2019/08/20 モータースポーツ

【インタビュー】勝田貴元、WRCのトップカテゴリーに初参戦! その胸中とは 

空力がまったく違う

TOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジプログラムの育成ドライバー、勝田貴元選手のWRC最高峰クラスデビューの日が、いよいよ目前に迫ってきた。8月22日開幕のWRC第10戦ラリー・ドイチェランドにて、いよいよトヨタの誇るワールドラリーカー(WRカー)、ヤリスWRCのステアリングを握ることとなったのだ。今年はR5マシンのフォード・フィエスタR5で戦うWRC2を主戦場とする勝田選手に、ラリー・フィンランドのレース後に、話をうかがうことができた。まず聞いたのは、R5カーとWRカーの違い、差についてである。「今年はフィンランド選手権でヤリスWRCに乗せていただいているのですが、まず大きいのは空力ですね。これはR5では味わったことのない感覚で、例えばヘアピンで感じているグリップ感からすると、全開では行けないだろうなというコーナーを、全開でいけちゃう。空力でクルマがもの凄く安定しているんです。それだけじゃなくダンパーやサスペンション、デフなど、あらゆる性能が格段に違います。エンジンのパワー差も大きくて、R5はどちらかというと限られたパワーをマネージメントしながら限界値で走るという感じ。一方、WRカーは限界値がとても高いので、どこまで踏んでいけるか、自分自身を信じていけるかということが重要になってきます」
●ヤリスWRC。空力パーツなど改造範囲はR5よりも広い

●2019年、勝田選手が駆るR5マシン、フォード・フィエスタ。ちなみにラリー・フィンランドのSS7(20.04km)では、ヤリスWRCを駆るラトバラ選手が9分45秒7のステージトップで走った。勝田選手は、同ステージで10分28秒0。その差は42.3秒もある
速度が高まるほどエアロパーツが効果を発揮して、強大なダウンフォースが生み出される。だからアクセルを戻すと曲がらないコーナーを、踏むと余裕でクリアできたりする。「このあたりは経験と、あとは空気を信じるしかない(笑)。見えないものですからね。ここにはサーキットで得た経験が生きていると思います。正直、僕はワールドラリーカーのほうが好きです。乗りやすいし、僕にも合っているなって」

レースの経験がWRカーに生きる

このあたりは、さすがFTRS(フォーミュラ・トヨタ・レーシング・スクール)を卒業し、全日本F3選手権などフォーミュラマシンでのレースを経てラリーに転向してきた勝田選手らしい。やはり、その経験はラリーでも有効なのだろうか。「そうした空力の件やスピード感はもちろんですが、200km/hを超えたところで千分の1秒を争って神経を研ぎ澄ませて、あらゆる情報を身体から入力を得て、次のラップに応用して行くとなると、感覚もデータもすごく大事です。走ってないときにどれだけデータを見て、頭でイメージを作って、セッティングをエンジニアと変更して…とやってきた経験は、今のR5になってどんどん生きてきています。この先WRカーに乗ったときには、きっとさらにそうなると思います」勝田選手がマシンのセッティングに求めるのは何だろうか。言い換えれば、どんなドライビングスタイルだと自分を分析しているのか。例えばTOYOTA GAZOO Racing WRTのドライバーでいえば、誰がもっとも近いのだろうか。「エンジニアに言われたのは、(クリス・)ミークさんとオイット(・タナック)さんの間ぐらいということでした。ヤリ-マティ(・ラトバラ)さんはどちらかというとリヤを使って走るスタイル。で、ミークさんはステアリングはすごい丁寧で、アグレッシブなスロットル操作で向きを変える。オイットさんはデータを見るとステアリングを結構小刻みに動かすんですが、アクセル操作が非常にうまいと言います。僕はちょうどその中間。コーナーによってはオイットさんのドライビングだし、コーナーによってはミークさんのようにステアリングが丁寧だって言われたので、その2人のセッティングから僕の方に美味しいところを取り入れつつ、いいところを探している段階ですね」

次ページ「ラリーを始めてからは、父をより尊敬するようになった」

父の言葉「ラリーは違うぞ」


ご存じの方も多いだろうが、勝田選手の父、勝田範彦選手は全日本ラリーで実に8度のチャンピオンに輝く名ドライバーであり、祖父の勝田照夫氏はやはり元ドライバーでラリー界の有力ショップ、ラックの創設者。つまりラリー一家の出身である。ラリー転向から4年。お父様と話す内容は、やはり変わったりしたのだろうか?「ラリーを始めてからは、より尊敬するようになりました。尊敬してなかったわけじゃないですよ!(笑) 最初、僕はつねに全開で頑張っちゃってクラッシュも多かったんですが、父から『ラリーは違うぞ』って言われて。その言葉の意味は、どんどんわかってきたと感じます。最初は理解できなかったんです。競技なんだから速く行けばいいし、クラッシュしても次繰り返さなければいいでしょって。でも、経験を積むごとに引き出しが増えて、クラッシュは減りました。ラリーはクルマを最後まで運ばないと結果が出ないし、認められもしないんです。父の偉大さ、よく感じられるようになりました」当然だがサーキットでのレースとラリーはまったく別物である。本来なら簡単に乗り換えられるものではないはず。それを克服してきた血筋云々という話ではなく、勝田選手の不断の努力の賜物だ。「ラリーは自分との戦いです。レースは相手が見えるので、いま自分が何番かとか抜けば1位になれるとか組み立てがしやすい。ラリーは基本的にステージ中はコドライバーの声に沿って全開で走る競技なので、自分が(周囲に対して)どれぐらいのペースで走ってるかわからないんです。レースだとミスしてもどれくらい離れたからどれくらいリカバリーすればいいというのがわかるんですけど、ラリーの場合はそれが見えない。自分が遅いと思ってたら意外に速いとか、速いと思ったらじつはすごく遅かったりといったことも結構多いんです。そこのメンタルコントロールが難しいです」そう、レースは1人で走るけれど、ラリーはコドライバーがいて2人で走る。これも大きな違いだ。かつて足立さやか選手は「ジョッキーと馬みたいな関係」と話してくれた。運転の仕方、考え方はレースとはやはり違ってくるはずだ。

自分を100%信じられるかどうか

「基本的にコドライバーが言ったことを100%信じて走らないと速く走れない。でも、どう見ても見た目には全開じゃないコーナーでは、最初は恐怖感もあって踏めなかったときもありましたが、今はコドライバーを100%信じて、何か起きたときはもう『そのときはそのとき』って、信頼して踏んでいます。ペースノートはレッキでドライバーが自分で言った言葉をノートに書いてもらったものを再度読み上げてもらっています。つまりコドライバーが読み間違えない限り、全開って言われたけど全開じゃなかった場合、それはドライバーのミスです。結局、自分を信じられるかどうかなんですよ」お話をうかがったラリー・フィンランドはリタイアとなったが、今年はWRC2で2勝目を達成。フィンランドラリー選手権にはヤリスWRCで出場し、すでに2勝をあげている。その好結果が、当初の予定にはなかったこのドイツ、そしてスペインでのWRカーのドライブに繋がったのだ。また、来年に向けてはさらに多くのイベントで、本格的にトップカテゴリーで戦うことになるというのが、もっぱらの噂だ。準備は整いつつある。「僕の目標は、2年後、3年後にまず優勝争いをする。そして3年後以降、4〜5年でチャンピオン争いをしっかりしていくことです。そうすることで日本全体でWRCが盛り上がってもらえるように。ドイツを、その第一歩にしたいと思います」2020年の日本での開催がほぼ決定と言われるWRCだが、TOYOTA GAZOO Racingや、ヤリスWRCの活躍はもちろん、やはり日本人ドライバーの存在こそ、人気の大きな起爆剤になるはず。いよいよやってきた勝田選手の“第一歩”、期待して見守ろう。
〈文=島下泰久 写真=TGR/島下泰久〉

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