2019/07/22 コラム

【潮風吹きすさぶ過酷な離島のカーライフ】(1/3)クルマは極限までサビるとこうなる

四方は海。常に潮風が吹いている。新車もたちまちサビて朽ちるというそんな離島で、趣味のビンテージカーライフを実現することは可能なのだろうか。


●離島に趣味のクルマとして1970年式ダイハツ・ミゼットMP5を持ち込んだ田辺さん。

中からサビがやってくる

東京都大島町。伊豆大島は総面積約91㎢、島を周回する都道の総延長は約44㎞という伊豆諸島最大の島である。島への距離は東京から南に約120㎞に位置し、年間平均気温15℃ほどという温暖な気候も相まって1年を通じて観光客で賑わう。だが……

「新車でもほったらかしで乗っていれば、4~5年でボディに穴が開きます。ですから古いクルマを趣味にするなんで発想が、そもそも島の人にはありません」

そう語る田辺康男さんは、島内の公立学校に勤める。生まれ育った神奈川県横浜市でクルマ趣味を謳歌していた田辺さんは、島に赴任後もジムニーSJ10とスプリンター・トレノAE86を楽しんでいた。人並み以上に手入れをしていたつもりだったが、しかし、サビの進行が尋常ならざる速さであることにやがて気が付く。

「ジムニーもハチロクもそれなりに古いクルマだから、サビがあるのは仕方のないことだと思っていました。でも、あれほど速いサビ方は見たことがありませんでした」

頻繁にクルマを持ち込んでは修理を頼む田辺さんに、板金工場の店主は「島で古いクルマを楽しむのはナンセンス」と言った。最初のころはなんて意地の悪いことを言うのだろうと訝しく思ったが、やがてそれが皮肉でもなんでもないと理解するようになる。

「知り合いが買った新車が、本当に4~5年で朽ちてゆくのを見てしまったんです。それは青空駐車の足グルマでしたが、それにしても塗装があせるだけならまだしも、穴が開いてしまうんですから」

なぜ、それほどにひどいサビ方をするのだろう。

「島の風は1年を通して強い。“磯の香り”という表現がありますが、あれは空気中に塩分が含まれている証拠です。島では頻繁にそれが香ります」

部品取りとレストア予定だった2台のハチロクは、約2年の放置でフレームまでサビに浸され朽ち果てた。

潮風によるサビはここまでスゴい


●ボディが朽ち、その後、エンジンが落ちるという。ボンネットは強風でめくれ上がり、ヒンジがねじ切れた。

●Bピラーを突くと塗膜が割れて穴が開いた。内側からサビている証拠だ。潮風が内部に入り込んで、中から腐食するのである。

●リヤゲートのサビはハチロクの泣き所と言われるが、ここまでヒドいと涙も枯れる。ウインドウのウェザーストリップはまだ弾力が残っており、経年劣化よりもサビの進行が速いことがわかる。

●フレームまで浸食したサビ。

岸壁や波消しブロックに当たって粉砕した海水の微粒子が風に乗ってやってくる。それらはボディを包み、あるいは中に入り込み、時間を経て塩だけが定着する。それが湿気や雨に溶け、高濃度の塩水となってボディを内外から浸食してゆく。ある日、田辺さんがジムニーの運転席に着くと、室内のAピラー付け根の塗膜が膨らんでいるのを見つけた。そして、そこを軽く突いたらパリンと割れて向こう側が見えたから驚いた。

「内側から腐食しているとは……衝撃でした」

ここまでくるともはや板金修理云々という状態ではない。結局、後年ジムニーは廃車に。しかし、そうした経験を経たうえで、田辺さんはあえてミゼット購入に踏み切った。


●廃車時のジムニーSJ10。一見、クルマとしての形はしっかり保っているように見えるのだが……

●ドアパネルの戸袋付近に開いた大きな穴に注目してほしい。他にもパネルの継ぎ目や、「何でここが!?」といった場所まで腐食していたという。
(文と写真●オールドタイマー編集部)─この記事はオールドタイマー127号(2012年12月号)より抜粋・編集を行ったものです─https://driver-web.jp/articles/detail/19290/

RANKING