2019/08/14 コラム

発売30年の節目に作業開始! “初代”A70スープラをレストアする 【第3話:フタを作る】

妄想に逃避したくなるほどの穴である

シトロエンDSを買った10年前、私はまだ独身で、いろいろイキリ立っていた。だだ漏れであった。わがDSはサスペンション、ブレーキ、ステアリングとあらゆるところから油圧オイルが漏れていたのだが、そのDSで地方取材に出かけるほど自暴自棄になっていた。身も心もすさんでいたのである。

それでも直し直しDSに乗り続けたウラには、いつか若いネエちゃんが隣に乗ってくれるのではないか? という淡い妄想があったからだ。しかしこのフランス車はじつに合理的に乗り手の夢想を否定し、どっかと腰を下ろして動かなくなった。破れたシートのボロを隠すカバーをせっかくドイツから直輸入したというのに……。

近々DSは手放すと決めた。そしてこのスープラには、もはやそんな妄想は抱いてない。今どき「僕さ、スープラ持ってるんだけどさ、乗ってみちゃったりする?」などと女を口説どいているのは昭和歴史博物館のマネキンくらいだろう。妄想も捨てた。現実世界を疾駆するために生まれた白い鬼神のごときGTマシン、コイツをひたすら直していくのだ。

目下の懸案は屋根のサビ穴である。最大幅12㎝、長さ40㎝──穴と呼ぶには大きく、長過ぎる。「玄関」とか「受付窓口」とか言いたくなるレベルだ。あるいはいっそ「特別会員様用キャバクラ無料入り口」だったら、どれほどよかったことだろう。そんな「たられば」に思いをつなぐことはよそう。このままじゃ助手席側が大量に雨漏りする。家人がずぶ濡れになるのは構わないが、もしうら若き美女が……おっと、いかんいかん……妄想は捨てたはずなのだが。


●とあるイベント会場で取材時に見かけたセリカリフトバック。ルーフに500円玉大の穴があるが、スープラに比べればカワイイもの!? オーナーさん、元気出して!!

●で、コチラは私のスープラ。意を決して穴を塞ごう。その準備にモールを引きはがしたら……

●例によってモールの裏側にはルーフ側の朽ちた鉄板が詰まっていました。

患部に合わせて被せ物を作っていく

前回、この大きなサビ穴をハサミでさらに切り裂いて腐食部分を除き、防錆塗料を流し込んだ。そのあとは「アルミホイル+ビニールテープ作戦」で応急処置をしたが、そろそろ本格的にケリを付けなくてはならない。ボディの穴を塞ぐにはいくつかの方法がある。薄板の溶接に自信がないならFRP樹脂を張るという方法もある。穴が小さいのならば、ガラスクロスを穴のウラから当てがって、上から直接パテを塗り込むという手もある。

DSのシャシーメンバーにあいた穴を塞いだときはちゃんと鉄板を溶接したが、このスープラのルーフは鉄板が薄いうえ、どこまでサビがはびこっているのかわかりづらい。しかも穴の面積は広大である。溶接は諦め、エポキシ接着剤とハンダで鉄板を接合することにした。


●事情を説明したら板金の名人が貸してくれた秘密兵器、通称「段付けプライヤー」。これがあれば鉄板に段差を付けることができ、そこに新規の鉄板を重ねれば、出っ張らないのだ。

●早速使ってみよう。穴のフチを道具の口ではさみ、ググッと握る。強く握らないと段は付かない。また、穴の奥に何かがあると段を付けられない。この道具で段が付けられなかった部分はウォーターポンププライヤーでなかば強引に曲げた。

●穴を塞ぐ鉄板を作る。まずは厚紙で型を。ルーフのフチにはモールが付く溝があるので折り曲げ部分がやっかいだ。

●バイスを使い0.5㎜厚のボンデ板を曲げていく。ヘタにハンマーで叩くとシワになってしまうので注意しつつ。

●ちゃんとした折り曲げ機が欲しいなぁ……

●ホイッ、何とか穴のフタができた!

●モールを受ける溝もしっかりと。
(文と写真●オールドタイマー編集部・甲賀)https://driver-web.jp/articles/detail/20905/

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