2019/09/06 コラム

10代目登場を目前に、昭和のアコードを振り返る【1985年 3代目アコード エアロデッキ】

空力ボディ、リトラクタブルヘッドライト、DOHC4バルブ──80年代の夢を満載した個性派


2019年10月開幕の東京モーターショーで10代目が日本初披露される予定のホンダ・アコードですが、初代、2代目同様に3代目もセダンと3ドアハッチバックの展開でした。が、その3ドアハッチバックはベーシックな実用モデルというより、スペシャリティーカー、あるいはクーペのような立ち位置で、超個性的なデザインと「エアロデッキ」という専用車名が与えられます。現役当時、販売面では苦戦したエアロデッキですが、車高を低く抑え、超ロングルーフを採用した独特な形状が記憶に残っている方は多いのではないでしょうか。今回はそんな個性派アコード、エアロデッキを振り返っていきます!


●ロー&ワイド、フロントからリヤへ微妙なカーブを描くライン、超ロングルーフという特徴を持ったエアロデッキのデザインをホンダは「スーパービュレットフォルム」と呼んでいました。発表時の資料には「これからのカーデザインの主流となるべきスーパービュレットフォルム」という自信あふれる文言もありましたが、それはちょっと無理だった……。

エアロデッキ/セダンとも、3代目アコードは1985年にデビュー。「明確な差別化としてのハイ・ポテンシャル」、「ヒューマン・オリエンテッド(人間重視設計)」、「時代の先取り感覚」の3つを大きなコンセプトとして開発が行われましたが、その構成はまさに80年代の憧れと言える当時の先進技術──リトラクタブルヘッドライト、空力特性に優れたボディ、DOHCエンジン──を全部詰め込んだようなものとなっていました。

まずデザイン面では、エアロデッキ/セダンともに、プレリュードで一躍人気を集めたリトラクタブルライトの流れを受け継ぎ、低く構えたハンサムなフロントまわりが特徴的。これは前面投影面積の軽減という実践的な効果もあり、空気抵抗係数のCd値はエアロデッキが0.34、セダンはちょっとしたスポーツカー並の0.32という数値を実現していました。

しかし、何よりエアロデッキを語るうえで欠かせないのは、いわゆる通常の3ドアハッチバックとは異なり、ルーフ部分まで開くガルウイング型のテールゲート。この手のギミックはデザイン重視で実用性が犠牲になっしまうケースもありますが、そうなっていないのも地味にスゴいところ。リヤのラゲッジスペースは310ℓという十分な容量があり、フラットフロアで使い勝手も良し、なのです。リヤシートは2分割の可倒式で、またフロントシートのヘッドレストを外してシートバックを倒せばフルフラットなスペースを作り出せるなど、様々なシチュエーションにも対応できる工夫もされていました。



●テールゲートのルーフ部はガラスがはめ込まれ窓となっており、車内に明るさを積極的に取り込み、後席でも開放感が得られるようになっていました。

エンジンは2ℓ直4DOHC4バルブ+電子制御燃料噴射(160馬力)、1.8ℓ直4DOHC4バルブ+CVデュアルキャブ(130馬力)1.8ℓOHC3バルブ+シングルキャブ(110馬力)の3種を設定(セダンも同様)。トランスミッションはそれぞれに5速MTと4速ATが組み合わせられました。

特に2ℓと1.8ℓのDOHC4バルブエンジンは完全新設計で、「F1のホンダ、DOHCのホンダ」を体現したかのような存在でした。バルブ駆動はF1マシン同様にスイングアーム方式を採用し、10㎜という高いバルブリフトを確保。吸排気効率を大幅に高めることができたほか、バルブまわりの慣性重量の軽減・フリクションの低減により高回転域での追従性にも優れた特性を実現していました。……というと、ショートストローク型の高回転高出力エンジンなのかと想像してしまいますが、低回転でも高トルクを引き出すためにボアストロークは2ℓ:81.0×95.0㎜、1.8ℓ:81.0×89.0㎜とロングストローク型なのです! 一般的にロングストロークだと高回転まで回りにくいエンジンになりがちですが、そこにF1で培った超高回転・超高出力の技術を注入したのがホンダ。結果どうなったかというと、低回転ではねばり強く、高回転はビンビン回ってパワーを発揮するという、全域でスムーズかつパワフルなエンジンに仕上がっていたのです。一方、1.8ℓOHCは吸気2バルブ、排気1バルブの3バルブで、2代目プレリュードに搭載されたものをベースに改良した新エンジン。こちらはより扱いやすさと燃費を重視した特性となっていました。


●写真は2ℓDOHCの「B20A」エンジンですが、1.8ℓDOHC「B18A」エンジンともどもアルミシリンダーブロックを採用しているのも大きな特徴です。

●1.8ℓOHCエンジンのエアロデッキLXR。ドライバー誌1985年8月5日号の試乗速報では「パワー不足は感じず、なめらかな加速。特に4速ATとの相性がいい。DOHCは魅力だが、カタログだけに頼らず、購入したいという人はOHCも試乗した方がいい」と、あえてOHCを選ぶ価値があるとレポート。

そして密かにスゴいポイントがサスペンションです! 3代目アコードは、FF車としては世界初となる4輪ダブルウィッシュボーンサスペンションを採用したのです。FF車というのを除けば、日本車ではトヨタ2000GTが4輪ダブルウィッシュボーンサスを採用した実例はありましたが、スポーツカーでもない一般的なクルマに用いたのはスゴいことではないでしょうか!?そのねらいは、ライントレース能力やショック吸収性の向上はもちろんですが、ゆとりあるキャビンスペースを確保する目的もあったとのこと。初代アコードもそうでしたが、M・M思想(マン・マキシマム、メカ・ミニマム)を掲げるホンダらしいクルマ作りの姿勢が垣間見えます。


●フロントサスペンション。プレリュードに採用されたものをベースとし、コーナリング性能を追求。

●リヤサスペンション。スペースの効率化にも貢献し、車内スペースの確保のみならず、60ℓという大容量の燃料タンクの搭載を可能に。

グレード展開は上から、2ℓDOHCエンジンの「2.0Si」、1.8ℓDOHCエンジンの「LXR-S」と「LX-S」、1.8ℓOHCエンジンの「LXR」と「LX」で全5種となっており、発売当時価格は東京地域の価格で142万7000円(LX)~200万7000円(2.0Si)。グレード名がやや分かりづらいですが「S」の文字が入るのがDOHCエンジン車というのが手っ取り早い見分け方で、それら「S」付きの「2.0Si」「LXR-S」「LX-S」はツートンのボディカラーが与えられました。


●メーターは3眼式で、中央に速度計、左に回転計、右に水温計・燃料計などインジケーター類というレイアウト(写真は「LX-S」の車内。「2.0Si」のみオプションで液晶デジタルメーターにもできました)。ステアリングは振動低減をねらい、芯材とステアリングロックにマグネシウム合金が採用されるという凝ったもの!

●「LX-S」のアクセサリー装着車。ボディストライプ、ルーフスポイラー、リヤクォーターブラインド、アルミホイールなどが取り付けられています。

●正面からだとセダンかどうか分かりづらいですが、エアロデッキですよ〜。グリルまわりのデザインがセダンとはちょっと違うのです。

[アコードエアロデッキ主要諸元]■寸法・重量全長:4355㎜全幅:1695㎜全高:1335㎜ホイールベース:2600㎜トレッド:前1480㎜/後1475㎜車両重量:1020㎏(「LX」MT車)~1090㎏(「2.0Si」AT車)燃料タンク容量:60ℓ

■エンジン・トランスミッション[2.0Si]型式:B20A型 水冷直列4気筒DOHC4バルブ排気量:1958cc最高出力:160馬力/6300回転最大トルク:19.0㎏m/5000回転トランスミッション:5速MT、4速AT

[LXR-S/LX-S]型式:B18A型 水冷直列4気筒DOHC4バルブ排気量:1834cc最高出力:130馬力/6000回転最大トルク:16.5㎏m/4000回転トランスミッション:5速MT、4速AT

[LX/LXR]型式:A18A型 水冷直列4気筒OHC3バルブ排気量:1829cc最高出力:110馬力/5800回転最大トルク:15.2㎏m/3500回転トランスミッション:5速MT、4速AT

■サスペンション・ブレーキ・タイヤサスペンション前後ともダブルウィッシュボーン式(独立懸架)

ブレーキ[2.0Si]:前ベンチレーテッドディスク/後ディスク[LXR-S/LX-S]:前ベンチレーテッドディスク/後リーディングトレーリング[LX/LXR]:前ディスク/後リーディングトレーリング

タイヤ「2.0Si」:195/60R14「LXR-S/LX-S」:185/70SR13「LX/LXR」:165SR13

1985年発売当時価格[LX]142万7000円 [LXR]163万7000円 [LX-S]163万2000円 [LXR-S]181万7000円 [2.0Si]207万円(東京地域標準現金価格、オートマチック仕様は+7万9000円)https://driver-web.jp/articles/detail/20340/https://driver-web.jp/articles/detail/19667/(まとめ●オールドタイマー編集部・上野)

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