2019/08/30 コラム

アメリカのピックアップユーザーが軽トラに熱い視線! 日本の中古車価格も将来上がってしまう!?

※2019年8月30日に公開した記事です

軽トラ、新天地へ行く

米国のいわゆる輸入車25年ルール──「製造から25年以上が経過した外国車は保安基準に適合していなくても登録できる」というこの免除措置は近年、日本の中古車市場にも少なからぬ影響を及ぼすようになっている。

たとえばBNR32スカイラインGT-Rの相場がデビュー25周年の2014年頃から急騰したこともそう。自動車趣味人の人口規模が日本をはるかに上回る米国で、数に限りのある特定の旧車の需要が一気に高まれば、まさしくこうなるという好例だ。

米国に正規輸出されていなかった日本車のうち、25年ルールが適用されたことで引き合いが強まったクルマを調べてみると、ある共通点に気づく。それは唯一無二の独自性である。32スカイラインやユーノスコスモなどの高性能FR車。Be-1やフィガロなどのパイクカー。カプチーノやAZ-1などの軽スポーツ。いずれも日本という風土にしか生まれ得なかった個性派ぞろいで、類似するクルマが海外に存在しない。では日本のクルマ好きにも人気のクルマばかりなのかというとそうでもない。日本独自規格で設計されながらも、仕事道具として酷使されてきたであろう四半世紀前の軽トラックと軽バンの需要もまた、米国でジワジワと高まっている。

国産車メーカーは1960年代より米国に販路を求め、かつてはミゼットサンバーコニーなどの軽トラックや軽バンにも対米輸出仕様が存在した。輸入車に関する規制が厳しくなりはじめた1968年以降も、日本の軽商用車は農場用や構内作業車などの非登録車として、あるいは保安基準に適合するように場当たり的な改造を施されたうえで細々と流通していた。サンバーバンにいたっては、まとまった数がEVにコンバートされもした。
※赤字部分をクリックすると、彼の地に渡った軽自動車たちの動画が見られます。

しかしながら360cc時代はもとより550cc時代の軽自動車も米国の公道で使うにはあまりにも小さく、あまりにも非力だったため、その小ささをメリットとして享受できるユーザーか、よほどの物好きにしか売れなかった。米国にはそうした1980年代以前の国産軽自動車が今も少なからず残存しているものの、そのほとんどは実用ではなくコレクション用である。

ところが2015年になると、1990年以降に生産が始まった旧660cc規格(全長330×全幅140㎝以内)の軽自動車が、25年ルールの適用により無改造で登録できるようになった。


●米国のユーチューバーMotoCheezの「軽トラック購入記」。車齢25年以上の軽トラックを扱う並行輸入業者を訪ね、1992年式のS38系ハイゼットトラック・クライマーを4500米ドルで購入している。

660cc時代を迎えたサンバー/ディアス、ハイゼット、キャリイ/エブリイ/スクラム、ミニキャブ、そしてアクティは550cc時代にくらべて全長がおよそ100㎜も伸びていた。そしてエンジンは低速トルクが太り、エアコンユニットを駆動する余裕と、4WD仕様ではそれに相応しい動力性能を獲得していた。これに興味を持ったのがピックアップトラックのユーザーたちだった。

米国では今も全土の97%にあたる僻地に、全人口の約19%にあたる6000万人が住んでいる。自然に寄り添い、自給自足に近い暮らしをするには、未舗装路を往復して建材の買い出しや井戸掘り、小船の輸送や狩猟、野菜の収穫や薪の収集をしなければならない。そのためにアメリカ人は過去100年にわたってピックアップトラックを愛用してきた。今も米国で売られる車の5台に1台がピックアップである。しかしながら近年はその不経済性・非効率性を反省し、これに代わる選択肢のひとつとしてUTV(サイドバイサイド)が注目されてもいた。そうした頃に、ピックアップトラックとUTVの隙間を埋める存在として、日本の軽トラックや軽バンが再評価され始めたのである。


●一般ユーザーによる軽トラックとUTVの比較動画。UTVは悪路走破性を追求するために快適性と積載性を犠牲にしており、ヒーターの備えもない。

フルサイズピックアップが難儀するような林道に分け入れる機動力。驚異的な省燃費性能。UTVに比べれば頑丈なドアと防音性の高いキャビン。ちゃんと効くヒーター。信頼性の高い灯火類とワイパーを備え、個体によってはエアコン、デフロックまでついている。4WD仕様にこだわっても、中古のUTVよりは安く手に入る。10万㎞も走れないと言われるUTVよりも耐久性は高い。米国の大手メーカーが見落としているニッチがそこに存在した。そして小さなトラックを世界で一番上手に造れるのは日本のメーカーなのだった。

畦道や路地裏を小さなボディで縦横無尽に駆け回り、日本経済を陰で支えてきた軽商用車。「軽トラ記念日」があってもいいくらいの国益をもたらしているのに、なぜか国内では「世界に通用しないガラパゴス規格」だと蔑まれてきた、貶められしクルマたち。4年後には1998年以降に製造された現行規格(全長340×全幅148㎝以内)の軽自動車が米国に渡るようになる。いまのところは国内相場に大きな影響は見られないが、この先どうなるか。不気味でもあり、楽しみでもある。(オールドタイマー編集部・横須賀 零)
米国の“輸入車25年ルール”について詳しくは
https://driver-web.jp/articles/detail/omoshiro/19886/

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