2019/09/04 ニュース

2020年発売のマツダEV。その試作車に緊急試乗。バッテリー容量35.5kWhに留まるマツダらしさ

搭載バッテリーが薄い!


正直、ここまでとは思わなかった。ノルウェーはオスロで緊急試乗を行ったマツダのEV(電気自動車)のプロトタイプは、理詰めのパッケージングと最新のマツダらしさの究極形と表現したい素晴らしい走りで、事前の期待を大いに上まわってくれたのだ。EVになっても、いやEVだからこそ、マツダの勢いは止まらない!!マツダは現在、トヨタなどと共同でもEVの開発を行っているが(EV C.A. Spirit Corporation) 、今回乗ったのはそれ以前より独自開発されていたEVプラットフォームを用いた試作車。そのハードウェア構成には、やはりマツダらしさが光る。象徴的なのは35.5kWhというバッテリー容量だ。正確な航続距離は明らかにされていないが、おおむね250km前後となるだろう(編集部注:日産リーフのバッテリー容量は40kWhでWLTCモード航続距離322km。リーフe+は62kWhで458km)。プレミアムEVの世界ではバッテリーの大容量化が顕著。そのトレンドはコンパクトカークラスにまで波及してきているが、マツダは無闇な大容量化はライフサイクルまで鑑みたCO2排出量低減には繋がらないと考えた。そこに、実際のユーザーの使用実態などさまざまな要件を加味した結果が、このバッテリー容量、航続距離である。
●95kWhと大容量バッテリーに比べて、今回マツダが搭載した35.5kWhのバッテリーはライフサイクルでのCO2排出量は少ないとしている
角型のこのバッテリーはフロア下に敷き詰められるように搭載されているが、目を見張るのはその薄さで、室内空間への影響は皆無といっていい。高い衝突安全性の確保ために高張力鋼板製のフレームに収められたこのバッテリーユニットは、さらにボディに20カ所で固定されており、ボディ剛性の大幅な向上にもひと役買っている。
●マツダEVプラットフォームの概要。フロントにモーターを搭載するため、前輪駆動だ

●35.5kWhと公表されたリチウムイオンの駆動用バッテリー。非常に薄く、フロア下に搭載される
マツダらしさは、ひとつの基本骨格からさまざまなかたちの電動化車両を生み出すことができる設計にも見て取れる。じつはフロントに積まれた小型電気モーターの隣には発電用のロータリーエンジンが搭載できるのだ。
●写真はボンネット内部の構造。下側が車両前方だ。向かって左側に駆動モーター、小型ロータリーエンジンを使ったレンジエクステンダーユニットは右側に収まる。コンパクトなロータリーエンジンがなせる技だ
電源ミックス上、クリーン電源が多く、また充電インフラが充実した地域ならば、大容量のバッテリーと小型燃料タンクを組み合わせてレンジエクステンダーにすればいいし、あるいは発電機の出力を高め、中程度のバッテリーと組み合わせたプラグインハイブリッドにしてもいい。さらに、高出力発電機と小型バッテリー、より大型の燃料タンクを組み合わせたシリーズハイブリッドなら、地域を問わず受け入れられる可能性が広がる。このアーキテクチャーは、こうしたさまざまな展開が可能なのだ。しかも、その響きを聞けば胸が高鳴らずにはいられない、ロータリーエンジンを使って…。
●マツダの電動車両は、ロータリーエンジンがキモとなっている

●ロータリーエンジンは、さまざまな燃料に対応可能なため、さまざまな発展性がある。これは非常に大きなメリットだ

マツダらしい”ワンペダル”の考え方

肝心な走りの面でも、マツダはEVのメリットをフルに生かして、人馬一体の思想をさらに推し進めてきた。根底にあるのはマツダ3などで具現化している人間中心の考え方である。それを実現するべく目指したのは、クルマの慣性を生かし、すべての方向の荷重移動を自在にコントロールできること。このクルマには、EVのメリットでそれを実現する3つのカギが用意されている。
●進化した多方向環状構造ボディの説明。そのポイントは、バッテリーパックとボディ骨格を強固に結合すること、フロアの上下にクロスメンバーを配置すること、リヤアクスル取り付け部を環状構造で強化すること、この3点だ
ひとつ目は“多方向環状構造ボディ”。操作に対する一貫した応答性には、4輪対角に遅れなく力を伝達するこの土台が、まずは不可欠となる。そして、すでにお馴染みの“GVC(Gベクタリングコントロール)”は電気モーター駆動化によって制御範囲が拡大されている。内燃エンジンを使う場合との一番の違いは、アクセルオフ時の制御がやりやすくなったこと。またコーナリング後半の立ち上がり加速の際に荷重を後方に移し、姿勢を安定させる制御も初めて採り入れられている。そして最後が“モーターペダル”。アクセルペダルの操作だけで加速も減速もできるようにすることで、シームレスなトルクコントロールを可能にし、乗員の姿勢変化、目線のブレを最低限に抑えている。ただし、これはいわゆるワンペダルドライビングを可能にするためのものではない。アクセルオフ時にもリニアな減速感を発生させ、その端境でギクシャクとした動きを起こさせないようにしており、また一定以上の制動力を発揮させたいときにはブレーキペダルを踏み込まなければならない。制動により身体に前方向のGがかかっているときには、右足を浮かせるよりも、踏み込む動きのほうが正確な操作ができるからである。新鮮さ、刺激よりもあくまで心地よいドライビングが志向されているのだ。

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音も聞かせてスムーズさを追求


試乗車「e-TPV(TECHNOLOGY PROVE-OUT VEHICLE)」はあくまでテスト車両。市販時には備わる予定の回生協調ブレーキがなく、ペダルを踏み込んだときには通常の油圧ブレーキだけが働く仕様だったことを予めお断りしておく。発進、加速、そして巡航に至るまでの段階で感じたのは、走りのリニアリティが非常に高いということだ。出力数値を見ると、最高出力は105kW、最大トルクは265Nmとある。電気モーターは低回転域から大きなトルクを発生できるため、EVといえば出足の加速が鋭いというイメージがあるが、e-TPVの加速感はあくまで自然でスムーズだ。それにはサウンドの効果も多少はありそう。じつはe-TPVはエンジン音を模したのではない独自の音をドライバーに聞かせている。これもまた車両の状態を把握するのに大きな力を発揮しているという考えに基づくものだ。せっかくのEVだけに、静かに乗りたいという思いもある一方、例えば加速時の音の盛り上がりがクルマとの一体感を増幅するのも確かではあって、結論は難しいところだが…。
そしてアクセルをわずかに戻すと、強過ぎない軽い減速Gが発生する。ワンペダルドライビングを標榜するモデルは、この加速から減速に切り替わる過程でギクシャクした動きを見せるものも少なくないが、e-TPVはここが見事。おかげで一定速度での巡航も非常に楽にこなすことができる。試乗車は前述のとおり、回生協調ブレーキがないために、もう少し減速力が欲しいというときにブレーキペダルに足を乗せても、レスポンスがイマイチと感じられた。しかし、それも市販の際には解消されていると考えれば、ドライバビリティは相当なレベルに到達しそうと思えた。

独自デザインをまとい、10月の東京モーターショーで登場?


●今回公開された試作車のスペック。もちろん急速充電のCHAdeMO規格だ

コーナリングもまた爽快だった。まずボディの剛性感が高く、低重心で前後バランスがいいという土台があった上で、内燃エンジン車よりきめ細かな制御の可能なGVCが効果を発揮しているのだろう。まさにシームレスな挙動の繋がりは、月並みな言葉で言えば自分の運転が格段にうまくなったかのように感じさせる。いたずらにシャープだったり、思った以上に曲がっていったりするのではなく、まさに意のままになる走り。短い試乗時間が恨めしくなる、ずっと遠くへ行きたくなる走りの世界が、そこには実現されていた。
この走りの感触は決して真新しいものではなく、マツダが特にここ数年、目指してきた世界そのもの。マツダ3で具現化されたものの延長線上にある。EVのメリットをフルに生かすことで、その次元をさらなる高みへと引き上げた。そう評するのが正しいだろう。内燃エンジンに並々ならぬこだわりを見せるマツダだが、いやそうだからこそ出来たEVだと言ってもいいかもしれない。今回試乗したe-TPVはCX-30の外観となっていたが、市販の際にはオリジナルのデザインが与えられる模様。それはスタッフによれば「未来を感じられる」仕上がりだというから楽しみにしたい。そんなEV技術を搭載した新型車は2019年10月に披露(東京モーターショー?)。発売は、何と2020年にも開始される模様である。〈文=島下泰久 写真=マツダ〉

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