを象徴するギリシャ神の女神「CHARIS(カリス)」から取られた造語である。
その新型ヤリスもまた、再びコンパクトカーの新たな価値を創造すべく開発された。その核となるのはもちろん、トヨタが掲げる新たなクルマづくりの指針・活動であるTNGA(Toyota New Global Architecture)。車台には、今後、トヨタの先進国向けコンパクトカーのベースとなるGA-Bプラットフォームを初採用。さらに、エンジン、ハイブリッドシステム、トランスミッション、サスペンションなど、クルマの根幹となるすべてをゼロベースから開発した。
●初代ヤリスが登場した1999年の世界における先進国と新興国・その他市場の割合は、前者75.8%:後者24.2%。これが2019年では、43.5%:56.5%と逆転。今後、新興国向けのBセグメントコンパクトカーは、ダイハツのDNGAプラットフォーム(写真)搭載車が担う
パワートレーンは、新開発「直列3気筒1.5Lダイナミックフォースエンジン」が注目だ。この新エンジンには、以下の3つが組み合わされる。・Direct Shift-CVT(ダイレクトシフトCVT)・新世代ハイブリッドシステム・6速MTさらに、改良を加えた1Lエンジンと小型軽量化したCVTの組み合わせもある。4WDは、トヨタのコンパクトカーとしては初となる電気式4WDシステム(E-Four)を1.5Lに設定。ハイブリッド車は、世界最高レベルの低燃費を実現すべく開発が進められた。

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「黒豆のようなクルマに」〜エクステリア〜

新型ヤリスの開発テーマ、その根本にあるのは“小ささへのこだわり”だ。全長3940㎜×全幅1695㎜×全高1500㎜(4WDは1515㎜)、ホイールベース2500㎜のボディサイズは現行型比で5㎜短く、幅と高さは同じ。ホイールベースは10㎜短い。このディメンションからも、それは見て取れる。室内空間やデザインのためにいたずらにサイズアップするのではなく、コンパクトカーとしての“小ささ”を前面にアピールしているのだ。それは取り回しだけでなく、軽快なハンドリングにも直結する。ちなみに欧州仕様はワイドボディ(全幅1745mm)を採用。前後トレッドの拡大に伴い、外板にもワイドフェンダーが採用されるようだ。
●デザインコンセプトイメージ
エクステリアデザインのコンセプトは「B-Dash!(ビー・ダッシュ)。これは大胆(BOLD)に、活発(BRISK)に、そして美しく(BEAUTY)をかけたもの。鋭い加速で弾丸(BULLET)のようにダッシュ!するイメージだという。ファミコン世代には懐かしい響きだ。
●「外形のテーマ『Bダッシュ』は、スーパーマリオの意味もちょっと含まれています。ちなみに欧州の外形デザイナーの名前も『マリオ』です(笑)」(中嶋)
「まず私が最初に各デザイナーへ伝えたのは“黒豆”のようなクルマにしたいと。なぜ黒豆かと言うと、小っちゃくて、丸くて、ツヤがあって。もちろん食べてもおいしい。そのイメージを基に小さなモデルを作りました。これをデザインの最終的なキーとして、ヨーロッパの全国各地を持ってまわり、実際の景色のなかでどう見えるかを検証しました」。とは、新型ヤリスのデザインをまとめたトヨタ自動車・デザイン部の中嶋孝之氏。
●床下のフルアンダーカバー化により、ハイブリッド車やZグレードではCD値=0.30を実現
現行型よりAピラーの付け根を手前(キャビン側)に引き、大型のフロントグリルへと向かう「全体から前に押し出す動き」を持たせた意匠を組み合わせることで、フロントマスクの“強さ”を表現。それに、ムダを削ぎ落としたキャビンとボディの中心から前後タイヤに向かう造形を組み合わせ、力強いワイドスタンスを実現。また、リヤフェンダーの前にブーメラン形状を設けることで、5ナンバーサイズ幅でもしっかりとメリハリのある面構成としている。加えて、車両を短く見せる効果も持たせた。
●スポーティ仕様のZとGグレードのヘッドライトはLED。横長のLEDシグネチャーランプはポジションとデイライト、ターンランプを兼ねるダブルファンクションタイプ
顔つきについて現時点では、特に一連のトヨタ車に見られるキーンルック(猛禽類を思わせる鋭さ)をうたってはいないが、シャープな意匠の大型ヘッドライトと大型グリルの組み合わせは、“無理に寄せた感”のない印象。絞り込んだCピラーに独立したコンビランプを組み合わせたリヤまわりのグラフィックは、どこかC-HRに似たイメージだ。
●3次元的なグラフィックを創出するウインドーとコンビネーションランプの組み合わせがリヤビューのアイコンだ
「ハッチバックはお尻が大事だと思っています。大きくラウンドしたリヤウインドーとリヤコンビランプをくくることで、インパクトのあるアイコンになっていると思います。前述の“黒豆感”がもっとも出ているのもココだと思います」(中嶋)

「思わず触りたくなる」〜インテリア〜

内装デザインのテーマは「SPORTECH-COCOON(スポルテック・コクーン)。楽しく操る機能部品と、心地よい素材感に包まれた空間との対比。日本車ならではの新しい質感を表現した。
●ステアリングの直径を現行型の370㎜から365㎜に小径化。併せてセンターのホーンパッドも小型化された
パッケージは小顔効果(中嶋氏談)のある小径ステアリングに、拡幅されたセンターコンソールの組み合わせ。インパネアッパー部(の断面)を薄くすることで、1クラス上の比率となるようボリュームを調整(T字で言えば横棒を細く、縦棒を太く)。ワイド感と運転に集中できる空間を狙った。メーターは、トヨタ初のフードレス双眼デジタルTFTタイプを採用。
●ジャージ素材にラメプリントを施すことで、ツイードのような素材感を表現
また上級グレードのインパネアッパー部にはソフト素材を、ドアトリムオーナメントには、ファブリック調のパターンをプリントしたフェルト素材を初採用(生地の使用面積も現行型比2倍に拡大)。これに、ツイード調の厚みを持たせたジャージ素材と合成皮革のコンビのシート表皮を組み合わせ、温かみのある室内空間を創出している。シートは骨格フレームを含め新設計。TNGAを形成する一要素だけに、サイズには余裕がある。ベーシックのXグレードはヘッドレスト一体型のハイバックタイプとなる。
●(左)身長183㎝の乗員が後席に着座。頭上には余裕があるが、ひざまわりはこぶし1つ分弱。(右) 後席はシンプルな6:4分割可倒式。荷室フロアとの段差は大きめ。荷室用フロアボードがあれば、もっとフラットになる

次ページは「全部をフルモデルチェンジしたメカ」

  

■「すべてを刷新!」〜メカニズム〜

〈プラットフォーム〉

Bセグメントコンパクトカー向けのGA-Bプラットフォームは、先行するC~Dセグメント用やFR用と同様、軽量・高剛性、低重心が売り。現行型(HYBRID Xグレード同士)比で約50㎏の軽量化(開発目標値:1050㎏)を図るとともに、15㎜の重心高低下も実現。
●新型ヤリスを皮切りに、以後、トヨタのBセグメントコンパクトカーへ横展開していくGA-Bプラットフォーム

〈ボディ骨格〉

新型プラットフォームに組み合わせるボディもまた、主要な骨格を連結させ(骨格結合構造の最適化を図り)、高張力鋼板の採用部位を拡大することで、ねじり剛性が従来型比で30%向上。クラストップレベルの高剛性ボディを実現した。


〈パワートレーン〉

[新開発 ハイブリッド用1.5L]
●ハイブリッド用1.5L(M15-FXE型)
TNGAに基づき新開発された、直列3気筒1.5Lダイナミックフォースエンジン。ボア×ストローク:80.5㎜×97.6㎜のロングストローク化やバルブ狭角拡大などの高速燃焼システムを採用し、全域でのエンジントルクアップと従来型比2%の熱効率向上を実現。ほかにもレーザークラッドバルブシートを用いて高タンブル比を実現した高効率吸気ポート、集合排気ポート(排気冷却)や触媒近接エキマニなどを採用し、低燃費と高出力の両立を図った。[新開発 ハイブリッドユニット]
●トランスアクスル(左)、パワーユニットコントロール(右上)、駆動用リチウムイオンバッテリー
トランスアクスル、パワーコントロールユニット、駆動用バッテリーで構成されるHVユニットも、小型・軽量化した新型に刷新。従来型より約30%もモーター出力を向上、モーターのトルクアシストが増加。加えて、電気エネルギーの伝達損失を従来型比で約30%低減させることで低燃費を実現。高出力&高効率化を両立させた。上記の1.5L ハイブリッドは、リニアな加速性能と併せ、動力性能も現行型比15%以上向上。また、EV走行速度を70㎞/hから130㎞/h(!)へ大幅アップ。これらによって、燃費性能(WLTCモード目標値)も20%以上向上させたという。[新開発 ガソリン車用TNGAパワートレーン]
●1.5L エンジン用ダイレクトシフトCVT
エンジンはハイブリッド用と同様、ロングストローク(80.5㎜×97.6㎜)化した500ccモジュールの1.5L 3気筒。こちらは直噴(D-4)とし、音・振動の低減を図るギヤ駆動式のバランスシャフトを搭載。これに、発進ギヤとロックアップダンパーを備えた新開発のワイドレンジCVT(ダイレクトシフトCVT)を組み合わせる。そのダイレクトシフトCVT。発進時(約10~30㎞/h)はギヤ駆動とすることで、CVT特有のラバーバンドフィールを抑えてキビキビとした発進加速を実現。中・高速域では、ベルト駆動の高効率領域を生かした伸びのある加速を両立。低回転・高トルクのエンジン特性を生かすべく採用された。[改良型1Lパワートレーン]
●1L エンジン&スーパーCVT
ベーシックユニットとして継続搭載される996cc直3エンジン(1KR型)とCVTの組み合わせも改良。全域希薄燃焼化のほか、CVTも全長を短縮しギヤ配置の見直し(配置簡素化)を図った新開発(Super CVT-i)とすることで、約6㎏の軽量化を実現。併せてギヤレシオのワイドレンジ化により、従来型比で燃費性能を4.7%向上させた。

〈サスペンション〉


●E-Four用に新開発した2リンク・ダブルウイッシュボーンリヤサスペンション。コンパクト化により、駆動用バッテリーとHV用燃料タンクをFFと共通化できた
フロントはストラット、リヤがトーションビーム(FF)の基本形状は現行型と同じ。ただし、すべてが新設計。アブソーバーの摺動摩擦の低減や減衰力をコントロールすることで、滑らかな脚の動きを追求した(それぞれのポイントは以下を参照)。また、E-Fourを搭載するために4WD用のリヤサスを新設計。これは、従来型のトーションビーム(FF/4WD用とも)では新型ヤリスのパッケージには収まらず、同じ理由でGA-Bプラットフォームでプロペラシャフトを介した4WDを成立させるのは不可能だったから。ダブルウイッシュボーン化により、FFと同等のスペースにサスペンションメンバーとスタビライザーを配置できた。乗り心地の面ではFFに譲るが、ハンドリングなどは4WDのほうが好印象とのことだった

次ページは「機能満載すぎる……でも1点だけ気になる部分も」

  

「コンパクトでも妥協しない」〜先進安全&運転支援装備〜

[トヨタセーフティセンス]衝突の回避や被害の軽減をサポートし、ドライバーのミスや疲れをカバーして事故を未然に防ぐ予防安全パッケージ「トヨタセーフティセンス」を、X“Mパッケージ”を除く全車に標準装備。おもな機能は以下のとおり。●プリクラッシュセーフティ(緊急自動ブレーキ) ●レーントレーシングアシスト(LTA) ●オートマチックハイビーム ●レーダークルーズコントロール(ACC) ●ロードサインアシスト ●先行車発進告知機能〈付帯装備〉
なお、新型ヤリスのプリクラッシュセーフティは、交差点事故まで作動範囲を拡大。事故発生率が高い交差点内において、交差点右折時に前方から来る対向直進車や、右左折時の横断歩道の歩行者も検知可能となった。これはトヨタ初。しかし、LTAとレーダークルーズコントロールの作動速度は30㎞/h以上。つまり、渋滞時まで全走車追従&ステアリング支援をしてくれないのだ。内装の写真でお気づきかかもしれないが、駐車ブレーキはハンド式。これはいかがなものか……。担当技術者に聞くと、確かに電動パーキング(EPB)と全車速ACCを導入すべきかの議論はあったという。しかし「今回は良品廉価(価格)を重視しました」とのこと。なんとも残念だが、マイナーチェンジで導入されるかも。[アドバンスト パーク(高度駐車支援システム)]ステアリング操作だけでなく、アクセル、ブレーキまで制御する駐車支援システムをトヨタ初採用(ハイブリッド車にオプション)。1:まずクルマを止めたいスペースの横に停車し、支援システムの「P」スイッチをON。2:自動認識したスペースを確認し、「開始」スイッチをON。自動で頭を振り、停止したら「R」にシフト。あとは何の操作もせずに自動で車庫入れ完了。超音波センサーとカメラで360°周辺をセンシングし、もし駐車中、障害物などを検知した場合は、警報が鳴り自動でブレーキをかける。ちなみに支援システム作動中にドライバーがブレーキを踏んでも、機能は継続され、ブレーキを離せばそのまま復帰する
●白線のない駐車場でも画像認識により駐車スペースを登録できるメモリ機能も備わる(世界初)
[コネクティッドサービス]DCM(専用通信機)とディスプレイオーディオ(DA)が全車標準。スマートフォンをクルマとつなげば、トヨタ車対応の地図アプリ(LINEカーナビなど)や音楽アプリを車両のディスプレイで操作できる。
●T-Connectサービスの利用には契約が必要(基本利用料は5年間無料)。6年目以降3630円、または330円/月

「移動する電力源に」〜外部給電機能〜


アクセサリーコンセント(1500W)をハイブリッド車にオプション設定。家庭用と同じコンセントを通じて電化製品を使えるほか、停電などの緊急時には発電機としても使用可能。炊飯器やプロジェクターなど、同時に複数の電化製品を動かすことができる。
コンパクトの強みを生かしながらすべてを刷新。再びコンパクトカーの常識を一変させてしまうかもしれない新型ヤリス。東京モーターショー2019の期間中、お台場のヴィーナスフォートに展示するほか、10月末から12月にかけて、全国各地で展示を予定している。早くその実力を確認してみたい。〈文=編集部・土田 写真=山内潤也/トヨタ〉 

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